私は永宮白梅。
幼い頃より絶大なる美に恵まれたお姫さま。私は美しく、そして気高く、すべての人間どもをすべる女王となる。
この優れた容姿に、みなが夢中になるのは容易いことだった。
私の輝かしい始まりは、小学4年の10歳の時、私は美しい鬼と出会った。
その名は金雀児。現し世にて絶対的な富と名声を誇り、そして隔り世では鬼や妖怪たちを取りまとめる頭領を務める美鬼。素晴らしい、素晴らしいわ!まさに私にふさわしい……!
そんな鬼の花嫁に選ばれた私の暮らしは一変した。広いお城のようなお家で使用人たちを統べ、ほしいものは何だって与えられる。美味しいものも、かわいいお洋服も、宝石だって!金雀児は何だってくれる。好きなものや、ほしいものは何だってあたえてくれるの……!
でも学校だけは庶民の行く学校だった。こんな学校、美しく、全てを持った私には全然ふさわしくない!それだけが不満だった。
16歳になれば素晴らしい、鬼の花嫁ーーつまりは私のために用意された学園に入れるそうなのだけど。
それまでは我慢って言われたの。私がいやだいやだとかわいくおねだりすれば、よく分からないテストとやらをたくさん受けさせられたの。
んもぅっ!こんなことやらずに、お金で解決すればいいじゃない!だけど教育関係は管轄外と言われてしまい、ダメだった。
だけどね、一般民衆の学校も悪くはないと気付いたの。
みんながみんな、私を特別扱いして、お姫さまのように扱ってくれるの。あぁ、美貌って、素晴らしいわね。もう、私が手に入れられないものなんて、ないんじゃないかしら?
あぁ、すてき。素晴らしいわ。金雀児。
……だけど、ひとりだけ私のものにならなかった人間がいた。それが、鴉木イグリ。
鬼の花嫁となれば、隔り世と現し世の間を取り持つ退魔師と出会うこともある。
その中で見付けてしまったの。
鴉木イグリ、あなたを私のものにするの!
どこかで何かが警鐘を鳴らしている。危険?恐ろしいもの?でも同時に……絶対に手に入れたいと溢れ出す激情の波が押し寄せてくる。
隠れて、成りを潜めていたその力。私の魅力。金雀児と言う隔り世と、現し世一の鬼がいれば、カラスキヒメなど恐くはない!恐れる必要なんてないのよぉぉっ!!
あれ……カラスキヒメって、誰だったかしら。忘れてはいけない、忘れられるはずのない、憎き相手……。
そのはず、なのに。誰……?まぁ、いいわ。とにかく今は……!
鴉木イグリを手に入れるのおぉぉっ!!
早速金雀児に頼んで、鴉木イグリを手に入れようとしたけど、ダメだった。彼は退魔師だから……?意味が分からない……!
全部私のものになるんじゃないの!?私は、鬼の頭領である金雀児の花嫁になる女!!
鴉木イグリが手に入らないなら、私は自ら手に入れに行ってあげる……。私は鴉木イグリが通う中学に編入した。
本当はイグリと同じクラスがよかったのに、教育関係では金雀児はよく動けないって……っ!私を花嫁にするのに……!
どうして、なんで、なんで!!
仕方なく1年生として学校に編入し、学校中を支配した。そして鴉木イグリに近付いたわ!
でもいつもならすぐに私のものになるのに……!!妹、妹言うだけで一向に私のものにならない!
だから鴉木イグリに近付くために、まずはしもじものものたちを従わせた。
あぁ、この感覚。知ってる。えぇ、知ってるわ。心地よいこの感覚は、いつぶりかしら。ずっとずっと、細々といきながらえながら、カラスキヒメから身を隠しながら、待っていたの。この時を。
イケメンは全員私のものになったし、教師も私に傅き、しもじもの生徒もみんな私のほしいものを貢ぐの!
時にはイケメンアイドルグループが欲しいと金雀児におねだりすれはわまるごと私のものにもしてくれたの!
だけどそれでも、イグリは私のものにならないの……!!
それならば!私と同級生だと言う妹も私の支配下なのだからいいように跪かせて……と思ったのだが、妹は、鴉木アリスは私の言うとおりにまるでならなかった。
何で……何で……!!手を回して、アリスを徹底的に虐めてやった。アリスの両親もアリスを虐待するよう仕込んだ。けれど何で!!アリスもイグリも言うとおりにならないのよ……!
そんな時、いい考えが閃いた。
「ねぇ、金雀児!実は私を虐めてくるコガいるの……鴉木、アリスよ」
そう、金雀児に訴えた。アリスは私の思いどおりにならない。思いどおりに動かない。それって、私の言うことを聞かない……つまり私を虐めているってことでしょう!?
私のことがなにより大事な金雀児は大激怒!早速アリスに制裁を加えてくれたの!アリスの両親の仕事に圧力をかけ、アリスを妖怪たちを使い脅かして恐怖に陥れてくれた!
これでアリスも言うことを聞き、イグリを手に入れられる!私は大満足だった。
――――――だから、
「金雀児っ!またアリスが虐めるの!そうだ、この間みたいに妖怪をアリスにけしかけて!次はもっとひどい目に合わせてやるの!」
「……それは、できない」
「なんで!!なんで!!なんでよおぉぉっ!!私がこんなに苦しんでいるのにいぃぃっ!!」
「あぁ、白梅……かわいそうな私の花嫁、白梅。分かった。分かったから。今度は、私が出よう」
「金雀児が!?」
私はぱああぁっと顔を輝かせた。
金雀児はアリスに直接制裁を加えてくれたの!だけど、どうして!?
アリスもイグリも、いつまで経っても私のものにならない!アリスの両親だって、生活は火の車のはずなのに……!なんでよおぉぉっ!!
だから再度金雀児に泣きついて、アリスがひどい虐めを繰り返していると泣いて泣いて、おねだりしたの。
そうしたら金雀児が、部下のとだても強い鬼たちを使って、アリスの狩りゲームをしてくれたの。泣いて走るアリスを見て、私は大満足!それに最後はアリスを辱しめて二度と外には出せなくしてくれるって!
――――――けれどその翌日もアリスは平然と学校に来た。
私は怒り狂って金雀児につめよった。
「ゆ……許してくれ。私の愛しい白梅……!どうか、今だけは……部下たちが、部下たちがぁ……っ」
「いいから、その部下たちを使って!アリスを!アリスを懲らしめてえぇぇ――――――っ!!!」
私は喚いた。泣いた。怒鳴り付けた。そうすれば金雀児は何でも言うことを聞いてくれるのだから……!
しかし金雀児は妖怪たちを使いアリスを脅かすだけ。
早くアリスを懲らしめて、イグリを手に入れたいのに……っ!!
私のイグリ!イグリ!イグリ!
どれだけ私があなたのことを思っていると思うの!?それはもう、ずっと、ずっと、昔から……。
昔って……いつからだっけ……?
――――――それでも、あなたは私に振り向いてくれなかった!弟を目の前で殺しても!あなたは私を愛してくれなかった……!
あれ……?弟……?私は何を言っているの……?イグリにいるのは、アリスと言う妹。憎き妹のアリスうっぅっ!!
だけど時間は悶々と過ぎていく。
むかつく!むかつく!むかつく!!
もうすっかり私の好みじゃなくなった、いらないものを痛め付け、動かなくなれば、新しく迎えたお気に入りのイケメンたちや、アイドルたちに片付けさせるの。
泣くほど、私に仕えるのが嬉しいのね。あぁ、素晴らしいわ。
そして転機と言うものはあるものだ。やはり神はこんなにも私を放っておかないのだ。
神にも愛されている私は、とてもステキだわ。美しい、私。愛される、私!
私はついに16歳となり、金雀児の、鬼の頭領の花嫁となったの。式は現し世で7日間に渡って盛大に行われる。あぁ、とってもステキ!私のために現し世の人間どもが跪くのよ?最高じゃない!どうしてこんなに昂るのかしら?やっぱり私が神に選ばれているからなのね。
そして現し世での鬼の祝言と言うこともあって、警備の退魔師も派遣されてきたの。私はもちろんイグリを指名した。あぁ、イグリ。私のイグリ!ついに私のものになったのね……!あぁ、愛しいイグリ!
それにこの式には取って置きの仕掛けも作っているの。7日間の式を終えて、私は嫁入りのために隔り世入りする。隔り世でも私の祝言が盛大に祝われるの。その舞台の裏で……アリスを殺すの。
鬼や妖怪たちをふんだんに使って、神隠しのごとく……。隔り世も、現し世も、もう既に全部私のもの。今ここに、イグリを手にした以上は、邪魔なのはアリスひとりだけ……!
あぁ、楽しみね。
私は金雀児と共に幸せの絶頂で隔り世入りを果たした。