「なんで、あんたがここにいるのよ!ここは鬼の頭領の花嫁たる私、永宮白梅のための学園!そのための学園に、お前のような悪女がいるなんてあり得ない……!金雀児に言ってすぐに追い出してあげる……!」
白梅が醜悪に嗤う。また、まただ……。私には醜悪に見えている。脅しの言葉を吐いているのに、周りは白梅が正しく、白梅の言うことが最上で、素晴らしい。私が悪、白梅を虐めている。そう認識するのだ。

――――――しかし。

「げっ、現れた!永宮白梅だ!」
「アリスちゃん、知り合いなの!?」
「こんなやつに関わっちゃだめだよ!」
しかしクラスメイトたちは思っても見なかった言葉を述べ、私を擁護してくれている?それに、白梅に明確な嫌悪感を抱いている。

たまに白梅を異常だと感知するひともいたけれど、ごくまれであり、こんなに束になって責められることなど、白梅にとってはあり得ないことのはずだった。

「な……何なのよ……っ!私の言うことに従わないなんて、許さない……っ!」

いつものようにならないことに、白梅がカッと目を見開き唸る。

「え、何こいつ、ヤバくない?」
「ほんと、頭大丈夫?」
「ほら、噂のコ」
「こっわぁ~!何あれ……」
気が付けば、クラスメイトたち以外からもそんな声が聞こえてくる。どういう、こと?

「永宮」
その時、烏木先生が立ち上がり、私と白梅の間に入るようにして、白梅を冷たい目で見やる。

あの目……そうだ、暮丹?あの時の既視感は……そうだ、暮丹だ。目の色は違うし、角も生えていないけれど、烏木先生はどこか暮丹と似ていると思ったのだ。

「せ、センセェ~~っ!」
白梅は、男にすり寄る時独特の気持ち悪い声を出して、烏木先生に近付く。

「鴉木アリスが私を虐めるのおぉぉっ!いいえ、中学の時からずうっとずうっと……。私の夫の金雀児にも相談しているのだけど、一向にやめないの……!最近ではもっと、まっと激しい虐めを繰り返して……っ!あぁ、酷い、酷い、酷すぎるうぅぅぅ――――――っ!!!」
そう言って白梅は、お兄ちゃん以外の男を誑かしてきた。まさか、烏木先生まで……っ!?どうしてか、暮丹と似ているからか、それを阻止したくて烏木先生に手を伸ばそうとした時だった。

「相変わらず、嘘にまみれている」
氷点下よりも冷たい声。

「は……?」
白梅は驚いたように烏木先生を凝視していた。

「まず、この学園では伴侶や婚約者が頭領であろうが、長だろうが、その権力財力を利用し、振りかざすことを禁じている。違反した場合は頭領であり学園長である黒檀から、相手の伴侶や婚約者への通告や罰が与えられる。その処分内容については、長、ほかの頭領にも共有されることになっている」

「え……何よ、それ!私の金雀児は現し世でも隔り世でも一番の頭領で……っ、私の金雀児に意見できるやつなんて、現し世にも隔り世にもいないのよおぉぉっ!!」
「それも嘘でぬったくったのか」
烏木先生の低く重みのある声は、どこか厳かで、そしてしっかりと魂に響いてくるような気がしてしまう。

「違う……!チガウ……!嘘じゃない……!うそ、嘘……?」
白梅がいつにもなく混乱している……?

「トワナビミヤ」

「……っ」
とわ、なびみや?前にどこかで……。そして烏木先生が言い放ったその言葉に、白梅が驚愕して固まる。

「な……なん、でっ、その名を……」

「分からないのか。なら、俺の名を呼んでみろ」

「……え、う、ぼく?ウボク……あ゛、ああぁぁぁぁぁああぁぁぁ――――――――っ!?」
突如白梅が錯乱したように崩れ落ちる。

「う……うぅ……ヤ、タ、……ウボク」
ヤタウボク……?それって確か……。
その時、白梅が烏木先生を見上げた顔に、カフェテリアが騒然となる。

「イヤアァァァァっ!?」
「何あれ!」
「恐い……」
「気持ち悪い……」
生徒たちが叫ぶのも無理はない。白梅の顔は今までの美しさの欠片もない。目から黒い液体を流し、そして顔がひび割れるようにしていくつもの黒い線がひしひしと覆っていく。

「俺の前で異能を使ったのが運のつきだったな。その前からいろいろと振り撒いていたようだが」
振り撒いていた……?

「なん、で、私のものに……この、学園もぉ……」
しわがれた声で泣く白梅に、かつての面影は既にない。

「バカか。この俺が学園にいる限り、トワナビミヤの力が使えるわけねぇだろ。何千年と経つうちに、お前も随分と愚かになった。お陰で捕まえやすくなってなによりだ」
「ひ……ひぃ……な……で、お前がここにイィィッ」

「そんなことも分からなくなった時点でお前は終わりだよ。まぁ嫁さんは教育者の観点から……と見ていたようだが、中身がお前なら、問題はない」
「ひ……い、ゃ……」

「ただの害悪ですらないお前が、俺にかなうと思うな。そして隔り世側に来てくれたことを嬉しく思うよ。やっと、俺もお前を裁ける」
「ひ……、ダマシタ……!ダマシタノカアァァッ!!!」
やっと裁けるというのは、どういう……?

「それは、お前が今までやってきたことだ」

「いやあぁぁぁっ!!ワタジワ゛……キレイ……キレイ、ウツクシイノオォォォ――――――っ!!」
既に何を言っているのかすら分からない。

「縛れ!」

その時、ここにいるはずのない声にハッとすれば、見慣れた赤髪が揺れる。え、まさか……!