「ユーイチのお父さんが仕事で海外行ったのって、確かわたしたちが小学一年生の頃だよね?もう日本を離れて十年になるけど、いつ帰ってくるの?」

 昨日聞こうとして、忘れていた質問。
 それを問いかけてみたけれど、ユーイチはわたしが投げたクエスチョンに、同じくクエスチョンマークをつけて寄越してくる。

「覚えてるの、それだけ?」
「え、それだけ?」
「俺の父さんのこと、やっぱりそれだけしか覚えてないの?」

 それだけとはやっぱりとは、どういう意味合いを含んでいるのだろうか、と悩む間は、ほんの少し視線をずらし、わたしはユーイチの襟足が夏の風と遊ぶのを見ていた。

 飛行機が遠ざかり、エンジン音も段々と小さくなっていく。

「それだけって……ええと……」

 ユーイチが放った「それだけ?」という疑問符に、わたしは言い淀んでしまった。
 親しみやすいとかフレンドリーだったとかの他にもっと、具体的なメモリーを話してほしいということか。

 ジュースを買ってくれたとか、トランプをしたとかオセロをしたとか、ユーイチのお父さんとの思い出なんていっぱい思いつくけれど、ユーイチ的には、もっと違う思い出を聞きたいのかな。

 じゃあなにを話そう、と頭の中のアルバムを捲っているうちに、どうしてだかユーイチに諦められた。

「ごめん、やっぱいーや」