ちーちゃんの話から、いきなり切り替えられた話題。「もちろん覚えてるよ」と頷いて、わたしはほうじ茶をひとくち飲んだ。

「つい昨日、わたしユーイチのお父さんのこと思い出してたとこだもん」

 そう言うと、「え」とユーイチの横顔がこちらを向く。

「親しみやすいお父さんだったよね、ユーイチのお父さんって。とってもフレンドリーでさ、話しやすくって」

 ユーイチの家とは、今もだけれど、家族ぐるみで仲良くしていたから、わたしの病気のこともユーイチのお母さんお父さんは知っていて、家族三人でお見舞いに来てくれることもしばしばあった。

「わたし大好きだったよ、ユーイチのお父さんのこと。小さい頃からわたしのことを本当の娘のように可愛がってくれてたし、一緒にいて楽しかった」

 特に、あの夏。

 わたしが心臓の手術のために長期入院していた小学一年生の夏休みは、ユーイチのお父さんも頻繁に病院へと来てくれていて、「八月になったらしばらく仕事で海外に行かなきゃいけないから、今のうちにいっぱい和子ちゃんと会っておこうと思って」だなんて、嬉しい言葉もくれていた。

 その『しばらく』の期間を、わたしは勝手に数ヶ月程度かな、と思い込んでいたけれど、気付けば一年が過ぎ二年が過ぎ、そしてとうとう、十年という長い歳月が経過した。

 今思えば、ユーイチが時折空で飛ぶ飛行機を眺めるようになったのは、その夏頃からだったかもしれない。

 ユーイチはきっと、この広い大空へと発ったまま帰ってこないお父さんのことを恋しく思っているのだろうと、わたしは勝手に決めつけた。