『──!』
女の人の叫び声。逃げなくちゃ、あいつを、助けなくちゃ。
こっちに向かって来るその人から逃げる為に隣にいるあいつの手を掴む。
今度こそ、あいつと──

パンッ

衝撃の後に来た熱に思わず頬を抑える。
『──!何────、──は─────!』
『─────貴方のせいよ!』
『──、行くわよ』
ああ、また、あいつが、あいつが行ってしまう!
「───!」
思わず叫ぶ俺をほうを向いたあいつの顔を見て悟る。全てを諦めたような、その顔をさせないために頑張ったのに。ああ、やっぱり俺じゃダメなんだな。

もし俺じゃなかったなら、こんな事しなければ──


ジリリリリッ

けたたましく鳴るアラームの音に意識を引き戻される感覚。季節外れにじっとりとかいた汗と張り付いた服、まるで全力疾走した後のように忙しなく鼓動する心臓に今までのものが夢であると知る。
俺はまた、あいつを助けられなかったのだろう。
未だに夢に見るそれは中学生最後の夏のこと。俺のせいであいつを苦しめた、苦い記憶。黒歴史でしかないはずのそれを俺は6年近く経った今でも忘れることができずに、未練がましく夢に見る。そして毎回、助けられずに終わるのだ。もうあいつの顔も忘れてしまったはずなのに細かい所まで正確なそれはまるで俺を戒めるかのようで、お前は人を不幸に陥れた人間なのだと、それを忘れるなと主張してくる。
未だ落ち着ききらない鼓動に我ながら呆れつつ時間を見ると、もうそろそろ支度をしなければ二限の授業に間に合わない時間になっていた。
正直休んでしまいたい所だが、ここで落とすとあとから痛い目を見るのは分かりきっている。原因の分かりきっている不快感には目を背け俺は準備を始めた。