持って帰ろうとしたけど、さすがに大きな狼だったから腿も大きかった。とても持って行けるものじゃないから食べることにしたわ。

「ルル。ちょっと手を貸して」

「にゃ?」

 手を? と自分の前足を見た。いや、比喩的表現だよ。

「結界でこの肉を包んで。下はちょっと空間を作ってね」

 水があれば血抜きが出来るんだけど、小川程度の水じゃ時間が掛かり過ぎる。ここは遠心力で血を抜くとしましょうか。

 木の枝に吊るしたモモ肉に結界を纏ってもらい、自動で回るように別の結界を纏わせてもらった。

 地面に円を描くように回してもらうと、血が空けた空間に溜まり出した。

「結構抜けてないものね」

 一回水で洗ったんだけどね。もうコップ一杯分の血が溜まったよ。

「……そんな血抜き法があったんだ……」

「あ、単なるわたしの思い付きです。本当に血が抜けるとは思いませんでした」

 ってことにしておきましょう。本当は重力結界とか作って欲しいけど、概念もない猫に教えるのが面倒だ。遠心力で血抜きを行いましょう。

 三十分くらい回すと、コップ四杯分は溜まった感じかな? まずはこんなもので焼いてみましょうかね。

 Yの字の枝を見つけて来て焚き火の端に刺し、モモ肉を木の串に刺して火に掛け、ウルカと塩を掛け、焼けてきたら油を塗ってさらに焼く。

 一時間くらい弱火で焼いていると、なかなかいい感じの匂いがしてきた。

「香草とか欲しくなるね」

 この世界にはどんな香草があるのかしら? あったらカレーとか作ってみたいわ。わたし、カレーって小さい頃に甘口のしか食べたことないのよね。味も微かにしか覚えてないわ。

「こんなものかな?」

 二時間くらいでいい焼け具合になった。

 表面を切って試食。どちらかと言えば鶏肉寄りかな? 悪くはないけど、そう好んで食べる肉じゃないわね。

「ティナ。切り分けてくれる? 中をもうちょと焼きたいから」

 サナリクスの面々も食べたいって顔をしている。狩ったのはそちらなんだから好きなだけ食べてください。

「なかなか美味いじゃないか!」

「狼の肉、結構臭かったのにね」

「やはり血抜きが大事なんだろうな」

 サナリクスの面々には好評のようだ。ルルもティナもモグモグ食べている。そんなに美味しいのかしら?

 わたしの舌も贅沢になったものよね。このくらいの味では満足できなくなっているんだからね。

 十五キロはあったモモ肉も六人+一匹の胃に消えてしまった。どんだけ食べるんだか。

「……もう動けない……」

 でしょうね。腹八分って言葉ないのかしら?

 もう狼もおらず、ルルが結界を張ってくれているので皆ダラケ切っている。

「お嬢ちゃんは何をしているんだ? 食べないのか?」

 奥の肉を剃り落として火で炙っていると、アルセクスさんが尋ねてきた。

「お酒のおつまみになるものを作っているんです。わたしはそんなに食べないので大丈夫なんです」

 普通にカツサンドを一つ食べたら充分だし、わたしは美味しいものを少しずつたくさん食べたい派なのです。

「酒のつまみか。さっさと仕事を終わらせて酒を飲みたいよ」

 どうやらアルセクスさんは飲兵衛さんのようだ。

「山葡萄のお酒って飲んだことあります?」

「ああ、よく飲むよ。その鞄はどのくらいの容量があるんだ?」

「いろいろ入れているのでどのくらいとは言えませんが、感覚で言うなら荷馬車二台から三台分ですかね? ただ、空間に余裕がないと奥に入れたものは出ないです。六割くらいで止めておくのが使いやすいですよ」

 必要なものを念じると上がってくる感じで、物が多いと出て来ない感じなのよね。次はそこも考えて付与しないとダメよね。

 剃り落とした肉を食べてみると、あまり味は感じない。味付けしないとダメな感じね。

 鞄から壺を出して剃り落とした肉を入れた。

「ルル。これに結界をお願い。空気が入らないくらいしっかりとね」

 あ、結界があれば真空にも出来るんじゃない? 今度試してみようっと。

「キャロルはおもしろいことを考えるんだな。どこで学ぶんだ、そういうの?」

「お城です。わたしたち、お嬢様のお友達係として働いてましたから。そこでいろんな人から教えてもらったり、本を読ませてもらいました。まあ、一季節だけだったので大した知識は学べませんでしたけどね」

 一年いられたら魔法のことも学べたのに残念だわ。

「キャロは元々頭がいい。ボクはまったく学べなかったし」

「ティナはお嬢様の運動係だったじゃない。わたしは勉強係よ」

 お嬢様も運動は必要で、走ったり縄跳びしたりに付き合うのはティナのほう。乗馬も少しやったみたいよ。

「お友達係って、貴族の子弟がやるものじゃないか?」

「お嬢様は賢い方だったので、見合う者がいなかったそうですよ」

「それでお嬢ちゃんか。凄く納得だな……」

 わたしは辛うじて前世の知識があり、漫画や小説、動画なんかを観ていたから付き合えただけ。何の知識や教養もなかったらローダルさんの目にも止まらなかったでしょうよ。

「やることは終わったので、わたしは先に休ませてもらいますね」

 この中でわたしがお荷物。明日のために体力回復しないとね。