――――――ハッとして、目を覚ます。今のは、何……?夢……?でも、どこか現実味を帯びている。
それにここは、どこかしら。私は金雀児の花嫁として隔り世に……。ここはその宮で……。
は……?
何よ、この廃屋は……。
まるで夢に出てきたボロ屋みたい……。いや……ここは……。
「私の……家?」
ちが……違う……!こんなところ、私の家じゃない!!
『あれだ、あの娘だ』
『鬼を使って親を始末した』
『強欲な娘』
「誰!?私を誰だか知ってるの!?私は鬼の頭領、金雀児の花嫁よ!」
『長の不興を買った』
『もう長くはない』
『長の加護なき頭領など、頭領ではない』
「おだまり!!」
さっきから、何なのよ。長って何?むしろそれは、現し世も隔り世も支配する金雀児のことでは……?それなら、金雀児のことなら、その花嫁の私も敬うべきよ!
ダンッと床を踏みつけると、小さな熊のぬいぐるみを踏んでいた。
糸がほつれて、綿が溢れだしており、布もボロボロだ。
「何よ、汚い!」
熊のぬいぐるみを蹴り飛ばし、私はこの不快なボロ屋を後にした。後で私に不敬を吐いたあいつらも、後で処分してやらないと!!
※※※
まずはどこに……そうだ、私のお城に戻らなきゃ!でもどうやって行くの?車が必要よね。
それじゃぁまずは学校ね。
学校に行って、教師に車を借りればいい。
「あっ、三枝木せんせぇ!実はぁ、私ぃっ!」
「……っ!?く、くるな!」
え、何で?何で私を拒むの?
「お前が、お前が苅田先生を……っ」
は?苅田?誰かしら。
「え、うそ。来てる」
「ねぇ、あのこ来てるよ」
「あのこのせいでしょ?林田さんが消えたの」
「たしか喜多野さんも……」
生徒がこちらを見ながらひそひそしている。
「あなたたち、私の言うことを聞きなさい!」
「は?何?」
「やだ、やっぱり頭いっちゃってるよ」
「ちょっと、恐いんだけど。ケーサツ呼ぶ?」
はぁ!?何を言っているの!?この私に……!!この私に何を言っているの!!?
「警察なんて呼んでも無駄よ!私のバックに誰がついているか知らないの!?いいから言うことを……っ」
「いいから、帰りなさい!」
突然、恰幅の良いおっさんが出てきた。
誰よあんた。こんなおっさん、知らない。私の周りには、見目麗しいボーイズしかいらないのよ。
「警察からは手を出すなと言われているがねぇ」
ほぅら!警察も私は特別扱い!
「君が万が一学校に押し掛けたら、通報してくれと言われている」
「は……?何で。私はここの生徒でしょ!」
「君はもう、転校したのではなかったのかね?」
そう言えば……嫁いだら私のための学園に通う予定だった……。ここは転校になっていてもおかしくはないわね。
「でも、もと生徒なんだから」
車くらい要求していいでしょ……そうおねだりしようとしたのだが。
「新発田先生は?勝間田先生はどこ?」
「もう既に、精神を病んで退職しているよ」
「な、何で」
「何で?全て君がやったんだろう!!」
な、何で私が怒鳴られないといけないの!?
私のお気に入りのイケメンで、あんなにかわいがってやったのに!
私に仕えることに嬉しくて泣きながら崇めてくれたのに!それがどうして精神を病んだって……、私に仕えて幸せの絶頂だったはずでしょ!?何よ、使えない!
私はあきらめて他を当たることにした。そうだ……アリスの両親がいる!
アリスとイグリは言うとおりにならなかったけれど、その両親なら……!
「おばさん、おじさん!こんにちは。白梅が来てあげたわよ」
アリスの実家のドアを叩いて叫べば……。
バンッと乱暴にドアが開く。
「きゃっ!?何をするの!?この私が来てあげたのに、不敬だわ!」
だけど、まぁ今は見逃してあげる!今はとにかく私の城に戻るのよ!
「ねぇ、車を出してほし……ぃっ」
ポコッ
バコンッ
がシャンッ
「いた……っ!痛いっ!何を……っ!?やめて、やめてよおぉぉっ!!」
いきなりいろいろなものが飛んでくる。靴から、スコップ、花瓶まで!?危ないじゃない!!
「この、化け物がっ!」
「あんたのせいで!あんたのせいでえぇぇっ!!私たちの娘がああぁっ!!」
な、何なの!?おじさんもおばさんも、私に嬉々として仕えていたのに、何でものを投げてくるの!?
「あぁ、アリス……私たちの娘……」
「お前のせいで、アリスを……私たちは取り返しのつかないことを……!」
そして泣き出すおじさんとおばさん。
泣いて私に仕えるならまだしも、何でアリスのために泣くのよ!あんたたちが泣くほど喜んで仕えるのは、この私でしょうっ!?
「……はぁ!?何を言っているの!あんな子、あんたたちの娘じゃないでしょ!名前も呼ぶなと言い付けていたはずでしょう!?命令を、聞きなさい!私を誰だと思っているのよ!!」
「お前が言うな!」
「私たちの娘を返して!」
ガンッ
バシャンッ
ガタンッ
「やだ……っ!痛い!痛い!!水をかけないでっ!いや、痛いいぃっ!!」
何よ、全然言うこと聞かないじゃない!ものを投げられるし、反抗するし!
もう、嫌だ、嫌だ!私は泣く泣くアリスの家を後にした。
どうして、こんなことに……っ!
そんなときだった。
「白梅」
「金雀児……っ!」
ちょうどいいところに来たわ!あなたが来たのなら、もう安心よね!
でもなぁに?頭に包帯を巻いて、頬と鼻に絆創膏だなんて、美しくないわっ!
私の隣に立つならば、常に美しい顔をしていなさいよ!
でも、今はとにかく……。
「さぁ早く!ねぇ金雀児!私をお城に連れて行って……!」
「その……白梅」
金雀児ったら、この私を前にしてどうしてそんなに落ち込んでいるの?あぁ、私のそばに入られなかったから、寂しかったのね!大丈夫よ!ほら、私に仕えているのだから、すぐに元気になるわね!
「……ん?」
可愛らしく首を傾げ、金雀児が今度は私に何を献上してくれるのかをドキドキしながら待つ。
「……隔り世へ、帰ろう」
「いいわよ!隔り世の宮殿、楽しみだわ!」
「……」
もう、現し世の人間どもが言うことを聞かないんだもの!イライラする!でも、隔り世に帰れば私はシンデレラ生活よ!私はわくわくしながら、金雀児と隔り世へと渡った。
――――――しかし、
「何なのよ、このボロ屋!」
「すまない……長の不興を買った私は……一門のものからここで謹慎を言い付けられている。頭領も……後任が決まったら降りることになっている」
「は……?頭領を、降りる?」
金雀児は何を言っているの?
金雀児は、頭領よ。私のために、隔り世と現し世位置の地位を築くのが役目でしょう!?
「そうだ。だから……隔り世で暮らす場所はこの小屋ひとつだ」
は……?こんな、ボロ屋で……?
「そんな……、そんなの嫌よ!い――――――や――――――っ!!!なら現し世に連れて行って!現し世の私のお城へ!お城へ連れて行ってえぇぇっ!!」
「そんなものは、……ないよ」
「は?何で……」
「現し世の事業はすべて失った……家財もすべて売り払った。残っているのは……君の、生まれた実家くらいだ」
「は……?それって、私のお城……」
「君が生まれたのは、古い木造の小さな家だろう。ワンルームで、個室もない」
え……?あ……?あの、家。あの、ボロ屋!?
「いや、いや……あんなの私の家じゃない!私のおうちはお城なの!」
「そんなもの、どこにもないよ」
「いやよ!そうだ、そのボロ屋に、私を悪く言う隔り世のものがいたの!ねぇ、そいつらをやっつけて!」
「無理だ」
「な、何で」
「私にはもう、鬼神の加護がない。当たり前だね。長の不興を買ったのだから」
「何よ、さっきから、長、長って!何さまよ!!」
「……神さまだよ」
え……?