貸してくれた部屋は二人部屋で、陽当たりのいいところだった。
「何だか悪いわね」
「バイバナル商会としてはそれだけキャロを囲っておきたいんでしょう」
「わたし、そこまで価値があるのかしらね?」
そこまでバイバナル商会に利益をもたらしているとは思えないんだけどね。重要なことは秘密にしてるだしさ。
「あると思っているからこんな部屋を与えたんでしょ。キャロは気にならないの?」
「別に。わたしたちはまだ子供だし、後ろ盾がないと好きなことも出来ないわ。自由にさせてくれるバイバナル商会には感謝しかないわ」
悪どい商会なら自由を奪い、低賃金で働かせているところだわ。けど、バイバナル商会はそんなことしない。こうして冒険にも出させている。優良商会が後ろ盾になってくれるのなら喜んで利用されるわ。
「そういう割り切ったところがあるわよね、キャロは」
「大事なことを優先するならどうでもいいことは割り切らないとね」
前世で早く死んだからかやりたいこと優先で、どうでもいいことはほんとどうでもいいのよね。名誉も功績も欲しいのならくれてやるわ。まあ、お金は必要なのでしっかりいただきますけど。
「大事なことを優先しすぎるのもどうかと思うけど」
「そうね。逆に大切なものを蔑ろにしているように見えるわ」
え? そうなの?
「何事もほどほどがいいものよ。あちらを立てればこちらが立たずと言うでしょ」
いや、それはまた違う意味じゃなかったっけ?
「……つまり、どうでもいいことにも目を向けろってこと……?」
「どうでもいいはさすがに言いすぎだけど、余裕を持て、ってことよ。人生、急いだからって望む人生になるとは限らないわ。歩いてこそ見える世界があるからね」
猫に人生観を諭される人間《わたし》。まあ、何度も生まれ変わっていれば悟ることもあるんでしょうよ。
「そんなことよりお腹空いた」
まだ十二歳には人生論は早かったわね。いや、わたしも人生がわかるほど生きてないけど!
……ちなみに夏にはわたしも十二歳になりますよ……。
ダミーの荷物を部屋に置いて部屋を出て、またサービスカウンター的なところにいたクルスさんに出掛けることを伝えた。
「誰か案内を付けますか?」
「いえ、大丈夫です。探索しながら見て回るので」
「そうですか。必要なら声を掛けてください。いつでも人を出しますので」
「そのときはお願いします。では、暗くなる前には帰って来ますね」
「はい。気を付けて」
クルスさんに見送られておお店を出た。
今日はバイバナル商会の周りと主要な場所を探索することにした。
大きな町とは言え、商業施設はそう多くない。と言うか、三大商会がある場所が商業区の中心であり、商店街通りが二本あるだけ。一時間も歩けば大体把握してしまった。
「人が多いだけに食べるところが結構あるわよね」
「美味いものばかりで腹一杯になったよ」
屋台もあったので気になったものを買って食べていたらさすがのティナもお腹が膨れたようだ。
「ティナはまだまだね。ちゃんと計算して食べないとダメよ」
ルルの胃に計算とか関係ないでしょ。もうティナの倍は食べているじゃないのよ……。
わたしはティナの三分の一も食べてないけど、もうお腹一杯よ。紅茶を飲んで休みたいわ。
紅茶は高価なので売っているところはない。この時代はまだ喫茶店とか生まれてないのかしら?
「この時代に噴水とかあったのね」
カルブラには噴水があり、水場が結構あった。地下水が豊富な土地なのかしら?
澄んだ水だけど、水が違うとお腹を壊してしまうもの。ヤカンで水を汲み、携帯コンロで沸かして紅茶を淹れた。
広場でそんなことしているのはわたしたちくらいだけど、奇異な目で見られることもない。無関心なのかしら?
「食べ物屋さんが多いところよね」
「いいところだわ。次は何を食べようかしら?」
まだ食うんかい。その小さな体のどこに入るよ? ブラックホールでも飼ってんの?
「それだけ食材が豊富ってことよね。ここならソースとか作れそうね」
小麦粉を水で溶いて野菜を入れて焼いたものがあった。ソースはワインを使ったデミグラスっぽかったけど、方向性は同じなはず。お好み焼きを作れるかもしれないわね。
「帰ったらクルスさんに厨房を借りれないか訊いてみようか」
「それはいいわね。帰るときの分も忘れないでね」
ほんと、よく食べる猫だこと。
「あ、パンを買っておかないと。もうないんだったわ」
一人と一匹がよく食べるからもう在庫切れなのよね。滞在中もよく食べそうだからいろんなパン屋で買ってみるとしましょうか。
「パン屋、どこかしら?」
そう言えば、パン屋は見なかったわね。町の人、どこで買っているのかしら?
「あっちから匂ってくるわね」
あなたの嗅覚どうなってんのよ? 犬か。
「パンの香りが結構強いわね。まだ焼いているのかしら?」
パンは朝に焼いて売り切る感じだ。長持ちするパンはそれから焼くらしく、昼前には終わって明日の仕込みをするって聞いたことがあるわ。
とりあえず、匂いがするほうへ向かった。
「何だか悪いわね」
「バイバナル商会としてはそれだけキャロを囲っておきたいんでしょう」
「わたし、そこまで価値があるのかしらね?」
そこまでバイバナル商会に利益をもたらしているとは思えないんだけどね。重要なことは秘密にしてるだしさ。
「あると思っているからこんな部屋を与えたんでしょ。キャロは気にならないの?」
「別に。わたしたちはまだ子供だし、後ろ盾がないと好きなことも出来ないわ。自由にさせてくれるバイバナル商会には感謝しかないわ」
悪どい商会なら自由を奪い、低賃金で働かせているところだわ。けど、バイバナル商会はそんなことしない。こうして冒険にも出させている。優良商会が後ろ盾になってくれるのなら喜んで利用されるわ。
「そういう割り切ったところがあるわよね、キャロは」
「大事なことを優先するならどうでもいいことは割り切らないとね」
前世で早く死んだからかやりたいこと優先で、どうでもいいことはほんとどうでもいいのよね。名誉も功績も欲しいのならくれてやるわ。まあ、お金は必要なのでしっかりいただきますけど。
「大事なことを優先しすぎるのもどうかと思うけど」
「そうね。逆に大切なものを蔑ろにしているように見えるわ」
え? そうなの?
「何事もほどほどがいいものよ。あちらを立てればこちらが立たずと言うでしょ」
いや、それはまた違う意味じゃなかったっけ?
「……つまり、どうでもいいことにも目を向けろってこと……?」
「どうでもいいはさすがに言いすぎだけど、余裕を持て、ってことよ。人生、急いだからって望む人生になるとは限らないわ。歩いてこそ見える世界があるからね」
猫に人生観を諭される人間《わたし》。まあ、何度も生まれ変わっていれば悟ることもあるんでしょうよ。
「そんなことよりお腹空いた」
まだ十二歳には人生論は早かったわね。いや、わたしも人生がわかるほど生きてないけど!
……ちなみに夏にはわたしも十二歳になりますよ……。
ダミーの荷物を部屋に置いて部屋を出て、またサービスカウンター的なところにいたクルスさんに出掛けることを伝えた。
「誰か案内を付けますか?」
「いえ、大丈夫です。探索しながら見て回るので」
「そうですか。必要なら声を掛けてください。いつでも人を出しますので」
「そのときはお願いします。では、暗くなる前には帰って来ますね」
「はい。気を付けて」
クルスさんに見送られておお店を出た。
今日はバイバナル商会の周りと主要な場所を探索することにした。
大きな町とは言え、商業施設はそう多くない。と言うか、三大商会がある場所が商業区の中心であり、商店街通りが二本あるだけ。一時間も歩けば大体把握してしまった。
「人が多いだけに食べるところが結構あるわよね」
「美味いものばかりで腹一杯になったよ」
屋台もあったので気になったものを買って食べていたらさすがのティナもお腹が膨れたようだ。
「ティナはまだまだね。ちゃんと計算して食べないとダメよ」
ルルの胃に計算とか関係ないでしょ。もうティナの倍は食べているじゃないのよ……。
わたしはティナの三分の一も食べてないけど、もうお腹一杯よ。紅茶を飲んで休みたいわ。
紅茶は高価なので売っているところはない。この時代はまだ喫茶店とか生まれてないのかしら?
「この時代に噴水とかあったのね」
カルブラには噴水があり、水場が結構あった。地下水が豊富な土地なのかしら?
澄んだ水だけど、水が違うとお腹を壊してしまうもの。ヤカンで水を汲み、携帯コンロで沸かして紅茶を淹れた。
広場でそんなことしているのはわたしたちくらいだけど、奇異な目で見られることもない。無関心なのかしら?
「食べ物屋さんが多いところよね」
「いいところだわ。次は何を食べようかしら?」
まだ食うんかい。その小さな体のどこに入るよ? ブラックホールでも飼ってんの?
「それだけ食材が豊富ってことよね。ここならソースとか作れそうね」
小麦粉を水で溶いて野菜を入れて焼いたものがあった。ソースはワインを使ったデミグラスっぽかったけど、方向性は同じなはず。お好み焼きを作れるかもしれないわね。
「帰ったらクルスさんに厨房を借りれないか訊いてみようか」
「それはいいわね。帰るときの分も忘れないでね」
ほんと、よく食べる猫だこと。
「あ、パンを買っておかないと。もうないんだったわ」
一人と一匹がよく食べるからもう在庫切れなのよね。滞在中もよく食べそうだからいろんなパン屋で買ってみるとしましょうか。
「パン屋、どこかしら?」
そう言えば、パン屋は見なかったわね。町の人、どこで買っているのかしら?
「あっちから匂ってくるわね」
あなたの嗅覚どうなってんのよ? 犬か。
「パンの香りが結構強いわね。まだ焼いているのかしら?」
パンは朝に焼いて売り切る感じだ。長持ちするパンはそれから焼くらしく、昼前には終わって明日の仕込みをするって聞いたことがあるわ。
とりあえず、匂いがするほうへ向かった。