その間にも屋敷内の修復が始まっていた。それにしても……暮丹は白梅や金雀児の嘘に騙されないとは思うけれど……やはり不安である。

「大丈夫よ。すぐ帰って来るんじゃない?やるときは徹底的にやるコだけど、アリスちゃんと一緒にいたいから、多分いつもよりも軽めにするんじゃないかしら」
わ……私と一緒にいたい……?
そして、その瞬間。

ひゅんっ

何もない空間に暮丹の姿が現れ、ひとりだけで帰ってきた。

「あの……あのふたりは?」
白梅と金雀児はどうなったのだろう?

「うむ、一発で動かなくなったからな。飽きた」
あ、飽きたんかい。私のこと以外飽き性なとこまでお兄ちゃんにそっくり……。ちょっと心配になってきた。

「い……生きて、るよね?」
一応生死は確認しなきゃ、今夜寝られない。

「あぁ、そうだな。昔、頭領の選出は面倒だと聞いたのを思い出したから、瀕死状態にとどめておいた。あと花嫁を喪うと鬼は狂うと呼ばれているから、罰を与えてやったかな」
罰……って一体何なのだろう。
……うーん。まぁ、生きてるなら良かった。生きていても害虫よろしいふたりだけど、死なれたらそれはそれで寝覚めが悪いもの。

あのふたりに関わらないで生きられるなら、それでいい。何より暮丹は、あのふたりに惑わされず、そして私を守ってくれたのだから。帰ってきてくれたのだから。

「さて、宴はしまいだ!お開きだな!」
そう暮丹が告げれば、琉架さんが頷く。

「えぇ、長を怒らせた訳ですから。みなさまも既にお開きモードです。ほかにやることもあるようですしね」
「ほかに、やること?」
ついつい琉架さんに問うてしまった。

「えぇ。あの金雀児さまの花嫁が、金雀児さまが現し世と隔り世で一番の権力者で財力を誇ると自慢したのです。それにほかの頭領さまたちが不気味な笑みをたたえていらっしゃいまして。恐らく明日の朝には、大逆襲が待っているでしょうね」
「大逆襲、ですか?」
隔り世では多分……暮丹の方が強いから、隔り世で一番と言うのは真っ赤な嘘だ。

それは金雀児が吐いた嘘のか、どうなのか。しかしあの白梅だ。金雀児が何を言おうが自分が一番である誇張のため、金雀児を担ぎ上げたとしても不思議じゃない。

そして金雀児は現し世でも権力を振りかざしていたけれど、違うのだろうか?

「現し世での鬼の事業と言うのは、頭領8人でバランスよく維持されております。ですので金雀児さまが一強と言うわけではありません。それなのにそんな自慢を、例え花嫁の口からと言えど出れば……その均衡を思いっきり崩してくるでしょうね。ほかの頭領たちが」
まぁ、金雀児の権力については、白梅が散々見せつけて、私も見せつけられた。
ほかの頭領たちも現し世で事業を持っていたのなら、今までその耳に入らなかったのが不思議なほどである。

「まぁ、長の前でそのようなことを言い、この場で長の不興を買ったと言うことも、あるでしょうが。あと、暮丹が本日は特に不機嫌でしたからね。暮丹の機嫌次第では他の頭領たちも考えたでしょうが……それでも、暮丹の不興を買ったので、頭領のみなさんは遠慮なくぶっ叩くでしょうね」
にこにこと告げる琉架さん。
つまり運が悪かったと言うことか。これほどの騒ぎである。もしかしたらほかの頭領たちも既にこの事態を掴んでいるのかもしれない。

まぁ、ことごとく金雀児と白梅の自業自得なので、同情はできないが。

「さぁ、もう一度お風呂入りましょっか。汚れちゃったものね~」
「……はい」
アンズさんに促されてお風呂で汚れや汗を落とした私は……お風呂からあがり、再び部屋に戻ってきた。

「あぁ、あがったか」
因みに暮丹もお風呂に入ってきたらしい。
私とちびちゃんたちと寝るなら入れとアンズさんから言われて。

それで渋々入った暮丹はやはり微笑ましいかわいさがあるかも知れない。そしてちびちゃんたちは……。

「小さい布団に寝かせた。朝になったらねこたちとまた潜り込んでいるだろうが」
並べられた小さめなお布団ですやすや眠るちびちゃんたち。ふゆなさんも手伝ってくれていたらしく、「あとはよろしくね~」と迎えに来た猫耳しっぽの旦那さんと帰っていった。ふゆなさんたちもこの屋敷の中に部屋を持っているらしく、他のちびちゃんたちのご両親もここに部屋を持っている従業員らしい。

そしてアンズさんがこしらえてくれたお粥や暖めなおしてもらった食事をいただいた。

おかずは暮丹にもお裾分けだ。暮丹も夜は枝豆だけのはずである。

「うまいか?」
「……うんっ」

そして食事を済ませて歯磨きも忘れずに。
まだまだ屋敷の中は広くて、暮丹について歩かないとまた迷子になりそうだ。

寝る前の準備を終えていざ……と言う時に、問題は発生したのだ。

「あの、私はどこで寝れば……?」
「ほら、早く来るがいい」
暮丹が示したのは、部屋の中でひときわ大きな敷布団。先程までちびちゃんたちがねこたちと寝ていたねこ柄布団である。

「夫婦なのだから、共に寝るのは当たり前だ。おいで、アリス」
そんな風に優しげに呼ばれたら……迷うじゃないか。でも、助けてくれたのも、信じてくれたのも暮丹なわけで。

そろそろと部屋の中に進み、布団の上へ、暮丹のとなりに腰掛ける。

「……そのっ」
「やはりかわいいな」
そんなことをさらりと言うのだから、戸惑う。

「お休み、俺の愛しいアリス」
そう言った暮丹が、頬に柔らかいものをくっ付けて……。えっ!?くっ付けて……っ!?今の、暮丹の唇では……!?と、言うことはキスでは!?

「なん……っ」
「照れるアリスもかわいいな」
うぐうっ!涼しい顔でそんなことをさらりと……っ!!こんな……こんなことされたら、眠れないじゃないかっ!

「どうした?」
その含んだ笑みは、確信犯なのか、どうなのか。反対向きに横になれば良かったと後悔しても遅い。何故か暮丹と向かい合う形で横になってしまう。そして毛布と掛け布団を掛けられる。

「お休み、アリス」
「……ぼ、たん?」
ドキドキしながら、その名を紡ぐ。

「あぁ、アリス」
鬼が、暮丹が嬉しそうに微笑む。うぐ……っ。ますます、寝られなさそうな……っ。

暮丹が先に瞼を閉じたので、私も瞼を閉じるが、暮丹が私の手を握っているので、さりげなく寝返りをうつのも無理である。暫く瞼を閉じていれば、胸元にもふもふの柔らかい感触が潜り込んできた。

「にゃん……もふっ」
その素晴らしい触り心地に和んでいれば、いつの間にか私は夢の中へと誘われていた。