この世界で真の仲間と出会えたからハッピーエンドを目指します!

 つい美味しくて十個も食べてしまった。うぷっ。

「これじゃ動くまで時間がかかりそうだわ」

 野宿するのはいいけど、これからだと大して採ることもできないうちに野宿の準備になっちゃうでしょうよ。

「マコモをたくさん採れたし、ポロプはいいんじゃない? どうしてもってんならマコモを売って買えばいい」

「買ってくれる人、いるかな?」

 この辺で食べないなら買ってくれないんじゃないの?

「他所から来る行商人なら買ってくれるんじゃない? 地回りの行商人じゃなければマコモのことは知っているはず」

 なるほど。自分たちで採るだけが入手方法じゃないか。ポロプを採りに来た人たちだって労力以上のお金を払えば売ってくれるでしょうよ。自給自足なんて出来ないんだからね。

「今から帰れば夕市に間に合うと思う」

 夕市か。わたしはまだ行ったことないけど、マーチック広場で夕方から始める市を夕市と呼ぶってお母ちゃんが言ってたっけ。

「じゃあ、そうしようか。もしかしたら帰る馬車があるかもしれないしね」

 来たときに乗せてもらったおじさんが言っていたっけ。

 野宿する広場に戻ると、運がいいことに帰る馬車があったので、お昼に食べようと思ったお弁当と交換で乗せてもらえるよう交渉した。

「構わないよ。忙しくて食べる暇がなかったから大助かりだ」

 なんでも夕市に出すために買い付けにきたおじさんのようで、マーチック広場まで乗せてってもらえた。

 おじさんはお弁当に喜んでくれ、機嫌がよくなってか、馬車のことを訊いていたら扱いを教えてくれた。

 馬は慣れているようで、わたしが手綱を握っても暴れることもなく、わたしの言うことを聞いてくれた。

「上手いじゃないか。嬢ちゃん才能あるぞ」

 なんてお世辞でもなんか嬉しいものね。鼻歌を歌いながらマーチック広場まで操らせてもらった。

「ご苦労様。ありがとね」

 馬の顔を撫でてやると、ぶるると鼻を鳴らして頭を擦り付けてきた。可愛いじゃないの。

「おじさん、ありがとね」

「ああ。行商人を捜しているならあそこに行ってみるといい。今なら酒でも飲んでいると思うぞ」

 時刻はたぶん夕方の四時くらい。まだ明るいけど、あと一時間もすれば暗くなるでしょうね。そのせいか、今がピークって感じだ。

 どんなものを売っているか見たいけど、今はマコモを売るのを優先するとしましょうか。

 行商人がいるという場所は屋台で、農民とも村人と思えない服装の男の人たちがお酒らしきものを飲んでいた。

「誰に声をかける?」

 ティナにそう問われて言葉に詰まらせてしまった。誰にしようか?

 なんだか気持ちよく飲んでいるところに声を掛けるってのも気が引けるし、誰が買ってくれるかもわからない。人のよさそうなのは誰だ?

「キャロ。マコモを焼けば人が集まってくるんじゃない?」

「おー! 確かに。匂いで誘っちゃいましょうか」

 そうと決まれば竈のあるところで火を焚き、マコモを串に刺して焼いた。

 たくさん食べたから食欲は湧いてこないけど、やっぱりいい匂いをさせるキノコよね。なぜ食べられなかったか不思議でたまらないわ。

 そんな匂いに釣られてか、若いお兄さんがやって来た。

「いらっしゃいませ。お一ついかがですか? 銅貨二枚でいいですよ」

「なら、一つもらおうか」

 躊躇いなく頼んだってことは、このお兄さん、マコモを知っていると見た。

「ありがとうございます! ここの人はマコモを知らないみたいだから嬉しいです」

 こちらはマコモの価値を知っているぞって臭わせた。

「へー。マコモを知っててこの値段かい」

「知らない人に高値をつけても仕方がありませんからね。知ってもらうための宣伝ですよ」

「君は賢いんだな」

 おっと。確かに九歳の女の子が言うことじゃなかったわね。

「エヘヘ。そうかなぁ~」

 ここは照れておこう。謙虚に出るのはさらに墓穴を掘りそうだからね。
 
「はい、どうぞ」

 お兄さんから銅貨二枚を受け取り、いい具合に焼けたマコモを渡した。

「あー美味い。久しぶりに食ったよ」

 知っているのに久しぶりってことは高くて食べられなかったってことかな?

「もう一つくれ。いや、五つくれ」

「はい、ありがとうございます」

 マコモはまだ焼いているので、焼けた順に渡していった。

 お兄さんが食べる姿と匂いに釣られてか、他の人も集まって来てしまった。

 わたしは焼くのを担当し、ティアにはお会計をお願いした。

 次から次へと集まってくるお客さんを捌き、背負い籠に入れた分がすべて売れてしまった。これならマコモの美味しさが知れ渡ることでしょうよ。

「嬢ちゃん。マコモはまだあるのかい?」

 他の人たちがいなくなると、お兄さんがそんなことを尋ねてきた。あ、行商人に売るのが目的だったんだっけ!

「はい、まだあります。欲しいなら明日持ってきますよ」

 このお兄さんなら買ってくれそうなので正直に答えた。どのくらいあるかは秘密だけど♥

「では、お願いするよ。おれはローダル。流れの行商人だ」

「わたしは、キャロルです。こっちはティアです」

 これから何かとお世話になるローダルさんとの出会いだった。
 次の日、マーチック広場にくると、入り口の前にローダルさんが馬車の御者台に座っていた。

「おはようございます!」

「お、来たか。おれが世話になっている店に行くとしよう。荷台に乗りな」
 
 ってことで荷台に乗り込んだ。

 知らない人について行っちゃダメと教育されたけど、ティナがいるので問題ナッシング。わたしは迅速に逃げさせてもらいます。

 ローダルさんが世話になっているお店はなかなか立派なお店で、いろんな人が出入りしていた。

「ここはバイバナル商会って言って、王都に店を構える大商会だ」

 王都がどんなもので、どれほど離れているかわからないけど、この店構えからしてかなり大きな商会ってのはわかった。

 馬車は大きな門を潜り、五十メートルほど進むと、広場に出た。

「市場みたいですね」

「まあ、そのようなものだな。行商人がバイバナル商会で取り扱っている品を買ったり、行商人がバイバナル商会に売ったりする場所だ」

 そんなところになぜわたしたちを連れてきたのかしら? ここでないと売買が出来ないってことなの?

 ここの人なのか、ローダルさんが声を掛けると、なにか札を渡された。

「場所を借りる札さ。これがないとここを使えないのさ」

「お金が掛かるんじゃないですか? 場所代みたいな」

「もちろん掛かるが、バイバナル商会の保証札があれば品に信頼が生まれる。その分、下手な品を扱えば干されるがな」

 そんなところにわたしたちみたいな子供を連れてきていいの? それともローダルさんにそれだけの信頼があるってことかしら?

 屋根のある一角に馬車をとめ、商会の人が馬を外してどこに連れていき、荷台は四人掛かりでバックで屋根の下に入れた。

 ……随分と至れり尽くせりなのね……?

「ローダルさんって偉い人なんですか?」

「何でそう思うんだ?」

「誰もローダルさんに声を掛けないし、ローダルさんの邪魔しないよう動いていたので」

 まるでお側使いが動いているようだったわ。

「なかなか観察眼がいいんだな。実は、とある大商会の跡取り息子なのさ」

 直感的に違うとわかった。商人らしからぬ態度だもの。

「……お貴族様なんですか……?」

 この世界の貴族がどんなものかわからないので、お貴族様と言っておいた。

「本当に凄いな。どこでわかった?」

 マジか! この国の貴族は自由に出歩いたりするの?

「ほぼ直感です」

 細かいことを上げればいろいろあるけど、考察する前に答えが出ちゃった感じだ。

「……そうか。だが、今は流れの行商人。そう思って欲しい。おれが何であれ行商人として生きているからな」

 きっと、こういうのを触らぬ神に祟りなしって言うのね。

「わかりました。そう思って付き合わせてもらいます」

「フフ。本当に賢い嬢ちゃんだ。んじゃ、商売といこうか。マコモを売ってくれ」

 ティナが背負っている籠を地面に置いてもらった。

「こちらとしてはマコモは貴重ということしか知りません。相場も知りません。幾らで買ってもらえますか?」

 正直、金貨二枚で売れるとは思わないし、買ってくれるとも思わない。一つ銅貨五枚として百個近いから五百枚。銀貨だとどうなるかわからないわ。

「銀貨二十枚と言ったところだな」
 
 五百を二十で割ると二十五か。中途半端だから銅貨二十枚で銀貨一枚って見ておくのがいいでしょうね。

「わかりました。それで売ります。ただ、金貨だと使い難いので銀貨十枚分は銅貨でいただけますか?」

「嬢ちゃんは計算も出来るんだな」

 その計算は数字の計算ではなく、損得を考えての計算でしょうね。

「後ろ盾がないわたしたちですからね。自分の身を守るためにもローダルさんが儲けてください。金貨をもらっても使いどころもありませんから」

 きっと安く叩かれているんでしょう。けど、それはわたしたちのためでもあるんじゃないかしら? まあ、銀貨二十枚でもとんでもない金額なんでしょうけど。

「そこまで考えられるか。想像以上に賢いことだ」

「賢いと言うより世間知らずなだけですよ」

 それを補えるのは商売相手がどんな人かを見極めること。甘い言葉を言ったり騙したりしないかを、ね。

「表面的なことしか見えませんが、ローダルさんはそう悪い人には見えません。信頼や信用を大切にするんだと思います」

 目的のためなら、って但し書きが続きそうだけど。

「フフ。なかなか厳しい商売相手のようだ」

「信頼には信頼を。信用には信用を。それが商売で大切なことだと思っているだけですよ」

 ウソをつく商人は三流だ。騙す商人は二流だ。信頼出来る商人は一流だ。信用出来る商人は超一流だ。って、前世で読んだラノベに書いてあったわ。

「おれもそう思っているよ。嬢ちゃんとはいい商売が出来そうだ」

「そう出来るよう努力させてもらいます」

 籠をつかみ、ローダルさんの前に置いた。

「マコモは濡れた葉の中に入れて、陽に当たらないようにすれば二十日くらいは新鮮さを保てますよ」

「そうか。では、代金を持ってくる。少し待っててくれ」

「はい。あ、ここを見て回っても構いませんか? どんなものがあるか知りたいので」

「邪魔にならないようにするなら問題ないよ」

「ありがとうございます。邪魔にならないよう約束します」

 一礼し、ティナの手を取って走り出した。
 コンミンド伯爵領は小さい領地かと思ったけど、バイバナル商会を見ると、そこそこ大きい領地なんじゃないかと思えてきた。

「商人って結構いるんだ」

「そうだね。それだけ伯爵様が有能なんだろうね」

 これだけの商人が集まるんだから商売が上手くいっているってことでしょう。わたしたちだって飢えることなく毎日食べられているんだからね。

 いろんなものが取引され、珍しいものがたくさんあった。その中には砂糖(黒い塊だけど)や香辛料的なもの。酢やみりんなどもあった。

「これなら麹とかありそうね」

 味噌を作るには麹が必要だったはず。自分で作ろうと思ったけど、売っているなら買ったほうが早いわ。なんでも作っていたら時間がいくらあっても足りないし。

 一通り回り、元の場所に戻ってきたらローダルさんも戻っていた。

「何か欲しいものはあったか?」

「はい。砂糖が欲しいですね。あと、麹、豆を発酵させたものがあれば手に入れたいですね」

「随分と変わったものを欲しがるんだな」

「そうですか? 美味しいものを食べるには必要なものですよ」

「まあ、確かにそうだな。調味料類がほしいなら商会を回ってみるといい。この札を見せると相談に乗ってくれるだろう」

 赤い字で書かれた札を渡された。これは?

「バイバナル商会が出している取引札だ。信用の証でもある。持っていろ」

「いいんですか? まだ子供に持たせたりして?」

 どう見ても小娘でしかないわたしに重要アイテムを渡すとか何を考えているのよ?

「キャロルとは長い付き合いになりそうだからな。今の内に唾を付けておこうと思ったまでさ」

 そこまで飛び抜けた才能があるわけじゃないけど、商人と仲良くなっておいて損はないでしょう。漫画でも伝手とコネに勝るものはないって言ってたしね。

「それならありがたくもらっておきます。また何か売れるものがあったら声をかけますね」

「ああ。ただ、おれはいろいろ各地を回っているからな、取引札をバイバナル商会の者に見せるといい。無下にはされることはないようおれから言っておくよ」

 そう言って、お金が入った革袋を渡された。

「こういうときってちゃんと中身を確認したほうがいいんですか? それとも失礼に当たるんですか?」

「確認したほうがいい。盲目な信頼は悪でしかないからな」

 そういうものなんだ。商人の世界は厳しいものなのね。

 革袋からお金を出して数えた。

「計算はどこで覚えたんだ?」

「独学です」

 わたしの知識は漫画や小説ではあるけど、計算とかはドリルで覚えたわ。活用できたのが異世界でってのが笑っちゃうけどさ。

「ただ、文字はてんでダメですね。文字に出会えることが少ないので」

 ティナもそこまで文字や単語を知っているわけじゃない。大して学べていないのよね。

「それなら仕事をしながら覚えてみないか?」

「どういうことですか?」

 丁稚奉公しろってこと?

「伯爵家のお嬢様が二人と同じ年齢でな、一緒に学べる者を捜しているんだよ」

「それは、社交性を学ばさせるためのものですか?」

 何か、そんなことを漫画で読んだことがあるわ。

「キャロルは本当に賢いな。正式に城に上がるか?」

「遠慮しておきます。わたしは、旅がしてみたいので」

 こうして元気な体に生まれ変わったのだ、自分の足で世界を見て回ってみたいわ。わたしには魔法もあるみたいなんだからね。宮仕えなんてしたくないわ。

「そうか。まあ、お嬢様の相手もずっとってわけじゃない。冬の間だけだ。給金もいいから旅の資金集めにはいいと思うぞ」

 それもそうね。旅をするのにお金はかかるし、旅をする準備にもお金はかかる。快適に旅をするためにも用意はしっかりしておくべきでしょうよ。

「親に相談してからでもいいですか?」

 冬は内職ばかりだけど、まだわたしは幼い。親の承諾なしに自分では決められないでしょうよ。

「ああ、構わない。もし、受けるのなら城に行くといい。その取引札が証明書になるから」

 それ、なかり重要なものだと言ってますよ。

「あ、ティナも一緒でいいんですよね? わたしたち、一緒に行動しているので」

 一緒じゃないのなら断らせてもらうわ。

「ああ、構わないさ。お嬢様の相手は多いほうがいいからな」

 貴族のお嬢様に平民もいいところのわたしたちが相手するって、どういうことかわからないけど、お城で働けるならわたしたちにも得になる。学校や私塾なんてないのだ、学ぼうと思ったらお嬢様の相手をするしかないわ。

「服はどうします? さすがにこの格好でお城に行くのは失礼だと思うんですけど」

 両親のお陰で毎日食べられているけど、そこまで裕福ではない。服なんて継ぎ接ぎだ。下着だって二枚しかないわ。

 ……今日帰るときに布を買っていかないとね……。

「まあ、城で用意されると思うが、一枚くらい上品な服を持っておくのもいいと思うぞ。古着屋を紹介してやるよ」

 お、古着屋なんてあるんだ。興味あるわ。

「ありがとうございます。このお金で買ってみます」

 古着屋の場所を教えてもらい、ローダルさんと別れた。
 想像してたより古着屋が大きかった。

 いや、棒コンビニくらいの広さしかないお店だけど、この時代を考えればかなり大きいほうでしょうよ。そもそも店を構えていること自体凄いことだわ。他は広場で商売しているんだからね。

「こんにちは~。服を見せてもらっていいですか~」

 軽い感じで店に入り、店員さんらしきお姉さんに軽く声をかけた。

 わたしたちのような子供が来てびっくりしたのか、数秒間、わあしたちを左右交互に見ていた。

「あ、これってここでも使えますか?」

 ローダルさんからもらった取引札をお姉さんに見せた。ちなみにどう使えるかは知りません。

「バイバナル商会の札じゃない。どうしたの?」

「ローダルさんって行商人からいただきました」

 隠すよう言われてないので素直に教えた。

「あ、ああ、あの人かい。それならいいよ。見ていきな」

 まだ若いのに結構顔が知られているんだ。ほんと、あの人って何者なのかしらね?

「ありがとうございます。気に入ったものがあったら買わせてもらいますね」

「随分と丁寧な子だね。商人の娘なのかい?」

「いえ、農民の娘ですよ。家の手伝いはあまりやってませんけどね」

 さすがに秋の収穫は手伝わなくちゃならないけど、それ以外は好き勝手させてもらっているわ。前世の記憶が蘇る前のキャロルも秋以外は好きにやっていろ的な感じだったし。

「そ、そうなの? ま、まあ、好きに見ていいよ」

「ありがとうございます。針や糸もありますか?」

「ああ、あるよ。買うかい?」

「はい、お願いします。自分でも服を直してみたいので」

 わたしの器用さなら繕い物もできると思う。成長する前に下着類を作っておきたいわ。今は薄汚れたブリーフみたいなパンツなものなんだもの。可愛くないわ。

「抜も売ってますか?」

「抜はマーリック商会で買うといいよ。あっちのほうが品数豊富だからね」

 マーリック商会か。そっちは今度ね。

 子供用服を見せてもらうと、結構な量があった。なんで?

「十五年くらい前に女ばかり生まれたときがあってね、足りないってんで他から取り寄せたものの、次は男ばかり生まれる年が二、三年続いたんだよ。そのせいで着れなくなった女服が二年前くらいから持ち込まれてんだよ」

 不思議なこともあるものね。まあ、わたしたちにはありがたいことだけどさ。

 選び放題の中から質のよさそうなものと普段着る用のを三着、わたしとティナのを選んだ。

「本当に金を持っていたんだね」

 まあ、この年齢でこの見た目だ。買うと言ったところでなかなか信じてもらえないでしょうよ。

「はい。いくらですか?」

「あ、うん、そうだね。バイバナル商会の取引札を持っているし、全部で銀貨二枚と銅貨十五枚でいいよ。針と糸はオマケだ。また買いにきておくれ」

 安くなったのかわからないけど、価格がわからないのだから値引き交渉もできない。ぼったくれてたら勉強代ってことにしておきましょう。

 レジ袋なんてないので、服は背負い籠に入れ、針と糸は鞄に仕舞った。

「ありがとうございました」

「礼を言うのはこちらのほうなのに変わった子だよ」

 こちらの世界ではいいものを買えたらお礼とか言ったりしないんだ。なんか殺伐としているわね。

 服屋を出たら今日はまっすぐ家に買えるとする。裾を合わせたり改造したりしたいからね。

 家に帰ると、なんだかおばちゃんたちが増えていた。

「ただいま~。凄い賑わいだね」

 家の中にもおばちゃんたちがいて、しゃべっているのか料理をしているのかわからない状況だった。これじゃ服を直している暇も場所もないわね。

「なんだかうちが集会所みたいになっちゃったよ」

 集会所って言っても広場に集まるところを言っており、お茶を飲んだり食べたりする場所じゃない。もううちが集会所と言っても過言じゃないわね。

「もうお店を開いたらいいんじゃない? 場所代をもらって、料理とお風呂を提供するとかね。暇なおばちゃんを雇えば小遣い稼ぎにもなるんじゃない」

 スーパー銭湯みたいな感じにすれば儲けれるんじゃない?

「商売かい? わたしは金勘定は苦手だよ」

「それはわたしがやるよ。そう大きな勘定じゃなければできるようになったからね。忙しくなったら勘定できる人を雇えばいいよ。なんならあんちゃんを呼び戻せばいいんじゃない? 行商で勘定は覚えるんだからさ」

 行商人の弟子になったのは修業の一つで、行商人になりたいってわけじゃないって言ってた。その先は知らないけど、農業を継ぐわけじゃないんだからあんちゃんに経営をやらせたらいいわ。

「しばらくは場所代で銅貨二枚でやってみたら? お風呂を焚くにも薪代はかかるんだからさ」

 これから秋の収穫が始まるけど、この分だと汗を流しに来る流れだと思う。要望が高まってからやるより今からやったほうが混乱がないと思うわ。

「いいじゃないか。ここが集会所になってくれたらあたしらも嬉しいからね」

「そうそう。銅貨二枚くらいなら毎日入り浸ることもないだろうからね」

 お金を取ることに反対する者はいなかった。

「自分たちの家で作ったものを売るのもいいかもよ。市場まで行くのも大変だし、それこそ小遣い稼ぎになるよ」

 そうすればわたしも市場まで行かなくて助かるわ。ってまあ、物はあちらのほうが揃っているから行くんだけどね。

「うーん。じゃあ、ガロスと相談してみるよ」

 そうだね。お父ちゃんにも関係あることだしね。
「いいんじゃないか。やるといいさ」

 お父ちゃんに話したらあっさり賛同を得られた。いいの!?

「男衆の間でも話しに上がっているよ。嫁さんが綺麗になって前より明るくなったってな。他の村にも話が伝わっているみたいだ。もっと来るようになるんじゃないか?」

「秋の収穫が始まるってのに、大丈夫なのかい?」

「構わんさ。今年はキャロが稼いでくれたからな。人を雇うとするよ」

 余ったお金はすべてお母ちゃんに渡したし、まだマコモはある。収穫が始まるまで市場で稼げばいいから雇うお金には困らないでしょうよ。

「じゃあ、やってみるかね」

「ついでだから若い人を手伝いに雇えば? 若い女の人って仕事する場所がないんだからさ」

 女の人は、十七、八歳で結婚するみたいだけど、手仕事で稼げるのは器用な人だけ。大体は家の手伝いをしていると、おばちゃん連中が言ってたわ。

「それもいいね。今は手伝いしてもらってタダにしているからね」

「それならお風呂作りを手伝ってもらおうかな。今のお風呂じゃ捌き切れないしさ」

 今のお風呂は三人入るのが精々。せめて十人くらい入れないと捌き切れないわ。

「それなら職人に頼んだほうが早いだろう。この金なら手付け金くらいにはなるだろうからね」

「職人さんに頼めるならいいものが出来そうだね。じゃあ、わたしたちは市場で商売して稼いでくるよ」

「キャロ、お城に行く話をしないと」

「あ、そうだった。バイバナル商会の伝手で伯爵様のお嬢様と一緒に勉強しないかって誘われたんだけど、受けていいかな?」

 ローダルさんのことを言ってもわからないだろうからバイバナル商会ってことにしておきましょう。

「バイバナル商会? お前、あんな大きな商会と何があったんだ?」

 マコモのことから語り、取引札をもらったところまで話した。

「……伯爵様のお嬢様か……」

 何やら眉をしかめるお父ちゃん。どうしたの?

「伯爵様のお嬢様には悪いウワサがあってな、何か悪いものに取り憑かれているって話だ。何度かお前みたいに声をかけられた者が城に行ったが、二度と出て来なかったそうだ。本当かどうかはわからんがな」

 ファンタジーな世界じゃなくホラーな世界だったの? 何だかおもしろそう!

 わたし、ホラーって好きなのよね。ただ悲しいことにわたしには霊感がなくて幽霊とか見たことないけどさ。

「呪われたお城なの?」

「いや、城は呪われてはないよ。そんなウワサが流れて来るだけだ。嫌なら断れよ。伯爵様はそこまで酷い方ではないからな」

「わたしは行きたいかな? ティナはどう?」

「ボクはどっちでも構わない。キャロが決めていいよ」

 ティナは余り興味なさそうだけど、別に嫌ってこともなさそうだ。無口ながら嫌なら嫌っていうタイプだからね。

「わたしは行きたい。いい?」

「まあ、最近のお前は度胸があるし、頭が回るからな、好きにしたらいいさ」

「でも、無理するんじゃないよ。嫌ならすぐに帰って来るんだからね」

「わかったよ。今度、お城に行ってみて話を聞いて来るよ」

 冬からって言ってたけど、その前に話を聞くのもいいでしょう。なんならバイバナル商会に取り次いでもらってもいいかもね。

 夕食を食べたら服を買ったことをお母ちゃんに見せる。

「あー。なんか見たことがある服だね」

 そうパターンがあるデザインではなく、似たり寄ったりの服ばかりだった。作る人が同じか、近い人同士で作ったかもしれないわね。

「これならお城にも着て行けると思うんだけど、どうかな?」

 これならマシかな? と選んだ服を見せて判断してもらった。

「まあ、いいんじゃないかい。いきなり伯爵様に会うわけじゃないんだし、お嬢様の相手をするんならあっちで用意してくれるだろう。農民の子だってわかっているんだからね」

 農民の子をお嬢様の相手にってのもどうかと思うけど、何か問題がありそうなお嬢様。もう農民の子でも構わないってことなんでしょうね。よくわかんないけど。

「針と糸も買ったから合わせてみるよ」

「あんたはほんと、器用だね。お母ちゃんの血も受け継いでんのかね?」

「お母ちゃんのお母ちゃんってこと?」

 そう言えば、お母ちゃんのほうの家、全然聞いたことないわね?

「ああ。お母ちゃんはもう死んじまったけど、針仕事が得意な人だったよ」

 この世界の寿命短そうね。早死にしたわたしが言うのもなんだけど。

「お母ちゃんに兄弟っていないの?」

「妹がいるけど、隣の領に嫁いで行ったよ」

 なんだか二度と会えないような顔をするお母ちゃん。この時代では気軽に行ける距離じゃないみたいね……。

「わたしたちが冒険者になったら叔母さんの家に手紙を届けるよ」

「あんた、冒険者になりたいのかい?」

「冒険者ってより、いろんなところに行ってみたいの。見たこともない景色を見たり、美味しいものを食べたりしたいんだ」

 そう言えば、冒険者になりたいとか言ったことなかったわね。

「冒険者なんて早死にするだけだよ」

「死なないように勉強して強くなるよ。健康な体に産んでもらえたんだもん、無駄に散らしたりしないわ」

 ただ生きるためにがんばるしかなかった前世とは違い、生きるために全力をかけられる体を手に入れられたのだ、早々に死んでたまるもんですか。前世の倍、いえ、十倍は生きてやる。この命を満喫してやるんだから!
 二匹目のドジョウを狙う。って、どういう意味だったかな? 漫画と小説からの知識と小学校までの計算しか出来ないから学がないのよね。

 まあ、何が言いたいかっていうと、またマコモを売ろうと市場にやってきたわけよ。

「……人がいないね……」

「……だね……」

 市場はがらんとしており、蓙区なんて誰もいない。屋台区は数軒だけだった。

「もしかして、収穫期だからじゃない?」

「収穫? お父ちゃん、そんなこと言ってなかったよ」

「麦も早採りと後採りがあるって聞いたことある」

 そうなの? 農家の娘なのにまったく知らなかったわ。いや待てよ。去年も今頃からお父ちゃんの帰りが遅かったような? あれは早採りの手伝いに行ってたってこと? 

「そっかー。どっしよーか~?」

 これじゃ商売も出来ない。またバイバナル商会に行く?

「なら、冒険者ギルドに行かない?」

「冒険者ギルド? でも、入れるのは十二歳からだよ」

 あんちゃんの話では、登録は十二歳からだってことだはずよ。

「おばちゃんの一人が言ってた。十二歳でも仮登録出来るって。村の外の仕事は受けられないみたいだけど」

「へー。そうなんだ。どんな仕事があるか見てみましょうか」

 まだ三年は登録出来ないけど、仕事が出来るなら将来のために稼ぐのもいいかもね。

 冒険者ギルドは、お城の北側ってのはあんちゃんから聞いている。太陽はあちらから昇るから北はあっちだ。

 そう複雑な村ではなく、お城も目立つので迷いようもない。北側は一般庶民の商業区、って感じだった。

「意外と人が住んでそうだね」

「ああ。バイバナル商会があるほうは金持ちが住むところだったんだ」

 こんな田舎でも富める者と貧しい者はいるものなのね。まあ、極貧って感じな人はいないみたいだけどさ。

「あれじゃない、冒険者って」

 剣で✕を描いたところだからすぐわかるって言ってたけど、本当にすぐわかったわ。てか、本物の剣で✕を作ってんじゃん。

 漫画とかの冒険者ギルドは立派なものが多かったけど、やはり田舎なだけに一軒家みたいなサイズであり、人の出入りも少なかった。いや、もう九時くらいだし、もう仕事に行ったのかな?

 中に入ると、なかなか年季の入った造りで、軽く百年くらい経っているんじゃないの? ってくらいだった。

 カウンターにはおじいちゃんとおばあちゃんが座っていた。

 ……美人な受付嬢とかじゃないんだ……。

 別に美人な受付嬢に興味はないけど、そこは形式美というかテンプレというか、お約束が欲しかったわ。

 中には冒険者と思わしき男性一人と町のおばちゃんが二人。とても冒険者ギルドには見えないわね。

 おばちゃん二人は冒険者ギルドのおばちゃんとおしゃべりしているのでじいちゃんのほうに向かった。

「あの、仮登録したいのですが、九歳と十歳でも出来ますか?」

「ああ、出来るよ。字は書けるか?」

「名前とちょっとしたものなら書けます」

 毎日、とはいかないけど、時間のあるときはティナから教わっている。文章は読めないまでも単語から何となく予想は出来るようにはなったわ。

「名前が書けたら充分さ。これに名前を書いてくれ。」

 と、木札を二枚ずつ渡された。

 羽根ペンみたいなので名前を書くようで、どちらにもキャロルと書いた。

「これでいいですか?」

 ティナのと一緒に渡した。

「ああ。一枚はこちらで預かる。もう一枚は紐を通して首から下げておけ。それで仮登録の証になる」

 こんなものでいいんだ。漫画や小説みたいに謎水晶に手を置いたり、オーバーテクノロジーなプレートをくれたりはしないのね。

「これで仕事が出来るんですか?」

「ああ。だが、初めての仕事は決まっている。この仕事を五回繰り返せば本当の仮登録出来るんだよ」

 本当の仮登録ってなんだよ! とか突っ込みたくなるのをグッと我慢。どういうことかを尋ねた。

 何でもお城の周りの草むしりをすることで本当の仮登録が出来るとのことだった。いや、仮試験にしたほうがいいのでは?

「それって今日から出来るんですか?」

「いや、明日の朝からだな。門の前にある兵士所にその札を見せるといい。あとは兵士の指示に従うことだ。なんなら今から見て来るといい。いきなりじゃ迷うかもしれんからな」

 なるほど。下見は大事ってことね。

「ありがとうございます。これから──あ、どんな仕事があるか見てからでいいですか?」

「ああ、構わんよ。仮登録の冒険者の依頼は奥の壁に貼ってあるよ」

 手前の壁に冒険者用の依頼書で、奥が仮登録や駆け出しの冒険者が受けられる依頼書のようだ。

「ティナ、読める?」

 何となくは読めるけど、三行くらいの文字なのでティナに読んでもらうことにした。

「うーん。大体が家の手伝いで、残りは農作業だね。あ、マコモの依頼もあるよ」

「へー。こないだのが伝わったのかな?」

 でも、依頼書があるってことはまだ誰も受けてないってことなの? あ、どこに生っているかわからないから誰も受けないのかな?

「仮登録出来たら依頼を受けてみましょうか」

 まあ、なければないで諦めるまで。仕事は結構あるんだしね。

 一通り見たらお城に向かった。
 お城は常に見えてたけど、なかなか立派なものよね。戦争とかあるのかしら?

「お城って、もっと華やかで綺麗なものだと思ってたけど、ごっついものなのね」

 田舎だからお伽噺に出て来るお城は期待してなかったものの、もうちょっと夢のあるお城であって欲しかったわ。戦争とかある時代とか止めて欲しいわ。

「何十年かに一回、魔物が溢れるときがあるからね、城は強固にしないとダメなんだよ」

 魔物が溢れる? スタンピート的なことが起こる世界なの?! ハードモード!?

「だ、大丈夫なの?」

「どうだろう? とう様が子供の頃に襲われたって話だけど」

 ティナのお父さんが子供の頃っていうなら三十年前くらいかな? 結構頻繁に起こってない?

「まあ、別に滅ぶほどじゃなく、田畑が荒らされるくらいだって」

 確かに、とんでもない数なら人類なんてとっくに滅んでいるか。村も平和な空気が流れているしね、そう被害は大きくないのかもしれないわね。

「慌てても仕方がないってことね」

 備えることは大事でも気にしすぎても仕方がないよね。いつ来るかわかんないんだし。

「キャロ、あれが兵士所じゃない?」

 ティナが指を差す方向に人が二人くらい入れる小屋があった。

「あの、冒険者ギルドでお城の草むしりをしろって言われたんですけど、ここでいいんですか?」

 小屋の前にいたおじさんに木札を見せながら尋ねた。

「ああ、仮登録の子か。久しぶりに来たな」

「そうなんですか? 朝からって話みたいだから下見に来ました」

「まあ、そうだが、今日から初めてもいいぞ。最近、仮登録の子が来ないから草が伸び放題なんだよ。ちゃんと一日分にしてやるぞ」

「ティナ、どうする?」

「やることもないならやってもいいんじゃない」

 ってことなので草むしりをすることにした。

 兵士のおじさんに笊を借り、まずは小屋の近くの草からむしり始めた。

 草むしりは小さい頃からやっているので苦にはならないけど、本当に伸び放題ね。よくこれで何も言われなかったと思うわ。

 わたしもティナも黙々とやるタイプなので、昼までずっと続け、お腹が空いて我に返った。

「ティナ、お昼にしようか」

「うん。お腹空いた」

 兵士所まで行き、お昼にすることを告げた。

「それなら城の中で食うといい。井戸もあるしな」

「入っていいんですか?」

「第一門は出入り自由だ。兵士相手に料理を売りに来るヤツもいるからな」

 へー。随分と緩いのね。まあ、それほど重要な場所でもなさそうだしね。忍び込もうとするヤツはいないか。

「入って左側に自由に使える井戸がある。竈もあるから何か焼くのもいいぞ。冒険者は鍋持参が基本だからな」

 なるほど。冒険者は自分たちで作って食べるんだ。と言うか、兵士も冒険者育成に一役買っているのね。

 橋を渡って第一門を潜ると、小学校の校庭くらいの広さがあり、キッチンカーみたいな馬車や日陰になりそうな木が何本も植えてあった。

「逃げ込んだときの薪にするのかな?」

 時代劇漫画で籠城したときに使っていたっけ。ここも同じ理由なんだろうか? かなり育っているから樹齢三十年や四十年とかなんだろうな~。

「キャロ、早く食べよう」

「あ、ごめんごめん。じゃあ、手を洗おうか」

 誰も井戸を使ってないので手や顔を洗い、鞄から水筒を出して水を交換した。もう初秋とは言え、気温は高い。冷蔵庫もない時代じゃ冷たい水は貴重なのよ。

 さっぱりしたらお母ちゃんが作ってくれた芋餅やBLTサンド──ではないけど、ベーコンと目玉焼きを挟んだパンを出した。

 マコモが売れたら屋台で食べようとしたからこのくらいしか持って来なかったのよね。

「明日は鍋を持ってきてスープを作ろうか」

「豚骨スープがいい。ボク、あれ好き」

「じゃあ、帰りに豚骨を買って帰りましょうか」

 ここでは豚骨を煮たりしないので、安く売ってくれるのだ。マコモの代金はお母ちゃんに渡したけど、その前に市場で稼いだお金はまだ残っているんですよ。

 しっかり食べて、食休みしたら草むしりを再開。夕方まで続けた。

 そろそろ帰らないとと、兵士所に向かうと、今日の報酬として一人銅貨三枚をもらった。

「ここでもらうんですね」

 冒険者ギルドでもらうんだとばかり思っていたわ。

「これは伯爵様が出している依頼だからな、報酬はここで払うんだよ」

 へー。ここの伯爵様はやっぱり優秀みたいね。行き届いているわ~。

「ありがとうございます! また明日よろしくお願いします!」

「お願いします」

「随分と礼儀正しいこった。まあ、明日も頼むよ」

 はいと、兵士所をあとにした。

「二人合わせるとお肉もちょっと買えるね。安いところを買ってハンバーグ作ろうか?」

「うん! そうしよう!」

 前世のハンバーグと味は違うけど、それなりに美味しいハンバーグはティナの大好物。明日も食べられるようがんばりますか。

 お肉屋さんに行くと、大量の骨と余り肉を安く売ってくれた。

「おじさん。明日も買いに来るから骨を取っておいてね」

「ああ。わかったよ」

 まだ数回しか来てないのにもう常連客っぽくなってるな~。まあ、お肉は毎日でも食べたいので、草むしりの間は買いに来るとしましょうかね。ふふ。
 次の日は陽が出る頃に家を出た。

「お城まで通うの面倒だね」

 車もなく時計もない世界。それが当たり前の記憶があるから苦には感じないけど、あったらいいな~と考えてしまうくらいには前世の記憶が顔を出してくるよね。

「うん。面倒」

 ティナも同じ気持ちのようで、ちょっと肩を落としていた。

 前世のサラリーマンもこんな感じで会社に通っていたのかしらね? 働くのは嫌いじゃないけど、通勤は嫌いだわ。

「馬車とか欲しいね」

「そうだね。買うとなると高いと思うけど」

 馬と荷台で金貨数枚になるとかあんちゃんが言ってたっけ。今のわたしたちじゃ逆立ちしても買えないわね。

 何かいい方法はないものかな~、なんて考えていたらお城に到着。昨日とは違う兵士さんに草むしりをしに来たことを告げ、まずは中で朝食をいただくことにした。

 朝食は昨日のうちに作り、鞄の中に入れておいた。

 どうもわたしの固有魔法は付与魔法っぽい。まだ創造魔法も捨て切れないけど、七割の確率で付与魔法なんだと思うわ。

 アイテムボックス化した鞄は時間停止で熱いものは熱いままで。おもしろいのは水をそのまま入れても中で混ざることもなく、傾けて水と念じればそのまま出て来る。わたしの考えた追加機能がそのまま施されるのだ。

「どこかに牛っていないかな?」

 ホットミルクが飲みたいわ。

「チーズがあるんだからどこかで飼っているかもね」

 付与魔法だったらチーズとか鞄の中で作れないかな? それが出来たら麦麹とかも作れるのにな~。

 いや、付与魔法なら試してみる価値はあるわね。と言うか、いろいろ試してみなさいよ、わたし。鞄をアイテムボックス化出来たんだから難しい手順よりイメージが物言うってことじゃない。

 ってことは帰ってから考えましょう。今日の草むしりはこれからなんだからね。

 兵士さんに声を掛けて草むしりスタート。黙々と草をむしり、お昼になったらお弁当を食べる。少し休んだら再開と、夕方まで続けた。

「よくがんばったな。二日目は一人銅貨四枚だ」

 おや? 日毎に上がって行くシステム?

「ありがとうございます。あ、これ、余ったので食べてください」

 鞄から芋餅を出して兵士さんに渡した。

 昨日、お母ちゃんたちが芋餅作りを行ったようで、大量に持たされたのよね。でも、わたしたちはハンバーガーが食べたかったから残っちゃったのよ。

 まあ、鞄に入れておけばいいんだけど、兵士さんたちに心付けを渡しておきましょう。前世のように厳しい決まりなんてないでしょうからね。

「何だい、これは?」

「茹でた芋を潰して焼いて特製マー油を塗ったものです。うちの村で最近流行っているんです。美味しいですよ」

 まあ、一つ食べてくださいと勧めた。

「こいつは美味いな!」

「気に入ったらまた持ってきますよ。火で炙ると美味しくなりますし」

「おお、頼むよ。いくらだ?」

 いくら? そこまで考えていなかったわ。

「五個で銅貨一枚です」

 よくわかんないけど、材料費と手間賃を考えたらそのくらいでしょう。量もあるし味もいいんだしね。

「銅貨一枚か。じゃあ、頼むよ」

「おれも頼むわ」

「わかりました。明日はたくさん持って来ますよ。作り置きがあるんで」

 これは商売になるのでは? 屋台とかやってみようかしら?
 
 兵士さんたちに挨拶して今日も広場にレッツゴー。豚骨とお肉を買って帰った。

 家に帰ったらおばちゃんたちは帰っており、わたしがお風呂を掃除している間にティナは井戸から水を汲んでもらう。

 ここで裏技を一つ。鞄を開いたまま桶に括りつけて井戸にドボン。いい感じに水が入った頃に引き上げて湯船に注いだ。

 鞄の容量がどのくらいかわからないけど、余裕で湯船を満タンに出来るくらいには容量があるわ。

「これで井戸が枯れないんだから水が豊富なのね」

 遠くに高い山が見えるからあそこから流れて来るんだろうか? 飢饉になったことはないって言うし、水が豊富な土地なんでしょうね。

 お風呂が沸くまで夕食を食べる。

「お母ちゃん、芋餅って作った? 兵士さんたちが食べたいって言うから売ろうと思うんだ」

「作ったよ。たくさんあるから持ってきな」

 うん。本当にたくさんあるわ。どうすんのよ、こんなに作って?

「芋、そんなにあるの?」

「収穫時だからね。続々採れているよ」

 ここ、芋の名産地なの? まあ、たくさんあるならたくさん持っていくとしましょうか。たくさん売れるかはわからないけどさ。

 夕食を食べたらお風呂にゴー! 各自よく洗い、難しい背中は洗いっこ。今日の汗を洗い落としたら湯船に入ってポッカポカ。これでよく冷えた牛乳とかあったら最高なのにね。

「明日の朝食とお昼、何にする?」

 お風呂に入ってから作って鞄に入れるんですよ。

「ハンバーガーと豚骨スープ」

「ティナは飽きないね~」

 わたしはちょっと飽きてきたわ。魚が食べたいわ。味は知らないけど。

「お金を稼いで美味しいもの探さないとね」

 何はともあれ先立つものが必要だ。お金を稼いでいろんな食材を買って、美味しいものを探すとしましょうか。ふふ。楽しみだわ。
 芋餅が大人気だった。

 いつものようにお城に向かい、昨日の兵士さんがいたので芋餅を出そうとしたら他の兵士さんも買いたいと言ってきた。

 まあ、芋餅はたくさんある。好きなだけ買っちゃってくださいな! と、朝に売ったら昼にまた売ってくれと兵士さんがやって来た。

 まだまだ芋餅はあるけど、鞄のことは秘密。でも、このウェーブに乗らないのはもったいないわ。なくなる前に鞄をティナに渡し、ゴニョゴニョと作戦を伝えた。

「わかった」

 ガッテン! とばかりに走って行った。

「知り合いが屋台をやっているのですぐ新しいのを持って来ますね!」

 そう言って出した分の芋餅を焚き火で温め直した。

 三十分くらいしてティナが帰還。兵士、どんだけいんねん! ってくらい集まって来ているのを捌いてたら草むしりの時間を過ぎていた。

「どうしよう。草むしりできないよ」

 兵士が途切れたら一般の人も集まり出して来た。なんでよ!?

「今日はいいから芋餅が尽きるまで売れ。草むしりはいつでも出来るからな」

 案外緩いようで草むしりは延期ってことにしてくれた。

 まあ、芋餅が無限にあるわけでもなし。一時間くらいで完売した。

「すみません。明日も開きますんで、今日はこれで終わりです」

 いや、こんだけある不思議を誰も突っ込まないんかい! とは思うけど、この盛り上がった状況では突っ込むもないか。落ち着いて突っ込まれる前に退散することにした。

「この売上、領主様にいくらか払ったほうがいいんですかね?」

 ショバ代とかメカジメ料とか。なんかそう言うの、払う必要があるんじゃないの?

「そうだな。まあ、ここで商売するには取引札が必要なんだが、お前さんたちは冒険者見習い前。ここに出入りするのは許されている。商売してダメって決まりもない。構わんだろう」

 取引札?

「あ、これ、バイバナル商会の取引札です」

「ど、どうしたんだ、それ?」

「ローダルって行商人さんにもらいました」

「ローダル? あ、ああ、そうか。お嬢様の勉強相手が来るとは聞いていたかま、お前さんか」

「はい。お城がどんなところか見に来るついでに冒険者に仮登録しようと思ったんです」

「なるほど。ローダルさんが選んだだけはあるか」

 ローダルさん? 兵士さんより上の立場なの、ローダルさんって。言葉に敬意を感じるわ。あの人、本当に何者なの?

「まあ、明日も頼むわ。他の屋台は飽きたしな、美味いものが食えるなら大歓迎だ」

 兵士さんがそう言うなら明日も稼がせてもらうとしましょうか。これが知られても伯爵様が怒ることはないでしょうよ。冒険者の仮登録にお城の仕事をさせようって人だしね。

 明日の用意のために今日は終わり。明日ためにも用意しなくちゃならないわ。

「ティナ。押し車を買うわ。荷物を載せるヤツ」

「儲けたお金で買える?」

「そこは交渉次第ね。こっちにはバイバナル商会の取引札があるんだからね」

 この取引札がどこまで効力がありかはわからないけど、ローダルさんの謎の力もある。安い押し車(リヤカー)は買えるはずだわ。

「とりあえずバイバナル商会に行ってみましょう。ダメなときは別の方法を考えるわ」

 一輪車くらいならわたしの腕でも作れるはずだわ。何なら橇でもいいわ。わたしの固有魔法が付与魔法なら摩擦係数を減らせることだって出来るわ。
 
 お城からバイバナル商会は近いのですぐに到着。商会の人らしきおじさんぬ取引札を見せて声を掛けた。

「いらっしゃいませ。どんなご用でしょうか?」

 さすが一流商会。相手が子供でも横柄になったりしないか。バイバナル商会の凄さがよくわかるわね……。

「安くていいので押し車を売っていただけませんか?」

 いくらか知らないけど、安いものなら買えるでしょう。買えなくても一輪車のタイヤくらいは買うるはずだわ。

「お金は銅貨ばかりで申し訳ないのですが」

 数えてないからわからないけど、八十枚くらいはあるはずだわ。

「構いませんよ。銅貨はよく使うものなので、何枚あろうと迷惑になることはありません」

 一般庶民は一回の買い物で銀貨なんて使うことないってことか。ジャラジャラさせての買い物って大変よね。

「よかった。これで買えるのありますか?」

「ありますよ。よく売れるものであり、よく売られるものですから。こちらです」

 商会の中ではなく、倉庫が多く立ち並ぶ場所に案内された。

 そこには押し車がたくさん並べられており、まさにピンキリだった。

「わたしたち二人で押せるものが欲しいんですけど、ありますかね?」

 まだ九歳と十歳。一人で押すのは小さくなっちゃう。二人で一緒に押せるサイズのがいいでしょう。

「それならあれですね。あれを出してください」

 ここを管理してるっぽいおじさんに言うと、並ぶ真ん中のを出してくれた。

 具合を確かめると軋みもなくキズも少なかった。うん。いいわね。

「これ、いくらですか?」

「銅貨でしたら五十枚です」

「安くないですか?」

 銅貨一枚百円だとして五千円は安すぎるでしょう。それとも相場がそのくらあなの?

「本来は銀貨二枚ですが、キャロル様が何かを買いに来たときは安く売って欲しいとローダル様にお願いされておりました」

 またローダルさんか。あの人、どこぞの王子様とかなの?