蝉の鳴き声がした。その中に、ひぐらしの声を探す。

「ねえユーイチ。わたしたち本当に、テメさんの動画配信に協力するの?テメさんの歌ってるところをネットに上げたところで、まだ三歳の玲ちゃんがその動画を目にする確率なんて低いと思うけど」

 潮風と戯れる髪の毛を、耳にかけながらそう聞いた。
 仰向けのままそっと開かれたユーイチの目は、ジト目となってわたしに向けられた。

「……俺等がテメさんのために動くか動かないかって、それって確率の話なの?」
「はあ?そりゃそうでしょ。だって玲ちゃんに見つけてもらえない動画をアップしても、意味ないじゃん」
「そんなん、やってみなきゃわからなくね?もしかしたらたった一日で、玲ちゃんに見つけてもらえるかもしれないし」
「そうかなあ」
「そうだよ」
「ん〜。わたしはそうは、思わないけど」

 そんなわたしの見解に、ただでさえ半目だったユーイチの目が、さらに狭まる。

 視線を青空へと移したユーイチに続いて、わたしは海へ視線を投げた。

 慌ただしい波打ち際。ザザンザザンと絶え間ない音が響く。

「お前が言う『確率』ってのが、お前の中で一体どんだけのパワーを持ってんのかわかんねえけど、確率なんて所詮、あってないようなものだからな」

 波音を何度か耳にしていたら、そこにユーイチの声が重なった。

「確率がたったの1でも0、1でも、なにか起きる時は起きるし、起こらない時は起こらない」

 そんなん常識だろ、と言わんばかりの、自信に満ちたユーイチの表情。よいしょと砂浜から背を剥がした彼は続ける。

「詳しい事情は知らねえけど、とにかくテメさんは今、離れて暮らす娘の玲ちゃんに歌を聞かせてあげたいわけじゃん。だけどどこにいるのかはわからない。連絡もつかない。だったら確率云々言ってないで、やれることからやったほうがよくない?」