「さぁ、アリス!宴だ!」
通された宴会場には、頭領だと言う鬼たちと伴侶が揃っていた。やはり金雀児と白梅の姿はないが、頭領が8人揃っているので、無事に代替わりを果たしたのだろう。

頭領の中にはもちろん黒檀さんがおり、隣に烏木先生もいる。

「今回はアリスの誕生会も含まれている」
そう言えば……今年の誕生日は特に何もしていないかも。お兄ちゃんも出張だったからケーキも食べていないし……。

「だからアリスの兄とアンズも参加する」
「うん……!」
暫くすればお兄ちゃんとアンズさんもきてくれた。1ヶ月以上遅れたのは、多分暮丹がお兄ちゃんの復帰を待ってくれていたのかなって、思う。

「アリス~~~~!かわいい~~!最高にかわいい~~!」
お兄ちゃんったら……っ!?確かに、その、素敵な夕焼け色のお着物を着せてもらって、髪もアップにしているけれど。

しかしお兄ちゃんがいつものように飛び付こうとしたのでぐっと身構えれば。

「うぉらぁっ!!せっかくセットしたのに、着崩れるでしょうがっ!!」
「ぐぇっ!!?」
華麗にアンズさんがお兄ちゃんをヘッドロックでシメていた。暮丹もあれでシメられるんだ……。お兄ちゃんをシメられない訳がない。

と言うか、アンズさんは着崩れないのだろうか。シメても1ミリも着崩れていないアンズさんはまさに神秘で、お兄ちゃんもおとなしくなったようで何よりである。

そして、宴が始まれば各頭領さんと、伴侶の方が挨拶に来てくれた。

伴侶ーー花嫁さんは鬼だったり、妖怪だったり、人間だったり。頭領の伴侶の中で男性なのは烏木先生だけで、黒檀さんは頭領の中の紅一点であった。

「この間の宴にも烏木先生は来ていたの?」
そう言えばと思ったのだ。それならば烏木先生は白梅の祝言の宴の際に顔を合わせているんじゃないかって。

「その時の宴は、頭領のみの出席だったからねぇ。頭領の婚姻の報告のようなものだから、伴侶は参加しないよ。今回はアリスちゃんが長の花嫁になった祝いも含めているから、各頭領の伴侶たちも挨拶を兼ねた特別な宴さ」
ちょうど黒檀さんと烏木先生が挨拶に来てくれていたので、黒檀さんがそう解説してくれた。

「そう……なの?」

「そうだねぇ。まぁ最初は頭領だけの予定だったけど、烏木が参加するって言うから、みんな挨拶を兼ねて参加するって押し掛けたんだよねぇ」
え……っ!?

「だって、未成年に酒とか飲ませたら大変だろ。ただでさえお前ら、酒好きだし」
やはり鬼だからだろうか?でもそれを言うなら、烏木先生は神さまだし、お酒が好きそうなイメージがあるのだが。

そして暮丹の妻となっても、お酒はやはり二十歳になってかららしい。それはちょっと安心したし、烏木先生が気遣ってくれるのは嬉しい。

「……ヤタが、どうしてもって」
暮丹が恥ずかしそうに酒をすすっているのを見て……やっぱり暮丹もお兄ちゃんが好きなのかなと思う。うん、きっと。

「あと、お前、宴で戦々恐々としてたり、暴れたりすると、他の頭領から俺に苦情が来んだからな!?」
烏木先生が暮丹に抗議すると、暮丹はバツの悪そうな表情を浮かべ、黒檀さんははははと笑う。いつの間にか宴会場も笑い声に溢れている。

――――――楽しいな。

ほっとしながらジュースを口にしていれば。

「この度はおめでとう」
にこりと微笑む猫耳しっぽの男性。

「……?」
この、方は?

「師匠のヒト型だ」
「え……っ、猫神さま!?」

「そうだよ~、弟子をもらってくれてありがとうねぇ。にゃんっ!」
「ぎゃふっ!!」
あぁ、猫神さまのにゃん……かわいすぎるよぉ~~っ!

「ふふふ、かわいいこだねぇ。暮丹。それに、ねこが好き」
「当然だ!」
ふふんと得意気な顔をする暮丹が面白くて、ついつい苦笑してしまう。
もしかして暮丹がねこ好きなのは……お師匠さまの猫神さまの影響だろうか?

私とふたりで暮丹を囲うように腰をおろした猫神さまは、片手で盃を持ちながら、もう片方の腕でなでなでと暮丹を撫でる。

「にゃ~ん!」
そんな猫神さまに頬を赤らめる暮丹。かわいいなぁと思ってつい私も暮丹の髪に手を伸ばしていた。

「……アリス?」
ふと暮丹と目が合って、慌てて手を放せば、くすっと暮丹が微笑む。
そしてなでなでと私の髪を撫でてくる。

「ぼ、暮丹っ!?」
「ふふ、かわいいな」
「かわいいねぇ~、にゃぁん」
はうぅっ!!そんな言われても……っ。でもなんだか嬉しいような。

「ほら、アリスちゃん」
「誕生日ケーキだぞ~」
アンズさんとお兄ちゃんに声をかけられれば。お兄ちゃんの手にはケーキの皿が乗っていた。

「ケーキ!」
「誕生日だからな。遅れたけど!」
にこりと微笑むお兄ちゃんに、そう言えばこれも恒例だったと思い出す。

「猫神さまもいるから、魚型ケーキだって。魚は入っていないけど」

「厨房長のお手製よ」
洋菓子まで作ってくれるのか……!和食ばかりだったから驚いたけれど、でもありがたい。

お兄ちゃんが私や暮丹、猫神さまの御膳の上に並べてくれたのは、魚型のショートケーキであった。その後他のみなさんの御膳にも配られ……。

「うん、お魚大好きにゃぁ~」
魚は入っていないけれど、お魚型ケーキをはむはむ頬張る猫神さまに……。

『にゃふっ』
暮丹とにゃん萌えしたのは言うまでもない。もしかしたら、猫神さまからのサービスだったのかな……?

こんなに大勢に祝われる誕生会は初めてで。忘れられない特別な思い出になったのは……言うまでもない。


(完)