「向日葵の花言葉って知ってる?」
何となく君に伝えておかなければならないことのような気がした。
「知らないや」
知的な君のことだから私の目を見て愛を囁いてくるものだと思ってた。
「"私は貴方だけを見つめる"って意味だよ」
君の代わりに私が目を見て言葉を紡ぐ。
「向日葵と君の相性はきっと抜群だね」
私がずっと君のことを好きでいるんでしょってことを言いたいのかな。

「私好きな人ができたの」
できるだけ落ち着いた素振りを見せるために普段は飲まないコーヒーを頼んでみた。
口に広がるこの苦味が私は苦手だ。
「そっか」
君の第一声はこれだった。なんだか笑えてきてしまって私の中の最後の区切りがついた。
きっとこの人は私のことを対して好きじゃなかったのだろうなと改めて思った。
君が私に背を向けた時、君と線香花火が落ちるまでの時間を競ったことをなぜか思い出して鼻の奥が痛くなった。

君と出会ったあの日に着ていたワンピースがあまり好みじゃなくなっていた。
勝負服だったはずなのに今の私には似合っていない。
ジーンズにラフなスウェットを着て外に出ると優しい風が吹いていてなんだか自分を肯定してくれているような気がして笑えた。
紅葉の葉はほとんど落ちていた。
君が私の家に泊まりに来た時の夜に寄った公園のベンチで暖かいココアを開ける。
サッカーボールのような模様の猫と目があって想い出の蓋が開かれる。
出会ったあの頃と違うことは君がいないことと外がこんなにも明るいこと、あと季節とか。
無意識のうちに君を思い出していることに恥ずかしくなった。
君のゆっくりと囁くような話し方と低い声と垣間見える無邪気な一面が大好きだった。
私はずっと子供っぽかった。
君はずっと大人っぽくて凹凸がはまった居心地のよさがあった。
後先考えずに行動するところとか、突拍子もないことを言う君が好きだと言ってくれたこと。
そんな時でもやっぱり私は子供で「なにそれ」とへらへら笑って返すことしかできなかったけれど、今ならそれが愛だとわかる。
今更気づくところが私らしいって、君らしいねって一緒笑ってくれる人はこの先いるだろうか。
ヘッドホンと耳の間にうまれる小さな世界に私は救われる。
"底の擦り切れたスニーカーを履いて歩こう。ありきたりなリズムにのりながら。
いつまでも引きずってるのはきっと私だけだから。
最後に一つ願いが叶うなら死ぬまでにもう一度君に逢いたい"
私の気持ちを代弁してくれるこのメロディーを、歌詞を、私が最初に作り出せたなら、有名になった私を君が迎えに来てくれたかも。
いや君はこんな音楽聴かないか。
私があの時カラオケで歌った歌をどこかで聴いて私を思い出せばいい。
そんなふうに君の日常に少しずつ顔を出したい。
座っていたベンチから腰を浮かせて短く息を吸った。
想いに耽けっている間に猫はいなくなっていた。
明日の空は何色だろうか。