2007年5月8日に生まれた俺、藤野悠太(ふじのゆうた)は今日からK高校の一年生になる。この高校を選んだ理由はバス一本で通えて家から一番近かったから、それだけだ。
 入学から2週間が経ち、今日からは部活に参加することができる。俺は中学の時に陸上で県2位を取ったことがあって、陸上くらいしか取り柄がないから高校でも陸上部に入った。今日は顔合わせと種目決めをするらしい。今年の新入部員は俺を含めて5人、男女比は知らないけどあまり興味はなかった。うちの高校はあまり人気がなく、倍率が毎年0,5倍以下だから人数が少ないとは思わなかった。
「はじめまして、男子部長の田代海音(たしろかいり)です。で、こっちが女子部長の水谷桜楽(みずたにさら)だ。2年生がすごく多いから他の人の名前はおいおい覚えていってもらえればいいです。じゃあ、1年生は順番に自己紹介とやりたい種目、中学でやってた種目を教えて。」(田代先輩)
「藤野悠太です。中学の時は100と200をやってました。高校でも同じ種目をできたらと思います。よろしくお願いします。」(藤野)
「宮市叶翔(みやいちかなと)です。中学ではサッカー部でした。種目は短距離希望です。よろしくお願いします。」(宮市)
「里勇綾(さとゆうや)です。中学では宮市と同じサッカー部でした。種目は短距離がいいです。よろしくお願いします。」(里)
「矢田宏樹(やだひろき)です。中学ではラグビー部でした。種目は短距離希望です。よろしくお願いします。」(矢田)
今んとこ男子だけってことは女子1人か。可哀想だな。
「狩口愛佳(かぐちあいか)です。中学の時は部活はしてなかったけど、水泳とサッカーとバトミントンをしていました。種目は長距離希望ですけど、慣れてきたら短距離もやるつもりです。よろしくお願いします。」(狩口)

 俺たちが入部して1ヶ月がたった。3週間後には高総体だ。今日はその種目決め。
「共通の種目は2、3年が優先されるから各自で話し合ってね。狩口は好きなの出ていいよ。決まったら教えてね。」(田代先輩)
それだけ言い残して学年ごとに分かれて話し合うことになった。
「えーっと、それぞれ出たい種目ある?俺は100m出たいんだけど…」(藤野)
「俺は何でもいい。」(里)
「俺も、っていうか全員短距離で1種目3人までしか出れないし、全員は出れなくない?」(宮市)
「別に好きにして…」(矢田)
「私は好きなの出させてもらうけど、800mのつもりだよ。」(狩口)
「じゃあさ、俺と里と宮市が100mでいいか?それで、4人でリレーに出れば全員出れるよ。」(藤野)
「了解。」(藤野以外全員)
 なんとか、種目が決まってよかった。十人十色も程々にしてほしい。
「田代先輩、種目が決まりました。これでお願いします。」(藤野)
「おお、よかった。結構問題児揃いだから時間内に終わるとは思わなかったよ。すげえな。」(田代先輩)

 無事種目決めも終わり、本格的な練習が始まる…予定だった。
「おい、1年ー。先輩って呼べよー。」(問題児な先輩1)
「ギャハハハッ。」(問題児な先輩2)
ああ、いわゆる問題児ってやつか。腹立つなあ…。
「おい!シカトしてんじゃねえよ!」(問題児な先輩1)
「じゃあ、先輩らしい態度をしてみてください。」(狩口)
え?
「は?お前女子のくせに生意気なこと言ってんじゃねえよ。」(問題児な先輩1)
「生意気なのはどっちですか?そもそも、先輩とは尊敬する人に対して使う言葉であって、あなた方には尊敬できる要素がないので、先輩と呼ぶ気になりません。あ、それとも先輩って言ってもらわないと、自分達が他よりも下に見られて嫌なんですか。センパイ?」(狩口)
うわあ、すげえ煽ってる。馬鹿なのか、こいつ。
「ああ?お前ちょい面貸せや。(グイッ)」(問題児な先輩1)
あー、もう。ほんっとばっかなんじゃないの。
「先輩、年下の女子にそこまで言われてまでどうしてほしいんですか?俺は後輩なんで何言ってもわからないと思うので、田代先輩を呼んでおきました。ついでに顧問の先生も来ると思うので、一緒に話し合いませんか?」(藤野)
 その後、校長先生まで来て仲良く(?)皆で説教受けて今日は帰ることになった。
「ねえ、ありがとね。あの時助けてくれて。まあ、助けてくれそうだなーって思ったからカマかけに行ったんだけどさ。」(狩口)
は?全部こいつの手のひらの上かよ。腹立つわ。
「帰る。」(藤野)
「え!?ちょっと待ってよ、夕飯奢るからさ。」(狩口)
「いい。お母さんが作って待っててくれるし。」(藤野)
「お母さん…そっか。じゃあ仕方ないね。また明日!」(狩口)
雲ひとつない笑顔で俺のことを見送った狩口が、泣きそうな顔をしているように見えたのは、きっと気のせいだろう。