――――――あれから1ヶ月が経ち、私は平穏な学園生活を送っていた。そして同時にお兄ちゃんも完治したとのことで、私と暮丹に挨拶に来たのだが、何故かその横にアンズさんがいたのだ。
「まぁ、そんなわけで、アンズさんとの結婚を決めた」
「うん、イグリさんもここに住めば、アリスちゃんも一緒だしねぇ」
「そうそう!アリスともずっと一緒に暮らせる!」
「でも、アリスちゃんのシーツにくんくんは断固として許さないわ」
アンズさん……!
「そん、なぁっ!!」
崩れ落ちるお兄ちゃん。
アンズさんがお兄ちゃんをもらってくれて本当によかった。
「でも退魔師業は?どうするの?」
「必要な時は現し世に渡る。長の社から行けるようにしてもらったから」
そんな便利な方法が……!
「あぁ、言っておくがアリスは自由に行けないことになっている」
「何故!?」
「勝手に現し世に帰るだなんて、無理」
そう言って抱き付いてくるところは、相変わらずかわいいかも。
「でも、両親のことはどうする?アリスが会いたいなら考えるけど」
と、お兄ちゃん。何でもお父さんとお母さんは、白梅ではないトワナビミヤと言うひとの力で操られていたらしい。とりわけ霊力のなかったお父さんは、鴉木……烏木の血を引いていたけれどトワナビミヤの力に抗えずに操られてしまった。
けれど今はその洗脳は解けているそうだ。あの2人の祝言の宴のあと、暮丹が2人を外に連れて行ったのだけど、そこでもしやと思った暮丹が、白梅の周辺について烏木先生に洗脳の解除を頼んでいたのだそうだ。
退魔師協会を通じ、予防の札や方陣も用意した。お兄ちゃんの報告で怪しんでいたものの、その伴侶が元頭領と言うことでなかなか調査が進まなかったそうだ。むしろ鴉木の血を引いている退魔師以外は操られる可能性だってあった。そして退魔師が操られれば、情報漏えいや退魔師が鬼に取り込まれてしまうかもしれない。そう言うことでなかなか思うように動けなかったようだ。そしてまさか本当に退魔師協会の祖・烏木比売の敵だったとは。
しかし金雀児が長のーー鬼神の怒りを買い、そして私が暮丹の花嫁となったことで、形勢逆転。一気に白梅を追い詰めたのだそうだ。
「あのひとたちも、謝りたいとは言っているんだけど、操られているころの記憶もあるからね。錯乱することもあるそうだ。会うとしても落ち着いたら、になるが」
「……うん、もう少し考えさせて」
すぐに決めることはできない。
「ゆっくり決めればいい」
暮丹の言葉にこくんと頷く。
そしておもむろに暮丹が……
「そうだ、今日は師匠がくるのだった」
「師匠?」
ってもしかして……。
「ご隠居だ」
「それって……先代の隔り世の……っ」
「そうだ」
「猫の手の……?」
「猫神だぞ」
「にゃ……にゃんっ!!」
やっぱり……猫の、神さま!
「アリスのにゃんかわゆす……こほんっ。ヒト型もあるんだけどな。アリスはねこが好きだと情報を仕入れているからな。多分獣型でくる」
にゃ……にゃあぁぁぁぁ~~~~っ!?てことは、もふもふの、ねこちゃん!?
「もふもふくるにゃぁ~!」
「ねこがみさまにゃぁ~!」
「な~ぁん!」
廊下からはちびねこちゃんたちの声や、ねこたちの声が聞こえる。
「みんな、来るのを楽しみにしているんだ」
「……っ!うん、私も、楽しみ」
だって、もっふもふのにゃんこ……!
猫神さまは普段は広大な宮の一郭で長年親しんでいる巫女さんや神職、使用人たちと隠居しているそうだ。
アンズさんも元は猫神さまに仕えていた巫女さんなのだそうだが、暮丹が心配なのでついてきてくれたのだっけ。
そして宮の一郭で普段隠居している猫神さまは……たまに宮の中心……暮丹との生活スペースにも遊びに来てくれるのだとか。
そして、会いに来てくれた猫神さまは……。
「もふっ!!」
自らもふもふボディをすりすりしてくれる、2メートル級のにゃんこに萌えないはずがなかった。
しかも長毛種!しっぽももふぁさぁっ!!
この前のねこぱんちでは分かりづらかったが、ほんっと……にゃんもふ。
ちびねこちゃんたちやちびちゃんずはもちろわふかふかボディですやすや、猫又たちや、屋敷で働く猫妖怪たちはこぞって挨拶に来るようだ。
そうしてみんなにもふもふしてもらっても怒らない!むしろもふもふしてほしいと言うのは猫神さまご自身の希望だそうで……!
なんて……素晴らしいのだ、猫神さま。
もう、大好き。メロメロである。
途中ふゆなさんが旦那さんと来てくれたりして。
お兄ちゃんはアンズさんのお手伝いで猫神さまにお食事を出したりしていた。
私と暮丹は……仲良く猫神さま吸いをしている。さらには……烏木先生が黒檀さんと来てくれたりして、屋敷はいつも以上に賑やかであった。
「さて、今夜は宴だし、それまでゆっくりしてよう」
「……宴?また、頭領さんたちと?」
「あぁ」
「じゃぁ私はお留守番してるね」
「何を言う。アリスも参加するのだぞ」
「え……」
何故!?
「こうして師匠も来てくれたのだ。今夜は俺とアリスの婚姻を祝した宴だな……!」
「え……えぇぇぇぇぇ――――――――っ!?」
全くもって、寝耳に水であった。