「あった! キリンとダチョウ!」

 なぜかこのキリンとダチョウだけ、違う種類の動物が同じ柵に囲われて描かれていた。

「ちょ、卓己。どいて!」
「な、なに? なんだよ、紗和ちゃん!」

 狭いベッドの下で、私はぐいと体を寄せ卓己を押しのける。

「だから、もういいから卓己は出てって!」
「もー。そんなこと急に、言わ、言われたって、狭いからすぐには、動けな、いんだよ」

 もぞもぞと体を動かしながら、それでも卓己は私と並んで、その絵が見られる位置まで体を移動させた。
その絵が描かれていたのは、ベッド足元の隅っこ部分だ。

「ここ、何かなってる?」

 私はベッドの床板をコツコツと叩いてみる。
特に変わったことはなさそうだ。

「なんでここだけ、キリンとダチョウが一緒なんだろう」

 卓己は可愛らしいその絵を見て、楽しそうに笑っている。
ゾウやライオン、イルカなど他の動物はみな、一頭ずつ1つの檻に入れられているのに、ここだけ不思議な二頭が並んで同じ檻に入れられている。
卓己はその感性に興味がわいたみたいだけど、私にとってそんなことは、今はどうでもいい。
ベッドの床板に仕掛けがないとなると、この絵が描かれた真下の床板か?

「ちょっと、早くどいてって」

 狭いベッドの下で動かなくなった卓己をぐいぐい押しのけながら、体を反転させ仰向け状態からうつ伏せになる。

「もう。やめてよー」

 絵の真下の板を調べ始めた私に、卓己は呆れたように言った。

「鍵を隠すとしたら、普通はマットレスの下とかじゃない? 隠すのも取り出すのも、出し入れしやすいし」

 ぱたりと動きを止めた私と、卓己の目があう。

「だと思うなら、さっさとどきなさいよ!」
「な、だ、だからそんなに、押さないでって!」

 ぎゅうぎゅうにもみ合いながら、ようやくベッドの下から這い出すと、千鶴と充さんが呆れたように見下ろしていた。

「二人とも、本当に仲良しなんですね」

 そう言った千鶴に、充さんは笑う。
私は絵の描かれていた辺りの、マットレスの隙間に手を突っ込んだ。

「あった!」

 手に触れた固い金属の塊を引き出す。
それはピカピカに輝く黄金の鍵だった。

「これだ!」

 鍵には細いチェーンがついていて、子供用のせいか大人には少し短いが、首からかけられるようになっている。
鍵の取っ手部分は大きなクローバー様に3つの円が繋がっていて、おとぎ話に出てくる魔法の鍵みたいだ。
赤や緑、青や白の、細かな宝石がちりばめられている。

「かわいい! 私にも見せて!」

 2本同時に見つけたうちの、1本を千鶴に渡した。
私は残ったもう一本の鍵の観察を続ける。
卓己は千鶴の手元をのぞき込んだ。

「きれいだなぁ! さすがカミル・ベッカーの作品だけはある」
「えっ、カミル・ベッカーが作ったの?」
「紗和ちゃんが見つけたんだ、お父さんの日記の中にそう書かれてあったのを。凄くきれいだよね」
「うわぁ! それを聞くと、持ってる手が震えてくるぅ!」

 鍵とチェーンの接続部分に、小さな板が取り付けられていた。
そこに細かな文字で『F↺ 1/4 3/4 1/2』と書かれてある。
これが解錠の秘密?

「わぁ。紗和ちゃん。この鍵、ここになにか書いてあるよ」

 私はすかさず、千鶴から卓己の手に渡った黄金の鍵を奪い取る。

「な、なんだよ、もう!」

 そこにはやっぱり『S↻ 1/2 1/4 3/4』と書かれてあって、間違いなく差し込む鍵穴と、回す方向、順番を示してる!

「やったぁ! これで謎が解けたぁ!」

 飛び上がって喜んだ勢いで千鶴に抱きついたら、思いっきりイヤな顔をされたけど、私は充さんを振り返る。

「充さん! ついに見つけましたよ!」
「うん。ありがとう」

 彼はとても楽しそうに笑ってくれた。

 だって今の私が見つけたって、とってもうれしいんだもん。
何も知らない子供たちが偶然こんな秘密の鍵を見つけたら、どれだけドキドキするだろう。
ベッドの下から突然現れた、黄金の鍵。
これからどんな魔法や冒険が待っているのか、それを想像しただけでワクワクドキドキして、絶対その日は一晩中眠れない。

「さぁ、灯台に向かいますよ!」

 私は誰よりも真っ先に、子供部屋を飛び出した。