納屋に置かれた藁の束を抱え、家に戻った。
家には作業用の部屋があり、お母ちゃんがここで藁を編んだりしている姿が思い出された。
今さらながらうちは農家と川で漁をして生きているみたいだ。
どちらもお父ちゃんがやっており、継ぐほどでもないからあんちゃんは荷馬業をやっているみたいだ。
お母ちゃんも畑は収穫のときに手伝いに行くくらいで、普段は内職をやっている。
その一つが藁編みだ。
縄や蓙、袋など、藁でこんなに作れるんだと感心してしまうわ。藁、万能すぎ!
「じゃあ、教えるよ」
藁の束を木槌で叩いて柔らかくし、水で浸した。
「まずは母ちゃんがやってみせるからよく見てな」
って言うけど、上手すぎて何をどうやっているかさっぱり。速すぎるって!
「まずは一本ずつ編んでみな。失敗しても釜戸で燃やすから気にしなくていいよ」
それならと藁を一本ずつつかんで編んでいった。
「……上手く編めない……」
これでも自分の髪を三つ編みに出来たのに、藁二本編むことも出来なかったわ。
「やっていれば嫌でも出来るようになるよ。母ちゃんもそうだったしね」
やって覚えろか。厳しいものだ。けど、学校に行くわけでもなければ仕事が多いってこともない。近所に同年代の子供がいないので遊ぶこともない。時間はたっぷりあるのだから練習あるのみだ。
不安だったものの、やれば不思議と出来るもの。一時間もやれば二本編みをマスターしてしまった。キャロル、あなたやれば出来るじゃないのよ!
「不器用かと思ったらそうでもなかったんだね」
たぶん、キャロルは根気がなかったんだと思う。わたしの中で面倒臭いって気持ちがあるからね。
前世のわたしにも根気があったかはわからないけど、器用に動いてくれるこの手がおもしろい。不器用どころか器用だわ、キャロルって。
二本編みの次は二本に増やして編んでいき、これは十分もしないでマスター出来た。
「キャロ、あんた凄いわね。これなら縄を売りに行けるのも早いかもしれないね」
「売る? わたしが売りに行くの?」
「ああ。十歳なら市場に場所を構えられるからね。まあ、縄はそれほど高くは売れないけど、よく使うものではあるからすぐ売れると思うよ」
それはいいわね。たくさん作ってたくさん売っちゃおうじゃないのよ!
「わたし、いっぱい作るよ!」
「アハハ。たくさん売れたら肉を買っていいよ」
おー! お肉買っていいんだ。断然、やる気が漲ってきたわ! わたし、やるよ!
それからわたしは藁を編みまくった。
本当にキャロルは器用であり、編めば編むほど技術が向上していき、四日もすれば目を閉じてても編めるようになっていたわ。
「いや、あんた編みすぎだよ! 納屋の藁なくなっちゃうよ!」
編みに編んでいたらお母ちゃんに止められてしまった。え?
「なに? せっかく乗ってたのに」
「なにじゃないよ! 編みすぎだよ! 藁は他にも使うんだからそのくらいで止めておきな!」
「え? わたし、そんなに使った?」
「使っているよ。まったく、あんたの集中力、どうなってんのよ? 変なものに取り憑かれたんじゃないだろうね?」
ギクッとしたけど、わたしはキャロル。ただ、前世の記憶を思い出しただけだ。
「変なの? 変なのがいるの?」
そう言えば、ここがどんな世界かわかってない。幽霊とかオバケとかいる世界なの? 魔法なら大歓迎だけどさ。
「いや、たとえだよ」
なんだ、いないのか。それは残念。ちょっと見てみたかったわ。前世じゃ幽霊もオバケにも出会えなかったしね。
「ハァー。こんだけになるとあたしの作業も出来ないよ。明日、市場に売りに行くよ」
お、さっそく行けるのね。
「これ売ったら肉買える?」
「肉は猟師が狩ってくるから運だね」
畜産はやってないってこと? いや、出来ないってことなの、か?
お母ちゃんに尋ねたら家畜を営む家はあるみたいだけど、食用ではなく毛を取るための羊とチーズを作るための乳牛だそうだ。
……よかった。ここ、平和な村っぽいわ……。
漫画や小説のように魔物犇めく異世界とか、今のわたしには難易度高いわ。前世じゃほぼ寝たきりだったんだからね。
ただ、旅はしてみたいかな? せっかく健康な体で産まれたんだからね。
「縄は適当な長さにして丸めておきな」
丸太に縄を巻いて束ねる。二十メートルくらいでいいかしら?
「お母ちゃん、ハサミってないの? 毛を切ったほうがすっきりすると思うんだけど」
「ハサミは高価で一つしかないからね、キャロはこれを使いな」
と、古びた鉈を渡された。
「マグスのお下がりだよ。砥石もあるから手入れして使えるようにしな」
鞘から抜いたらサビサビだった。
小枝切りに鉈を持ったことも砥石で研いだ記憶もある。このくらいのサビサビならわたしでも取れそうだわ。
縄を束ねたら鉈を持って井戸に向かい、砥石を使ってサビサビを落としていった。
「やっぱりキャロルって器用だわ」
完全にサビサビは取れなかったけど、なかなかいい感じに研げたと思う。これなら薪でも一刀両断出来そうな気するわ。
「刃物を持つと何か強くなった気がするから不思議よね」
これはキャロルの感覚かしら? 怠け者だけど、変に活発なところがあったみたいね。
「お母ちゃん。試し切りしたいんだけど、何かないかな?」
「それなら納屋の後ろの雑木を切っておくれ」
「わかった!」
ふふ。今宵の斬鉄剣は一味違うぜよ。
家には作業用の部屋があり、お母ちゃんがここで藁を編んだりしている姿が思い出された。
今さらながらうちは農家と川で漁をして生きているみたいだ。
どちらもお父ちゃんがやっており、継ぐほどでもないからあんちゃんは荷馬業をやっているみたいだ。
お母ちゃんも畑は収穫のときに手伝いに行くくらいで、普段は内職をやっている。
その一つが藁編みだ。
縄や蓙、袋など、藁でこんなに作れるんだと感心してしまうわ。藁、万能すぎ!
「じゃあ、教えるよ」
藁の束を木槌で叩いて柔らかくし、水で浸した。
「まずは母ちゃんがやってみせるからよく見てな」
って言うけど、上手すぎて何をどうやっているかさっぱり。速すぎるって!
「まずは一本ずつ編んでみな。失敗しても釜戸で燃やすから気にしなくていいよ」
それならと藁を一本ずつつかんで編んでいった。
「……上手く編めない……」
これでも自分の髪を三つ編みに出来たのに、藁二本編むことも出来なかったわ。
「やっていれば嫌でも出来るようになるよ。母ちゃんもそうだったしね」
やって覚えろか。厳しいものだ。けど、学校に行くわけでもなければ仕事が多いってこともない。近所に同年代の子供がいないので遊ぶこともない。時間はたっぷりあるのだから練習あるのみだ。
不安だったものの、やれば不思議と出来るもの。一時間もやれば二本編みをマスターしてしまった。キャロル、あなたやれば出来るじゃないのよ!
「不器用かと思ったらそうでもなかったんだね」
たぶん、キャロルは根気がなかったんだと思う。わたしの中で面倒臭いって気持ちがあるからね。
前世のわたしにも根気があったかはわからないけど、器用に動いてくれるこの手がおもしろい。不器用どころか器用だわ、キャロルって。
二本編みの次は二本に増やして編んでいき、これは十分もしないでマスター出来た。
「キャロ、あんた凄いわね。これなら縄を売りに行けるのも早いかもしれないね」
「売る? わたしが売りに行くの?」
「ああ。十歳なら市場に場所を構えられるからね。まあ、縄はそれほど高くは売れないけど、よく使うものではあるからすぐ売れると思うよ」
それはいいわね。たくさん作ってたくさん売っちゃおうじゃないのよ!
「わたし、いっぱい作るよ!」
「アハハ。たくさん売れたら肉を買っていいよ」
おー! お肉買っていいんだ。断然、やる気が漲ってきたわ! わたし、やるよ!
それからわたしは藁を編みまくった。
本当にキャロルは器用であり、編めば編むほど技術が向上していき、四日もすれば目を閉じてても編めるようになっていたわ。
「いや、あんた編みすぎだよ! 納屋の藁なくなっちゃうよ!」
編みに編んでいたらお母ちゃんに止められてしまった。え?
「なに? せっかく乗ってたのに」
「なにじゃないよ! 編みすぎだよ! 藁は他にも使うんだからそのくらいで止めておきな!」
「え? わたし、そんなに使った?」
「使っているよ。まったく、あんたの集中力、どうなってんのよ? 変なものに取り憑かれたんじゃないだろうね?」
ギクッとしたけど、わたしはキャロル。ただ、前世の記憶を思い出しただけだ。
「変なの? 変なのがいるの?」
そう言えば、ここがどんな世界かわかってない。幽霊とかオバケとかいる世界なの? 魔法なら大歓迎だけどさ。
「いや、たとえだよ」
なんだ、いないのか。それは残念。ちょっと見てみたかったわ。前世じゃ幽霊もオバケにも出会えなかったしね。
「ハァー。こんだけになるとあたしの作業も出来ないよ。明日、市場に売りに行くよ」
お、さっそく行けるのね。
「これ売ったら肉買える?」
「肉は猟師が狩ってくるから運だね」
畜産はやってないってこと? いや、出来ないってことなの、か?
お母ちゃんに尋ねたら家畜を営む家はあるみたいだけど、食用ではなく毛を取るための羊とチーズを作るための乳牛だそうだ。
……よかった。ここ、平和な村っぽいわ……。
漫画や小説のように魔物犇めく異世界とか、今のわたしには難易度高いわ。前世じゃほぼ寝たきりだったんだからね。
ただ、旅はしてみたいかな? せっかく健康な体で産まれたんだからね。
「縄は適当な長さにして丸めておきな」
丸太に縄を巻いて束ねる。二十メートルくらいでいいかしら?
「お母ちゃん、ハサミってないの? 毛を切ったほうがすっきりすると思うんだけど」
「ハサミは高価で一つしかないからね、キャロはこれを使いな」
と、古びた鉈を渡された。
「マグスのお下がりだよ。砥石もあるから手入れして使えるようにしな」
鞘から抜いたらサビサビだった。
小枝切りに鉈を持ったことも砥石で研いだ記憶もある。このくらいのサビサビならわたしでも取れそうだわ。
縄を束ねたら鉈を持って井戸に向かい、砥石を使ってサビサビを落としていった。
「やっぱりキャロルって器用だわ」
完全にサビサビは取れなかったけど、なかなかいい感じに研げたと思う。これなら薪でも一刀両断出来そうな気するわ。
「刃物を持つと何か強くなった気がするから不思議よね」
これはキャロルの感覚かしら? 怠け者だけど、変に活発なところがあったみたいね。
「お母ちゃん。試し切りしたいんだけど、何かないかな?」
「それなら納屋の後ろの雑木を切っておくれ」
「わかった!」
ふふ。今宵の斬鉄剣は一味違うぜよ。