芋餅マー油かけは、お父ちゃんにも好評だった。

 あんちゃんにも食べさせてあげたかったけど、王都に行ってしまった。帰って来たら食べさせてあげましょう。

 いつものように水汲みを終えたらタワシのエサ探しに出かけた。

 湿った石の下にいるってことなので探していると、すぐにナクスを発見出来た。

 ナイフで削った箸てナクスをつかみ、納屋にあった欠けた壺に入れる。

「虫とは無縁だったのに、全然気持ち悪いと思わないな~」

 これはキャロルの性格かしら? さすがに素手で触るのは元のわたしが抵抗している。まだキャロルと元のわたしが合わさっていないのね。

「ナクス、多すぎ」

 三十分もしないて壺いっぱいになってしまった。

 タワシに持っていき地面にばら撒くと、待ってん! とばかりにパクパクと食べ始めた。

「虫が卵になるって考えると気持ちが萎えてくるものね」

 前世の記憶があることの弊害ね。まあ、キャロルの食欲が強いので食べるんだけど。

 エサやりが終われば油を搾る道具を掃除する。

 道具と言っても樽と蓋、油を受ける皿くらい。案外、単純なのね。

 灰で樽の中を洗い、カビや雑菌を洗い落とし、終われば太陽の光がよく当たるところに置いて水気を切る。抗菌処理って出来ないものかしらね? 

「魔法で出来ないものかしらね? 抗菌の魔法! とかね」

 まあ、それは冒険者ギルドに行ってからのお楽しみね。

 背負い籠を持ってミロの実を採りに向かった。

「結構落ちているわね」

 質のいい油が安く手に入るようになってから誰も採らなくなった。そのせいか、熟したミロの実がたくさん落ちている。

「この世界、どのくらい発展しているのかしらね?」

 漫画の中では油は高いものと書かれていたのに、搾るのを止めるくらい安くなるって、機械化でもされているのかしら? それなら砂糖も安く出回っているといいんだけどな~。

 まあ、お金のないわたしには自作するしかないし、時間はたくさんあるのだから楽しみながらやるとしましょうか。

 学校もなく、家の手伝いもない。近所に友達もいないのだから手間など惜しむ必要もない。逆にやることがあって充実しているわ。

 落ちていたミロの実を選別。いいものを水洗いし、日陰で水を切る。お金を稼げたら布を買わないとな。

 一晩置いたらヘタを取っていく。量は少ないのですぐに終わり、実を切って樽に入れていった。

「半分も満たないわね」

 また集めてくるのも大変だし、これでやるとしましょうか。

 蓋を入れ、そこに石を乗せていくと、樽の下に空いた穴から琥珀色の液体がじんわりと出てきた。

「変な臭い」

 不快な臭いじゃないけど、いい匂いってわけでもない。体を洗ったり衣服を洗ったりするくらいなら問題ないわね。

 慣れたとは言え、水だけでは臭いは落ちず、髪のベタつきは流れてくれない。フケも結構出る。元の世界レベルは求めないけど、そこそこの清潔感は持ちたいものだわ。

 一晩放置すると、受け皿ギリギリまで溜まっていた。ざっと二リットルってところかしら?

「布がないから濾せないのが残念だわ」

 カスを取り、上澄みだけを掬って別の木皿に移した。

 大まかな石鹸の作り方は動画で観たけど、異世界の油で石鹸が作れるかは謎でしかない。小さいものが沈殿するまでしばらく放置することにしましょうか。

「樽、洗わなくちゃね」

 キャロルが体力あってくれてよかった。これ、十歳の女の子がやる作業量じゃないわよ。

 片付けするだけで夕方までかかってしまい、空腹で目が回りそうだわ。

「あ、芋餅がいっぱいだね」

 一回も様子を見にこなかったのはこのせいだったのね。

「わたしも作ってみたんだよ。美味しかったからね」

 だからって作りすぎじゃない? 夕食では消費し切れない量だよ。今のわたしなら半分はイケそうな気がするけどね。

「そう言えば、砂糖ってある? 甘いヤツ?」

「よく砂糖なんて知ってたね」

「市場で聞いた」

 って言っておく。あそこなら聞いても不思議じゃないでしょうからね。

「まあ、あるにはあるけど、小瓶一つで銀貨五枚もするよ」

 さすがに砂糖は高かったか。まあ、あるのならよし。一から作るよりお金を稼いだほうが楽だわ。

「お、今日も芋餅か。こりゃいい!」

 お父ちゃんが畑から帰ってきて、食卓に積まれた芋餅に喜んでいた。すっかり芋餅に魅了されたみたいね。

「マー油を作りたいんだけど、構わないかい?」

「おー構わん構わん。こんな美味いものが食えるなら多少の出費くらいなんでもないさ。明日の昼に包んでくれ」

 お金の管理はお父ちゃんがやっているんだ。うち、かかあ天下じゃないんだね。

「マー油って作るのにお金がかかるの?」

「まーね。貴重な材料を使うから金がかかるんだよ」

 簡単に作れるものじゃないんだ。それなら味噌、作っちゃおうかな? 大まかな作り方はおばあちゃんが教えてくれたし。

「そういえば、キャロは油を作っているのか?」

「うん。石鹸を作ろうと思って」

「石鹸? お前、作り方なんて知ってんのか?」

「簡単にだけどね。昔、誰かから聞いた」

 家族以外の人とも会っている。力業で納得させておこう。

「まあ、最近、石鹸も安くなったみたいだしな。作り方が広まってんだろう」

 ありゃ、石鹸まであるんかい。知識チート出来ないじゃん。まあ、わたしツエェーをやりたいわけじゃない。わたしは普通の異世界転生をさせてもらうわ。