「お母ちゃん、たくさん売れたよ!」
市場で稼いだお金をお母ちゃんに渡した。あと、豚肉もね。
「どんだけ売れたんだい? そんな大したものなかっただろうに」
矢での遊びがウケたことを説明したら、何とも言い難い顔をした。
「……そうかい。まあ、よかったね。稼いだ金はあんたらで使いな。そのうち必要になるだろうからね」
「いいの? うち、大丈夫?」
「大丈夫だよ。そこまで貧乏じゃないし、二人がよく働いてくれるからね。好きなものを買いな」
お母ちゃんがそう言うのでティナと山分けとする。
「ボク、よくわからないからキャロルが持ってて」
まあ、何か買うってこともないし、欲しいってものもないので、わたしが預かることにした。
「明日は泥煉瓦を焼くとしましょうか」
まだ秋の収穫には早い。それまでにお風呂を作っちゃいますかね。
次の日から泥煉瓦焼きを始め、焼き上がるまでは矢作りをし、ティナは狩りに出かけた。
焼き上がった煉瓦を並べ、接着剤として泥と灰を混ぜたものを使い、丁寧に組んでいった。
二人用のお風呂なので泥煉瓦を二百個以上必要とし、また川に粘土を集めに行かなくちゃならなくなってしまった。
水が漏れないよう内側を塗りたくり、中で火を焚いて乾燥させる。
「随分と大きい竃だね。鹿でも煮込むつもりかい?」
お母ちゃんが来てそんなことを言ってきた。
「お風呂だよ。お湯を沸かして入るの」
説明したじゃない。お風呂に入る文化がないから奇妙な顔をされたけどね!
約十日のがんばりにより、お風呂が完成した。
サバイバル動画で数回観ただけなので、これでいいのかはわからないけど、下から火を焚けば沸くはず。ダメなときは石を焼いて水に入れたらいいわ。
ボタン一つでお湯が出ない時代はこんなにも大変なのね。やる気と根気がなければ最初の一日で挫折していたでしょうね。
井戸から水を汲み、湯船に溜めるだけで汗だくだく。夏にやったら死ねるわ。
お風呂に入る前に水浴びをするとはこれ如何に。一休さんでも説破《せっぱ》は出ないでしょうよ。
「あー気持ちいい」
誰もいないし、恥ずかしがる体でもないのですっぽんぽんで涼み、体が冷めたら服を着た。
「服も作らなくちゃならないか」
麻のシャツに麻のスカート。革の靴。貫頭衣のようなものよりマシだけど、質素なものには違いない。これで山に入ったりするのは心もとないわ。お金を貯めて冒険者のような装備にしないとね。
「──裸で何しているの?」
おっと。ティナが帰って来ちゃったよ。
「あはは。汗かいたから水浴びしてたの。今から水を沸かすね」
急いで服を着たらお風呂に薪を入れて火を起こした。
「ちゃんと沸くかな?」
泥煉瓦を燃やして水を沸かす。動画では観たけど、実際、これでいいのかはわからない。煉瓦を組み立てるのも接着したのもうろ覚えだ。これで失敗したら笑い話だわ。
まあ、わたしの人生は始まったばかり。失敗するのもまたよし。成功するだけが人生ではないわ。
「そう言えば、狩りはどうだったの?」
毎日のように鳥を狩ってきたのに今日は手ぶらじゃない。いなかったの?
「ポロプが生ってたから狩りは止めて、こっちを採ってた」
「ポロプ?」
ってなんぞや? って見せてもらったら黄色い果実だった。
「実は酸っぱいけど、蜂蜜に漬けると美味しい」
「蜂蜜はどうするの? 買うの?」
「巣を採って搾る」
まさかの現地調達でした!
「さ、刺されるんじゃないの?」
この世界の蜂がどんなものか知らないけど、刺されたら死んじゃうんじゃないの? アナなんとかで?
「大丈夫。採り方は知っているから。キャロルは壺と布を用意して」
「わ、わかった。あとで詳しく聞かせて」
まずはお風呂だ。
お湯が沸いたらすのこを入れる。直接は熱いかもしれないからね。
「ティナ。先に入っていいわよ。あ、でも、入る前に体を洗ってからね」
ちゃんと洗うとき用のすのこも用意しておりまっせ。
お互い、体を拭き合っているので恥ずかしいもない。ティナがスッポンポンになったら桶でお湯をかけてあげ、藁タワシに石鹸をつけて背中を洗ってあげた。前は自分でやってもらいます。
「はい。お湯に入っていいよ」
さっき水浴びしたけど、火を焚いて煙たくなった。この日のために石鹸を作り、お風呂を作ったのだ、入らないって選択肢はないわ。
服を脱ぎ、お湯をかけて石鹸をつけた藁タワシでゴシゴシと洗った。
……自分で洗うなんていつ以来だろう……?
前世のわたしが死ぬ一年前からお風呂には入れず、ずっと看護師さんに拭いてもらう日々だった。こうして体を洗うだけで楽しいわ。
「背中、洗うよ」
ティナが湯船から出てきてわたしの背中を洗ってくれた。
背中の洗いっこ。漫画ではよく観たけど、こうして自分で体験すると体の奥がくすぐったいものよね。
「はい、終わり」
「ありがとー。じゃあ、次はわたしがティナの髪を洗ってあげる」
石鹸での洗いになっちゃうけど、灰で髪を洗うよりはマシだ。やはり輝きが違うのよね。
本格的に洗うと体が冷めちゃうので、さっと洗って湯に浸かった。
「お風呂、いいものだわ」
「うん。ボク、お風呂好きかも」
夕暮れ時。二人で太陽が山に隠れるのを眺めながらお風呂を堪能した。
市場で稼いだお金をお母ちゃんに渡した。あと、豚肉もね。
「どんだけ売れたんだい? そんな大したものなかっただろうに」
矢での遊びがウケたことを説明したら、何とも言い難い顔をした。
「……そうかい。まあ、よかったね。稼いだ金はあんたらで使いな。そのうち必要になるだろうからね」
「いいの? うち、大丈夫?」
「大丈夫だよ。そこまで貧乏じゃないし、二人がよく働いてくれるからね。好きなものを買いな」
お母ちゃんがそう言うのでティナと山分けとする。
「ボク、よくわからないからキャロルが持ってて」
まあ、何か買うってこともないし、欲しいってものもないので、わたしが預かることにした。
「明日は泥煉瓦を焼くとしましょうか」
まだ秋の収穫には早い。それまでにお風呂を作っちゃいますかね。
次の日から泥煉瓦焼きを始め、焼き上がるまでは矢作りをし、ティナは狩りに出かけた。
焼き上がった煉瓦を並べ、接着剤として泥と灰を混ぜたものを使い、丁寧に組んでいった。
二人用のお風呂なので泥煉瓦を二百個以上必要とし、また川に粘土を集めに行かなくちゃならなくなってしまった。
水が漏れないよう内側を塗りたくり、中で火を焚いて乾燥させる。
「随分と大きい竃だね。鹿でも煮込むつもりかい?」
お母ちゃんが来てそんなことを言ってきた。
「お風呂だよ。お湯を沸かして入るの」
説明したじゃない。お風呂に入る文化がないから奇妙な顔をされたけどね!
約十日のがんばりにより、お風呂が完成した。
サバイバル動画で数回観ただけなので、これでいいのかはわからないけど、下から火を焚けば沸くはず。ダメなときは石を焼いて水に入れたらいいわ。
ボタン一つでお湯が出ない時代はこんなにも大変なのね。やる気と根気がなければ最初の一日で挫折していたでしょうね。
井戸から水を汲み、湯船に溜めるだけで汗だくだく。夏にやったら死ねるわ。
お風呂に入る前に水浴びをするとはこれ如何に。一休さんでも説破《せっぱ》は出ないでしょうよ。
「あー気持ちいい」
誰もいないし、恥ずかしがる体でもないのですっぽんぽんで涼み、体が冷めたら服を着た。
「服も作らなくちゃならないか」
麻のシャツに麻のスカート。革の靴。貫頭衣のようなものよりマシだけど、質素なものには違いない。これで山に入ったりするのは心もとないわ。お金を貯めて冒険者のような装備にしないとね。
「──裸で何しているの?」
おっと。ティナが帰って来ちゃったよ。
「あはは。汗かいたから水浴びしてたの。今から水を沸かすね」
急いで服を着たらお風呂に薪を入れて火を起こした。
「ちゃんと沸くかな?」
泥煉瓦を燃やして水を沸かす。動画では観たけど、実際、これでいいのかはわからない。煉瓦を組み立てるのも接着したのもうろ覚えだ。これで失敗したら笑い話だわ。
まあ、わたしの人生は始まったばかり。失敗するのもまたよし。成功するだけが人生ではないわ。
「そう言えば、狩りはどうだったの?」
毎日のように鳥を狩ってきたのに今日は手ぶらじゃない。いなかったの?
「ポロプが生ってたから狩りは止めて、こっちを採ってた」
「ポロプ?」
ってなんぞや? って見せてもらったら黄色い果実だった。
「実は酸っぱいけど、蜂蜜に漬けると美味しい」
「蜂蜜はどうするの? 買うの?」
「巣を採って搾る」
まさかの現地調達でした!
「さ、刺されるんじゃないの?」
この世界の蜂がどんなものか知らないけど、刺されたら死んじゃうんじゃないの? アナなんとかで?
「大丈夫。採り方は知っているから。キャロルは壺と布を用意して」
「わ、わかった。あとで詳しく聞かせて」
まずはお風呂だ。
お湯が沸いたらすのこを入れる。直接は熱いかもしれないからね。
「ティナ。先に入っていいわよ。あ、でも、入る前に体を洗ってからね」
ちゃんと洗うとき用のすのこも用意しておりまっせ。
お互い、体を拭き合っているので恥ずかしいもない。ティナがスッポンポンになったら桶でお湯をかけてあげ、藁タワシに石鹸をつけて背中を洗ってあげた。前は自分でやってもらいます。
「はい。お湯に入っていいよ」
さっき水浴びしたけど、火を焚いて煙たくなった。この日のために石鹸を作り、お風呂を作ったのだ、入らないって選択肢はないわ。
服を脱ぎ、お湯をかけて石鹸をつけた藁タワシでゴシゴシと洗った。
……自分で洗うなんていつ以来だろう……?
前世のわたしが死ぬ一年前からお風呂には入れず、ずっと看護師さんに拭いてもらう日々だった。こうして体を洗うだけで楽しいわ。
「背中、洗うよ」
ティナが湯船から出てきてわたしの背中を洗ってくれた。
背中の洗いっこ。漫画ではよく観たけど、こうして自分で体験すると体の奥がくすぐったいものよね。
「はい、終わり」
「ありがとー。じゃあ、次はわたしがティナの髪を洗ってあげる」
石鹸での洗いになっちゃうけど、灰で髪を洗うよりはマシだ。やはり輝きが違うのよね。
本格的に洗うと体が冷めちゃうので、さっと洗って湯に浸かった。
「お風呂、いいものだわ」
「うん。ボク、お風呂好きかも」
夕暮れ時。二人で太陽が山に隠れるのを眺めながらお風呂を堪能した。