この世界で真の仲間と出会えたからハッピーエンドを目指します!

 さあ、次の冒険へ! とはならなかった。

 サナリクスの面々の用意を手伝うことになったからだ。

 わたしたちより長く生き、長く冒険をしている人たち。冒険の用意も結構勉強になるのだ。

「今までよく冒険してましたね」

 アイテムバッグがないときの話を聞いていると、それはもうサバイバルしてんのか? ってくらいのものだった。

 町から町の旅なら現地調達で何とか過ごせるけど、町から離れた場所だと別の意味で現地調達になる。水を調達するのも一苦労。食料を調達するのも一苦労。苦労しかない冒険だった。

「それが普通だと思っていたからな」

 まあ、確かにそうか。

「楽を覚えるのも良し悪しですね」

 アイテムバッグを渡してしまったわたしのセリフじゃないけどさ。

「いや、楽を覚えられてよかったよ」

「そうだな。これで楽に冒険が出来るんだから万々歳だ」

「そうよ。もう不味い食事をしなくていいなんて最高よ」

 どうやらサナリクスの面々は楽を覚えられて喜んでいる。それだけ過酷だってことなんでしょうね。

 五人にリュックサックを用意し、その容量は荷馬車一台分。なかなかの容量だからか、入れるものもたくさんになる。

 荷物を分散することなく、水や食料は均等に分け、道具や着替え、キャンプ用具を人数分取り揃えるだけで結構な時間が掛かってしまった。

「マリカルは、どうやったら旅をしていたの?」

「わたしは町から町を旅してたから現地調達だよ。まあ、天候が悪くなって山の中で迷子になっちゃったけどね」

 獣人なのに方向感覚がいまいちなマリカル。ダウジングがなければ旅に出ちゃダメなタイプだった。

「獲物を捕まえたときはどうするんです?」

「重要な部位だけ持って帰るだけさ」

 なかなか効率の悪いことしてたのね。

「魔法の鞄、バレないように市場に流すってこと出来ませんかね。 サナリクスの活躍が広まればその活躍の理由を探る者が現れるはず。その前に魔法の鞄を十個くらい広めてウワサを拡散したほうがいいと思うんですよね」

 拡散したらわたしのところに辿り着くのも困難になるはずだわ。

「確かにそうだな。わたしは二人くらいなら流せるか?」

 魔法使いのアルセクスさんが目線を上にしながら口にした。

「おれらは三隊か?」

「そうだね。マルミグ、ロウガ、ナシェックかな?」

「あ、おれ、商人に知り合いがいるから一つは流せるかも」

 幼なじみの三人は交遊関係が広いようだ。

「わたしは、五人はいますね」

 人間の倍の寿命があるだけにアルジムさんの交遊関係はさらに広いようだ。

 ちょうど十個になったので、すべてを違う形の鞄にしてアイテムバッグ化させた頃には夏がやって来ていた。

 サナリクスの面々はバラバラに別れてアイテムバッグを世に広めるために出て行った。

 帰って来るまでわたしたちはマリカルのダウジングがどれほどのものかを検証するために村に下り、冒険者ギルドに向かった。

「……あるものなのね……」

 依頼書が張り出されているボードには、探し物依頼が結構あった。なくした指輪くらい自分で探せよ。

「これがあるからわたしも旅が出来たのよ」

「それで自分が迷子になってたら世話ないだろう」

 ティナの突っ込みがマリカルにクリティカルヒットした。

 まあ、確かにそうね。人の探し物を探していて自分を失い掛けるとか笑い話にもならないわ。マリカル、ドジっ子属性があるのかしら? 何もないところで度々転んでいるし。

「とりあえず、片っ端から依頼を受けましょうか」

 カルブラで銅星の冒険者となったので、コンミンドでも冒険者として依頼を受けることが出来る。ちなみにティナも銅星よ。

「手始めに指輪を探す依頼から受けましょうか」

 何かゲームの依頼っぽいけど、これならすぐ終わるでしょう。検証はわかりやすいのからやったほうがいいからね。

 依頼書をボードから剥がしてカウンターに持って行く。

「銅星になったのか」

「はい。ゴブリンの解体書を提出したら銅星になれました」

「あれ、お嬢ちゃんだったのか! やたらと正確な絵でびっくりさしたわ」

「もう冒険者ギルドに広まっているんですか?」

 あれから一月、いや、もう二月か。この時代の伝達能力を考えたら異常なスピードじゃない? 何かファンタジーな伝達方法があるの?

「最近、ゴブリンの被害が出ててな。領主様からも討伐依頼が出ている。この辺にも出ているから気を付けるんだぞ」

 へー。ゴブリンが増えているんだ。この世界にもゴブリンなスレイヤーとかいるのかしら? 

「ちなみにゴブリンを倒したらいくらになるんです?」

「一匹銅貨五枚だ」

「安いんですね」

 せめて銅貨十枚じゃない? 

「魔石を持つヤツもいるみたいでな、魔石を持って来たら銀貨一枚になるぞ」

 ゴブリン、魔石なんてあったんだ。もっと細かく解剖するんだった。

「まあ、ゴブリンはもっと大人になってからにします。今回はこれをお願いします」

「探し物か。これも溜まっているから片付けてくれると助かるよ。まったく、自分でなくしたのなら自分で探してもらいたいもんだ。何でもかんでもギルドに持って来られても困るんだよな」

 どうやらわたしの感想はそう間違ったものじゃないみたいだわ……。
 マリカルの固有魔法──プランガル王国では特殊才と呼ばれているようで、遠視は三級のことだった。

 でも、探し物依頼ををいくつか受けてわかった。マリカルの特殊才はいくつかの能力が混ざった千里眼系だ。

 直接、と言うか、目や心眼で見る系ではなく、媒体を使っての間接遠視? 的なものだ。

 対象者の記憶や魔力、気配を複合的に感知して、媒体を通して対象物を視ているのだ。

 いくつかの中には未来視も多少なり混ざっているようで、自分の未来を感じて進む方向を視ているみたい。

 ってことはだ。媒体となる道具にそれぞれの能力を上昇させる付与を施したらもっと細かく、もっと正確に能力を発動させられるんじゃない?

「遠視であり透視であり未来視でもある、か。複合型超感覚的知覚能力ね、マリカルの特殊才は」

「な、長ったらしいね」

「じゃあ、感眼でいいでしょう。感覚知覚で視ているんだからね」

 テレパシーとか言ってもわかんないでしょうしね。

「感眼か。いいんじゃない。なんかしっくり来たわ」

 マリカルも遠視には違和感があったみたいね。しっくりくるならよかったわ。

「探し物クエスト、なくなっちゃったわね」

 十個はあったのにもうなくやっちゃった。もっと検証したいことはあったのに。

「にゃ~」

 静かにティナのリュックサックの上にいたルルが泣いた。

 意識を周囲に向けると、怪我をした人が入って来た。

「ゴブリンの群れがランザカ村に現れた! 至急出動を頼む!」

「手の空いている者はランザカ村に向かえ!」

 ギルドの人がすぐに反応し、ベテラン感のある人らがすぐにギルドを出て行った。

「わたしたちも行ったほうがいいのかな?」

「どうだろう?」

「てか、わたし、まだ見習い試験やってないよ」

「あ、そうだった」

 依頼はわたしが受けてたんだったっけ。

「とりあえず、職員さんに訊いてみようか」

 ここで考えても仕方がない。職員さんに訊いたほうが手っ取り早いわ。どうなんでしょう?

「お嬢ちゃんたちは援護だ。こらから向かう職員と向かってくれ」

「わかりました。仲間のマリカル、まだ見習いでもないんですが、一緒に連れて行っても構いませんか?」

「そっちのお嬢ちゃんか。まあ、一緒に依頼をこなしているんだし、冒険者に登録するよ。銅星だ」

 いいのか? とは思ったけど、わたしたちも特例でなったんだから構わないかと納得してマリカルも銅星冒険者となった。

「いいのかな?」

「いいんじゃない。依頼をこなしていれば認められるよ」

 何事も結果を出さなきゃ認められないもの。銅星に相応しい仕事をやって行くとしましょう。

 職員の用意が出来るまで待ち、出来たら馬車に乗ってランザカ村に出発した。

「ランザカ村ってどんなところ?」

「ボクは知らない」

「わたしも。名前を聞いたのも初めてだわ」

 コンミンド伯爵領、それなりに広い領地であり、パルセカ村とロンドカ村で大体は事足りるから他の村って行かないのよね。ねぇ、あなたどこの村出身とかもなかなか訊かないしね。

「ランザカ村は端にある村で果実を主に作っている村だ。リンゴとか市場でよく見るだろう」

 と、御者をする職員さんが教えてくれた。

「あー。ありましたね。高いから買ったことはないですけど」

 一個銅貨二枚もしたから買わなかったのよね。わたし、そんなに領地を好きじゃないのよね。前世ですりおろしリンゴ、よく食べていたからさ。

「ボクは好き。でも、今の時期のは酸っぱいんだよね」

 そうなの? 好きなら言ってよ。初めて知ったわ。

「わたしも好き。焼きリンゴ、美味しいよね」

「プランガル王国にもリンゴがあるんだ。結構広く作っているものなの?」

「そうじゃないかな? でも、寒い地でよく作られているって聞くよ」

 元の世界でも寒い地のリンゴが有名だったっけ。世界が違えどそういう果物なのかしら?

「にゃ~にゃ~」

 と、ルルがお腹空いたと鳴き出した。

「はいはい。職員さんたちもどうぞ」

 リュックサックからサンドイッチを出して職員さんたちに配った。

「用意がいいんだな」

「リュックサックの一つはお弁当用なので」

 ルルたちにも出して揺れながらちょっと遅めの昼食を食べた。

「後方から馬が来るよ」

 ティナは目がいいのでわたしにはまだ見えない。よく見えるわよね。

「おそらく城の兵士だろう」

「兵士って魔物が出たときにも動くんですね」

 そんなに兵士はいなかったからはず。戦争も数百年もしてないって聞いたわ。

「たまに魔物の被害は起こるんだよ。ゴブリンが出たってのは今回が初めてだけどな」

 それなりに平和なファンタジーワールドかと思ったらそうでもないみたいね。やはり武器は作ったほうがいいかな?

 わたしにも見えてきて、わたしたちに構わず通りすぎてしまった。

「緊急事態に迅速に動けるんですね」

 もっと鈍いのかと思ったよ。

「動けず滅びた領地は結構あるからな。コンミンド伯爵様は優秀なほうさ」

 さすが王国でも有力な立場にいる人。お嬢様が王子様の婚約者候補になるのも納得だわ。

「見えて来たぞ」

 職員さんの声に振り向くと、黒い煙が上がっていた。
 ランザカ村は結構大変なことになっていた。

 果樹園が多く占めた村らしく、家は点在しているけど、繁華街的な場所はある。火はそこから上がっていた。

「ゴブリン、人の多いところを襲うんだね」

 点在する家を襲うほうが楽で安全だと思うんだけど、わざわざ人の多いところを狙うってなんでだ? 

「火を消せ! 怪我人を集めろ! お嬢ちゃんたちは水を汲んでくれ!」

 職員さんの指示にしたがい、わたしたちは井戸に向かって水を汲んだ。

「キャロとマリは桶を探して」

「わかった」

 力仕事はティナに任せて、わたしたちはまだ燃えてない家に向かって桶や鍋を探して持ってきた。

 あれこれやっていたら繁華街的な場所以外ね村の人が集まり出し、燃える家を消火したり怪我人を運んだりして、あっと言う間に暗くなってしまった。

「食料を集めてください! 夕食を作ります!」

 一応、冒険者ギルドが備蓄の芋や小麦、塩なんかを運んできたので村の女性陣とすいとんを作ることにした。

 村長さんの家はゴブリンの襲撃から守られたようなので、避難所をそこに移すことになり、わたしたちは食事班に任命され、なぜかわたしがリーダーとして仕切ることになった。

 村と言っても町の規模はあり、村長さん宅もかなり大きい家で、台所もちょっとしたお店の厨房くらいはあり、料理人さんもいたので、わたしたちは外にある竈を使ってパンを焼くことにした。

 緊急時なので寝かせることはせず、すぐに焼き、いまいちなパンを配ってもらった。

「キャロル。結構な人が死んだみたいだよ」

 マリカルがどこからか情報を仕入れてきた。

「結構な数で襲ってきたんだね」

「そうみたいだよ。生き残りの人が五十匹はいたってさ」

 そんなに? もう害獣とかの話じゃなくなってきてんじゃないの?

「こ、怖いわね」

「まあ、ゴブリンは珍しいけど、魔物に滅ぼされた村なんて結構あるよ」

「あるの!?」

 そこそこ厳しい異世界と思ったらかなりハードな異世界だったよ! 

「あるある。うちの国でも渦が活発になって魔物がたくさん出てきてるしね」

 な、なぜ、笑顔でそんなこと言えるのかしら? 呑気か!

「まあ、だから冒険者は廃れないし、暮らしていけるってことだよ」

 た、確かにそうだけど、そう明るい声で言うことではないと思うよ……。

「キャロ、職員が怪我人の手当てを手伝って欲しいって」

「わかった。マリカルはこのままパン焼きを続けて」

「了解」

 ドジっ子ではあるけど、結構器用になんでもこなしたりする。パンも何回かやっているので任せることにした。

 ティナに案内してもらって向かうと、さながら野戦病院って感じになっていた。

「魔法医さんは来ないんですか?」

 職員さんに尋ねてみた。

「村に払える金があるなら呼ぶだろう」

 なかなかシビアな世界でもあるようだ。

「なら、わたしが治療してもいいですか?」

 人体実験って言ってしまえばそのとおり。非道と言われても仕方がない。甘んじて受け入れましょう。でも、こんな機会はそうはない。あったらあったで嫌だけど。

「お、お嬢ちゃんが?」

「魔法医療を噛った程度のものですけど、少しでも救える命があったほうがいいですからね」

「わ、わかった。お嬢ちゃんのことはバイバナル商会から聞いている。やれるならやってくれ」

「はい。ありがとうございます」

 傷口を綺麗な水で洗い、綺麗な布で巻くというのは常識なようなので軽度の人は任せ、わたしは重傷な人を探した。

「火傷が酷いな。この人からやるか」

 鞄からリストバンドを出して男の人の腕に付けた。

 即効性はないけど、生命体増強、治癒力増強、熱発散の付与を施してある。

 確か、火傷のときは水を余り飲ませないほうがいいんだっけ? 本当に聞き噛りだから悩むわね。
 
「大丈夫ですからね。諦めないでください」

 即効性はないものの、籠めた魔力はそれなりにある。重傷な火傷が中傷くらいにはなった。効果はあった。

「この人にお水を上げてください」

 効果がわかったなら次に移り、同じく傷だらけの女の人の腕にリストバンドを付けた。

 リストバンドは十個。まったく足りてないけど、重傷な人にはリストバンドを付け、わたしの魔力で治癒力増強を施した。

 さすがにわたしの魔力はチートではなく、十数人で打ち止めとなってしまった。

「お嬢ちゃん、回復魔法なんて使えたのか?」

「回復魔法を転写しただけです。それも余り質はよくないみたいですね。なにが悪かったんだろう?」

 マリカルに触っての回復魔法を受けたから悪かったのかな? やはり直接じゃないとダメっぽいわね。

「もういいから休め。お嬢ちゃんに何かあったらバイバナル商会にどやされるからな」

「だ、大丈夫です。経過を見ないと」

 どういう感じで治って行くかも大事だ。そうしないと改善出来ないわ。

「いいから休め! お嬢ちゃんの仲間を連れて来てくれ」

 職員さんに邪魔されてしまい、ティナがやって来て背負われてしまった。

「無茶しすぎ。ボクが見てるから休め」

「細かくよ」

「わかったから寝ろ!」

 強く言われてしまい、仕方がなく瞼を閉じた。
 起きたら早朝だった。

 今、山から太陽が出た感じで、わたしはタープの下で目覚めたようだ。

「気分はどう?」

 ルルの声がして辺りを探すと、リュックサックの上で香箱座りをしていた。あなた、リュックサックの上好きね……。

「うん。いいよ。魔力が切れちゃったみたいね」

 ステータス画面があるわけじゃないから自分の魔力がどれだけあるか感覚でしかわからない。見極めながらやらないと電池切れを起こしてしまうのよね。

「あまり無茶しないのよ。魔力枯渇で死ぬことだってあるんだから」

「気を付けるわ。まだ死にたくないしね」

 この若さで死んだら何のために転生したかわかったもんじゃないわ。命大事に生きていかないと。

「そうだといいわね。あなたは夢中になると周りが見えなくなるから」

 は、はい。ご忠告ありがとうございます。

「わたしが眠ってからどうなった?」

「別にどうもなってないわよ。好転もしてないし暗転もしてないわ。まあ、運ばれて来た者が死んだってことはないわ。苦しんでいる者はたくさんいるけど」

 そっか。まあ、死んでないのなら現状維持ってことにしておきましょう。

「お腹空いたわね。ルルも食べる?」

「食べる」

 鞄からハンバーガーと山葡萄ジュースを出して食べた。

「それ以上は出さないようにしなさい。魔法の鞄だってバレるわよ」

 はぁ~。便利のようで不便よね。もっと魔法の鞄を普及したほうがいいかしら? でも、わたしの魔力じゃ一日一つが限界だし、なんともかんともよね……。

 二個も食べればお腹一杯なので、わたしの魔力は燃費はいいよね。あ、魔力回復強化とかすればいいんじゃない? 家に帰ったら試してみましょうっと。

「お風呂に入ってさっぱりしたいわね」

「我慢しなさい」

 そうね。一日二日お風呂に入れないで泣いてたら冒険者なんてやってらんないか。服に清浄の付与を施して実験してみましょう。

 まずはリストバンドの効果を確かめるとしましょうかね。

「呻き声は聞こえないわね?」

 テントやタープは張られておらず、野ざらしで寝かされていた。

 まだどの人も眠っているので起こさないよう怪我人を見て回った。

 一とおり見て回ったら重傷者さんのところに向かって状態を確認した。

 火傷は軽めのものになっているけど、完治したってのにはほど遠い。元の世界なら今すぐ救急車を呼べ! ってレベルだわ。

「……厳しい時代よね……」

 医療が発達した世界でもわたしの病気は治せなかったけど、お医者さんにも診てもらえないってのも酷いものよね。

 まあ、だからと言ってお医者さんを目指す気持ちは湧いてこないのだから時代を呪うのは筋違い。失っていく命を受け入れるしかないわね。

 リストバンドを外し、回復した魔力を籠めた。

 魔力を満タンにしたら別の人の腕につけ、魔力切れを起こしたリストバンドを集めた。

「やっぱり十個が精々か」

 もっと出来そうなものなのに、なにが制限をかけているのかしら? アイテムバッグ化させるより魔力はかからないと思うんだけどな~?

「また無茶する」

 ぺしっとティナに頭を叩かれてしまった。

「昨日のことを忘れたのか? 魔力切れ起こしたの? 何でいつも全力なんだよ」

 襟首をつかまれて、先ほど寝ていた場所に戻されてしまった。

「ルル。ちゃんと見張っておいて」

「はいはい」

 結界を纏わせられ、強制的に寝かせられてしまった。

 あれほど眠ったのに魔力枯渇は体に負担を掛けるようですぐに眠りに付いてしまった。

 で、起きたら真夜中でした~。

「……わたし、何しにここに来たんだ……?」

「無茶しにじゃない?」

 眠りにつく前からリュックサックの上で香箱座りをするルル。その隙間に指突っ込んだろうか?

「ハァー。誰か死んだ人はいる?」

「薬を運んで来たから死んだ者はいないわ。あと、サナリクスのアルセクスが来たわ」

「アルセクスが?」

 アイテムバッグを広めは終わったのかしら? 

「ええ。夕方にね。今はティナと見張りに就いているわ。あなたは寝てなさい」

 起きようとしたらルルの結界で閉じ込めれていた。牢獄か。

「食事して眠りなさい」

 説得は無理そうなのでサンドイッチを出して食べ、お腹が落ち着いてから横になった。

「魔力は使っちゃダメよ」

 はいはい。大人しく眠りますよ。

 まったく眠くないと思ったけど、気が付いたら眠っており、起きたらお昼になっていた。疲れてた、わたし?

「起きたか」

 アルセクスさんの声がして顔を上げると、ルーグさんがいた。

「え、えーと、あれ?」

 わたし、夢でも見てた? カルブラから帰る途中だった?

「君たちを迎えに来ました。あとは、鉄星の冒険者たちに任せなさい」

「そうするといい。君たちがいてもやることはないだろうからな」

 どうも有無を言わせないような感じがあった。

 まあ、今のわたしたちに何が出来るって話だけど、もうちょっと実験をしたかったわ~。

「ティナ。リストバンドを集めて」

 一日で重傷が中傷まで回復した。なら、それより程度が低い人はそこそこ回復したでしょうよ。

「また実験ですか?」

「実験しないと成否がわからないですからね。必要なことです」

「帰ったら説明してくださいね」

「もちろんです。わたしが持っていると危険ですからね」

 危ないものはバイバナル商会にお任せ。わたしはその結果だけをいただきます。
 バルバナル商会の馬車に乗せられ村にドナドナ。わたし、何しにランザカ村に行ったんだ?

 そのままお店に連れて行かれて事情を説明することに。

「ハァー。どんでもないものを作りましたね」

「回復魔法の下位互換、って感じですけどね」

「それでもです。どうしたものか?」

「売ったらいいんじゃないですか? あ、献上でもいいのでは? コンミンド伯爵様に五つ。残り五つは各支部に渡して権力者にでも売ればいいと思いますよ」

「それでは欲しがる人が増えるのでは?」

「いきなり世間に広がるわけでもないんですし、さらに下位互換のものを用意して売り出せばいいんじゃないですか?」

「どんなものですか?」

 ミサンガを出してマルケルさんに渡した。

「治癒力上昇する付与を施しました。さすがに回復魔法を転写したらわたしの魔力がぶっ飛びましたので」

 ティナが集めたリストバンドもマルケルさんに渡した。

「ミサンガはマッチと同じです。魔力さえあれば治癒力上昇は付与されます」

 付与できる箱も出して渡した。ハイ、これで打ち止めです。

「やはり病気や怪我は薬を使ったほうが費用も手間もいいですね。今度、薬師さんを紹介してください」

 薬ならわたしでも作れそうな気がする。付与魔法はどうした? とかは言わないでくださいね。

「キャロルさんは少し落ち着いたほうがいいですね」

「ボクもそう思う。無茶しすぎ」

「そ、そう?」

 無茶はしてないと思うんだけどな~。

「キャロルは閉じ籠めておくのも自由にするのもダメな感じよね」

「なにかを極めさせるのも危険でしょう。何を生み出すかわかりませんからね」

 え? わたしってそんな感じで見られてたの?

「マリ。キャロが問題を起こさない方向ってわかる?」

「うーん。キャロルはどこにいても問題を起こすと思うよ。これはもう天命みたいなものだと思うから」

 ヤダ。わたしの評価最悪なんだけど。

「山にでも籠れって言うの?」

「籠った結果が今じゃない」

 うぐっ。辛辣なティナさんだこと。

「じゃあ、しばらく魔力を籠めることに徹するよ」

 何もするなはさすがに窮屈だ。それなら魔力を籠めることをやるわ。わたしの付与魔法は魔力次第。魔力がなければどうにもならないんだからね。

「可能なのですか?」

「前にライターを見せてもらったから出来ると思います。あれにも魔力を溜める魔法が施されているはずだから転写出来ると思います」

 この世界にはわたしと同じ固有魔法を持った人がいる。その人が頭がいいのはライターを見てわかったし、その人が出来ることはおそらくわたしにも出来るはずだ。

「そうですね。魔力が足りなくて困っていたところです。そうしていただけると助かります」

「はい。しばらくは魔力籠めに徹します」

 魔力がなくてもやりたいことはたくさんある。もしかすると、魔力を鍛えたら増えるかもしれない。それならやる価値はあるってものだ。

 この日はバルバナル商会にお世話になり、馬車で山の家まで送ってもらった。

 家に到着すると、レンラさんたちが迎えてくれた。

「ゴブリンが出たそうですね」

「はい。わたしたちは怪我人の世話くらいしか出来ませんでした」

「ティナさんはともかくキャロルさんは戦闘は不向きでしょうからそれでいいんですよ」

 レンラさんから見たらわたしなんて孫みたいに見えるんでしょうね。見た目も幼いしね……。

「しばらくわたしは魔力籠めで家にいますね」

「ティナさんやマリカルさんは?」

 どうするんだろうと二人を見た。

「ボクは狩りかな?」

「わたしは薬草や山菜を採るかな?」

 いつものとおりか。

 パーティーを組んでいるとは言え、何でも皆でやるってことはない。まだわたしたちは未熟であり修行中。出来ることを増やしていく時期なのだ、と思う。

「こんな感じですね」

「平和で何よりです」

 まあ、平和と言えばそうだけど、冒険者を目指す身としてはどうなんだ? 

「剣の稽古でもするかな?」

 戦いのセンスも狩りのセンスもないけど、だからって練習しない言いわけにははらない。最低限、剣を使えるくらいにはなっておかないとね。

「ほどほどに」

「はい。ほどほどにします」

 帰って来たばかりなので家の空気換えをして掃除してと、何だかやることいっぱいね。わたし、スローライフとか目指しているわけじゃないのに、日々がスローライフになってないか?

 何かこう、転生者なら厄介事とかトラブルとか押し寄せて来るようなもんだけど(イメージ)、わたしの今生平和よね。

「キャロル。今日は凝ったものが食べたいわ」

 いや、平和は平和でも毎日が飽きない日々を送っているわね。しゃべる猫がいたりボクっ娘がいたり、猫耳少女がいるんだから。

「じゃあ、ティナ。手頃な鳥を狩ってきてよ。野菜を入れてオーブンで焼くとさしましょうか」

「わかった。マリ、どっちにいるか調べてよ」

「任せて。わたしも味の濃いものを食べたいし」

 何だかんだとわたしたちっていいパーティーだよね。さて。オーブンに火を入れるとしましょうかね。

 エプロンをかけて台所に向かった。
「……うん。わたしに戦う才能ないわ」

 出来たばかりのトンファーを投げ捨てた。

「また? キャロル、運動神経ないんじゃない?」

 運動神経ないと思っていたマリカルがトンファーを拾って器用に振り出した。

「……そうかもしれない……」

 剣もダメ。棒もダメ。釵もダメ。弓もダメ。投げナイフもダメ。トンファーならと思ったけど、自分の脛にぶつけてダメだと悟ったわ。

「キャロルは後ろで大人しくしているほうがいいよ。ティナとルルがいれば問題ないんだしさ」

 わたし、戦闘では足手まといのようです。ハァー。

「戦えない冒険者ってのもどうなんだろう?」

「キャロルは楽器はどうなの? 吟遊詩人も冒険者としてやってるんじゃない?」

「楽器、ね~」

 リコーダーなら吹いた記憶はあるけど、今さら吹けと言われても出来ない自信しかないわ。

「木琴なら作れるかな?」

 どんな構造してたかはわからないけど、木の長さを変えて並べればいいはず。そう難しいものでもないし作ってみるか。

 木は何個並べたらいいかわからないので十三個くらい並べてみて、叩くのは何て言ったっけ? バチ? バッチ? まあ、ボンボンでいいや。

「あんまりいい音しないわね」

 木の材質が違うのかな?

「へー。おもしろいじゃない。わたしにもやらしてよ」

 興味を持ったマリカルにボンボンを渡した。

 ギターみたいなのはカルブラ伯爵領で見た。音楽に付与とか出来るのかな?

「マリカルって、何をやらしても上手よね」

 ドジっ子な割に何でも器用にこなすのよね。

「今度は何をやらかしたんです?」

 マリカルにドレミの歌を教えていたらレンラさんがやって来た。いや、やらしてって何ですか? 何もやらかしてないですよ!

「楽器を作っただけですよ」

「何て楽器です?」

「木琴です。見たことありませんか?」

 さすがに木琴くらい誰かが生み出しているでしょう。

「見たことはありませんが、あると聞いたことはあります。こんな音色が出るんですね」

「たぶん、木材がよければもっといい音が出せると思いますよ。これは適当に作ったものですから」

 前世で聴いたときはもっといい音が出ていた。極めたらいい木琴が出来るでしょうよね。

「バイバナル商会で楽器って売ってますか?」

「んー。売ってないと思いますよ。楽士は自分で作ると聞いたことがあるので」

 まあ、音楽一本で食べていくのは大変なんでしょうね。楽器を作る人もそう売れるもんじゃないしさ。

「じゃあ、作りますか」

「作れるんですか?」

「形は本で見たので何となく作れるでしょう。あとは試行錯誤です」

 武器も何となくで作ったしね。わたしなら作れるでしょうよ。

 それから三日掛けてギターっぽいものを作った。

 弦は馬の尻尾を使ったわ。何かそんな話を漫画で読んだような記憶があったので。

 ボローンボローンといまいちな音。まあ、最初としてはまあまあでしょう。

「張りがいまいちなのよ」

 すっかり楽器が気に入ってしまったマリカルさん。細々と注文してくるのよね。

「張りか」

 そう言えば、先のほうに何かネジみたいなのが付いていたわね。あれが弦を張るヤツだったのかな?

 金属がいいかなと職人さんと相談して作ってもらい、なかなかいい音が出るようになった。

「音の幅が広くていいわね」

 占い師から音楽家にでもクラスチェンジしたかのようにギター(仮)を引いているわ。

 わたしは音楽にはそれほど興味がないので楽譜を書いたり読み方も知らない。ただ、ふんわりとしたアニソンは頭の中に入っている。鼻歌でマリカルに聴かせ、それを音にしているわ。

 耳がいいのか音楽センスがあるのかちゃんと曲になっているから凄いわよね。

「本当に楽器を作ってしまうとは」

 呆れるレンラさん。

「まだまだですよ。楽器モドキってところですね。まだ改良するところは多々ありますね」

 これで完成と言ったら楽器作りの職人さんに申し訳ない。夏休みの工作レベルだわ。

「あと五、六個は作りたいですね」

 それだけ作れば少しはマシなものが出来るでしょうよ。

「一つ、いただいてもよろしいですか?」

「いいですよ。どうせ不要なものはバイバナル商会にあげますから」

 楽器なんて一つか二つあれば充分でしょう。付与を施せば長い間使えるでしょうからね。

 戦闘訓練はどうした? ってことが頭の隅に浮かんだけど、次の瞬間には消えておりました。

「うん。いい出来だわ」

 八個作って納得出来るものが完成。マリカルに奪われてしまいました。

 まあ、わたし自信に作ったわけでもなし。次は太鼓でも作ってみようかしら? 太鼓の達人、やってみたかったのを思い出したわ。

 何てことを考えていたらルーグさんが旅芸人一座を連れて来た。

「旅芸人一座っていたんですね」

 吟遊詩人らしき存在は見たことはある。けど、旅芸人一座がいるなんて一度も聞いたことがなかったわ。

「楽器を作っていると聞いて、旅芸人一座を連れて来ました。楽器を見せてやってください」

「構いませんよ」

 旅芸人一座には楽士さんもいるそうで、作ったギター(仮)を出した。

「変わった形のマルビールだな」

 ここではマルビールって言うんだ。

「旅芸人一座って、どんな芸をしたりするんです?」

 旅芸人一座の団長さんらしき人に尋ねた。

「うちは歌ったり踊ったりだな。芝居となると荷物が増えるんでな」

 旅芸人一座と言ってもいろいろあるみたいだわ。
 旅芸人一座はラッカルと言うそうだ。

 コンミンド伯爵領にも何度も来て、バイバナル商会主催のお祭りに参加したこともあるそうよ。
 
 お祭りは各商会が受け持ち、去年はお嬢様のおじいちゃんが死んだことでやらなかったみたい。

 今回、たまたま寄ったラッカル一座が挨拶しに行ったら壊れた楽器の話が出て、わたしのところにやって来たそうだ。

「歌って、どんな歌を歌うんです?」

「陽気なものがほとんどだな」

 団長さんも昔は楽器を鳴らしていた人で、今も楽士が足りないときは参加しているそうだ。

 どんなもんかと聴かせてもらうと、確かに陽気な音楽だった。ただ、曲は単調だ。強弱はあるけど深みはない。そんな感じだ。音楽家ではなく芸の一つ、ってことなんでしょうね。

「歌姫的な感じの人はいないんですか?」

「昔はいたんだが、村の男と結ばれて今はいないな」

「新しい人を加入させたりしないので?」

「歌を歌うのが好きってヤツはなかなかいないものさ」

 そうなんだ。気軽に歌うってことが出来ない時代なんだね。よく畑で歌う歌があるって聞くけど、この時代ではないし。

「歌うことが出来る人は欲しいですね。興行的には儲けられると思うので」

「儲けられるのか?」

「やり方次第じゃないですか? 人を魅了出来る歌なら人を集められますからね」

 歌の文化は低いみたいだけど、商売敵は少ない状態なら盛り上げられると思うな。

「キャロルさんならどんなことをしますか?」

 横で団長さんとの話を聞いていたルーグさんが入ってきた。

「そうですね。わたしならまず娯楽宿屋で芸を見せますかね。歌を聴かせたりお芝居を見せたりしますね。人気が出たら大きな町に芝居小屋を造って芸を披露する。認知されたらさらに大きな町に。そうやっ王都に大きな劇場を造る。人を集められる歌姫が生まれたら貴族もきっとやって来るでしょうよ」

 まあ、前世の記憶からだからどこまで受け入れられるかはわかんないけど。

「そうしたら芸人一座も旅をすることもなくなり、町で暮らせると思いますよ。まあ、人気が出たら我が町に来てくれとかになっちゃうかもですけど」

「……それが出来たらどんなにいいか。旅芸人なんて身分が低いからな……」

「低いなら高めてやればいいだけですよ。芸は根付きやすいんですからね」

「……な、なんか、お嬢ちゃんは凄いな……」

「そうですか? 別に凄いことは言ってないですよ」

 やるかやらないかの問題だけ。特段、凄いことなんて何一つ言ってないわ。

「キャロルさんは、自分の何が凄いかをわかってないのが問題です」

 問題だと言われても何が問題なのかさっぱりだわ。本当に凄いことなんて何一つ言ってないんだからさ。

「楽器、マルビールは好きにしていいですよ。試しに作ったものですからね」

 今出来る最高のギターは出来た(マリカルのものになっちゃってるけど)のであとのはいらないわ。

「そうだ。今日の夜にでもラッカル一座の芸を見せてくださいよ。民宿のお客さんも呼んで夕食観覧芸をやりましょう。わたしも歌うんで」

 知っている歌はそんなにないけど、二、三曲ならそれっぽく歌える。マリカルにも歌ってみせたから曲は大丈夫でしょうよ。

「夕食観覧芸、ですか?」

「まあ、夕食を食べながら芸を観覧する、ってことですよ。そこで受け入れられるなら民宿の出し物の一つとしたらいいかもですね」

 さすがにわたしが毎回やることは出来ないから歌姫を探さなくちゃならないけどね。

「レンラさんと相談しますね」

 民宿に行って夕食観覧芸のことを説明し、どうするかを語った。

「わかりました。お客様にお知らせしましょう」

「外の用意はわたしたちがやりますね。卓と椅子は出しててください」

 民宿のお客さんは今も来ており、四組ほど宿泊している。

 宿泊費とか聞いてないけど、お金持ちを呼んでいるから儲けは出ているっぽいわ。

「マリカル。手伝って」

 占い師業、どうした? ってくらいギターに夢中なマリカルさん。本当に転職しそうな勢いよね。

「何するの?」

 レンラさんに説明したことをマリカルにも説明した。

「人前で引くの!?」

「ちょっとした余興よ。別に失敗しても構わないわ」

 レンラさんにはちょっとした試みがあるから協力して欲しいと説明してもらうようにした。失敗込みの夕食観覧芸よ。

「キャロルって、ほんと度胸あるわよね」

「別に度胸なんていらないでしょう。失敗しても構わないものなんだからさ」

「そ、そうだけど、そう思えないのが普通なんだからね」

 そんなものなの? わたしにはよくわからないわ。

 職人さんたちにも手伝ってもらい、夕方までには席が用意できた。

「なかなかいい出来ですね」

「本当はもっと凝りたいんですけどね。今日はこのくらいにしておきます」

 さすがに舞台は無理でも幕を張りたかったわ。ちょっと華やかさに欠けるわ。

「キャロルさんが凝るととんでもないものになるのでこれで充分ですよ」

 まあ、確かに納得できるまでやったらいつになるかわかったもんじゃないわね。

「お客さんはどうです? 承諾してくれました?」

「はい。快く承諾してくれましたよ。初の試みに参加出来て光栄だそうです」

 やはりお金持ちは品がいいわよね。

「じゃあ、ちょっと予行練習しますね。何か気になることがあったら言ってください」

「はい。わかりました」

 ラッカル一座の人も集めて予行練習を開始した。
 あれ? わたし、作詞の才能あったりする?

 なんて勘違いしてしまいそうになるくらい替え歌(?)にして歌っていた。

 さすがに元の世界の歌をそのまま歌うわけにはいかない。単語を変えたりリズムを変えたりしないと聴いている人たちに受け入れられないからね。

 一曲終わると、お客さんたちが拍手してくれた。

「ありがとうございます。次は春の歌です」

 この世界、桜はないので春に咲く野花の名前に替えて歌った。

 わたしの歌にマリカルが合わせてくれ、ちょっとつたないながらもなんとか歌いきった。

 次はラッカル一座の楽士と演奏する。ちなみにわたしは木琴担当。ギターは作れたけど、引けるようにはなれなかったわ。人間って不思議なものよね。

 夕食観覧芸《ディナーショー》は三十分くらいで終了。レパートリーが少ないので三十分が限界なんです。

 まあ、ここの人たちは食事に長時間かけることはないし、夕食観覧芸《ディナーショー》って文化もない。まだ確立もされてないのだから三十分くらいがちょうどいいでしょうよ。

 お客さんたちが下がり、わたしたちも席で夕食兼反省会とする。

「素晴らしいものですた」

 レンラさんは絶賛だ。そうか?

「まだまだですね。子供のお遊戯みたいなものですよ」

 まあ、まだ十一歳のわたしがやるならお遊戯だけどさ。

「いえ、あんな催しをするなんて想像もできませんでした。お客様方も楽しんでいました」

「そうですね。キャロルさんの歌声もよかったです。あんな歌い方があるものなのですね」

 ルーグさんも絶賛な感じだ。

「歌だけではあのくらいが限界ですね。歌と歌の間におしゃべりを挟むといいかもしれませんね」

 Vチューバーの動画はあんまり視なかったけど、歌枠でトークが挟んであった。あれは歌だけでは間がもたなかったりダレないようにやっているものだったのね。

 ディナーショーがどんなものかわからないけど、歌ばかり歌ってはいないでしょう。トークも挟んでお客さんを楽しませているんだわ。

「娯楽宿屋ではお芝居を主にしたほうがいいかもしれませんね。お芝居をみせる一座ってどのくらいいるものなんです?」

 お芝居はあると言ってたけど、どのくらいの認知度なのかしら?

「そう多くはないな。芝居は場所や道具が必要だからな。酔狂な貴族の支援がなければやっていけんよ」

 パトロンってヤツか。そういう文化は辛うじてあるみたいね。

「バイバナル商会で支援って出来ます?」

「断言は出来ませんが、どうするか話していただけますか?」

「うーん。これは思い付きなんで、わたしの戯れ言として聞いてくださいね」

 やるやらないはバイバナル商会が決めること。わたしは思い付いたことを語るまで。強制はしないわ。

「まず、バイバナル商会に娯楽部門を作って、娯楽宿屋と民宿で芸を披露する。今ではどちらもそれなりの人たちには知られるようになりました。そこに娯楽を足すだけです。認知度が上がれば娯楽部門は離して王都に集約。貴族を招いて芸を披露する。文化として確立していく、って感じですね」

 まだこの時代にエンターテイメント業は確立されていない。なら、先駆者として名を残すとしましょう。バイバナル商会が、だけど。

「……儲かるのですか……?」

「娯楽宿屋や民宿が儲けているのなら儲けられると思いますよ。誰もやってない商売なんですからね」

 わたしは、娯楽宿屋や民宿がどれだけの売上を出しているかは知らない。けど、こうして続けているってことは採算が取れると踏んでやっているんでしょうよ。

「……話し合ってみます……」

「それがいいと思います。所詮、子供の戯れ言。どうするかは商売の玄人が判断すればいいと思います。やるんなら協力させていただきます」

 バイバナル商会が大きくなるんならわたしたちの後ろ盾としての力も増す。ハラハラドキドキな冒険はしたいけど、胃がキューとなる危険は冒したくない。波乱万丈はゴメンだわ。

「そのときはお願いします」

 今日はそれで解散とし、片付けは任せて家に戻った。

「キャロルって歌が上手だったのね」

「そう? 歌なんて好きに歌えばいいだけよ」

 別に歌手を目指しているわけじゃない。思うがままに気持ちよく歌えばいいのよ。聴かせるためではなく自分の心を出しているだけなんだからね。

「わたしよりティナのほうが上手そうだけどね」

「ボク?」

「うん。綺麗な声だし、肺活量も凄そうだしね」

 たまに鼻歌を歌っているから歌が嫌いってわけじゃなさそうだわ。

「人前で歌うなんてやだよ」

「別に人前で歌うことなんてないわよ。一人で歌えばいいのよ」

 わたしたちはそれを聴くだけ。

「わたしも歌いたくなっちゃったな」

 本当に占い師からミュージシャンにジョブチェンジしそうな勢いね。

「キャロル。また新しい歌を作ってよ」

「別にマリカルが作ってもいいのよ。空が青いとか風が気持ちいいとか、感じたことを詞にして音に合わせたらいいんだからね」

 娯楽が少ない時代。楽しみは自分で作り出さないとね。

「自分でか~」

「まあ、わたしも作るから自分でもやっみなよ。芸は身を助けるよ」

 何かそんな言葉があったはず。よくわかんないけど。
 また冬がやってきた。

 時が過ぎるのは早いものよね。

 今年は雪が少ないので、ただただ寒いだけ。お風呂に入るのも大変だわ。

「室内に作るんだたわ」

 お風呂は外だから服を脱ぐのも辛い。スウェーデントーチをいくつか置いて入らないと心臓麻痺を起こしそうよ。

「それなのに民宿は大繁盛よね」
 
 この寒い中、馬車に揺られてやって来る。なんか、お金持ちの間では結構有名になっているみたいよ。

「お嬢ちゃん、早いな」

 職人さんたちのところにパンを届けに行くと、職人さんたちが食堂に集まっていた。

「皆さんこそどうしたんです? こんなに早く?」

 今はまだ六時前くらい。職人さんたちも朝は早いけど、朝食は七時くらいからだ。まだそれぞれの部屋にいる頃だ。

「今度、お貴族様が来るそうでな、その準備をしなくちゃならんのだよ」

「貴族が? 庶民向けのところに?」

 お金持ちが来るようなところとして造ったけど、貴族を受け入れるようには造ってない。よく許したわね? いや、貴族から言われて断れないでしょうが、その貴族もよく来ようと思ったこと。

「何でもコンミンド伯爵様の紹介らしい」

 伯爵様の? 

「じゃあ、同じ伯爵様なんですか?」

 身分社会で紹介するくらいなんだから同等かそれ以上の人ってことだ。

「爵位は息子に譲ったお方らしいな。隠居したから旅がしたいんじゃないか? 貴族は隠居すると暇になるって聞いたことがあるからな」

 まあ、隠居ってことは引退したんでしょうから仕事はなくなるもの。元気なら暇で仕方がないでしょうよ。

「ってことは、貸し切りになっちゃうのかな?」

 まさか他のお客さんと一緒に、ってことはできないでしょうよ。

「そうだな。ご高齢な方でもあるから防寒対策を今からやっておくのさ」

 ほーん。確かにご高齢な方ならこの寒さはキツいわね。

「散歩道も作ってはどうです? 暖かい日には外に出るかもしれませんしね」

 寒い日は続いているけど、たまに暖かい日もあるものだ。そのときには外に出るんじゃないかしら? ずっと室内にいるのもキツいものでしょうからね。

「そうか。レンラさんに話しておくよ」

「はい。では」

 食堂を出て家に戻り、職人さんに聞いたことを皆に話した。

「ここも発展したものだ」

 ここに住んでいたティナからしたら感慨深いものがあるでしょうよ。

「キャロル。今日、山を下りて冒険者ギルドに行ってくるね。また探し物依頼を受けてくるよ」

 自分の食い扶持は自分で稼いでくると、たまに山を下りて探し物依頼を受けているのだ。

 占い師じゃなく探し屋と認識されているのがおもしろいわよね。

「ボクも行く。肉がいっぱいだし」

 今年の秋は鹿がたくさん出て、村にも被害が出るほどだったみたい。今年はゴブリンやら鹿やら散々な年みたいだわ。

 鹿肉で作ったソーセージや塩漬け肉が結構あるのよね。さすがに毎日は飽きたわ。たまには魚が食べたいわ~。

「魚がいる川ってないものかしらね?」

 いるのはいるんだけど、泥臭い魚ばかり。清流とかある山に行かないとダメなのかしらね?

 朝食を終えたらティナとマリカルは家を出て、わたしは山の中に作った訓練場で木刀を振った。

 ただ振るだけの訓練でも体力は付く、と思ってやっているけど、二十分もしたら飽きてくるもの。最後はいつも松ぼっくりを打って遊んでいるわ。ナイスショット!

「わたし、ゴルフの才能あったりして?」

 木刀の先で松ぼっくりを当てられるんだから凄いことじゃない? これを活かしたら武器って作れないかしら?

 何てこと考えながらゴルフクラブを作っていると、食堂のおばちゃんがやって来た。

「ここにいたかい。レンラさんが捜してたよ」

「レンラさんが? 何かあったのかしら?」

 用があれば昼か夜にでも声をかけてきていた。誰かを使って捜すなんて珍しいことだ。

 とりあえず家に戻ると、ルーグさんも一緒にいた。

「どうしました?」

「ちょっと見てもらいものがありまして」

 ルーグさんが抱えていた箱を近くの作業台に置き、中から二つ折りにされた板を出した。

 ……え? チェス……?

 チェスはやったことはないけど、盤はアニメで観たことはある。将棋ではないことくらいわかる知識はあります。
 
「これは?」

 チェスでない可能性もあるので顔には出さず尋ねた。

「ジェドという遊戯盤です。この駒を使います」

 うん。これ、チェスだわ。この世界ではジェドって呼ばれてんの?

「こういうのがあるんですね。お城では見ませんでした」

 この作りからして職人が丹精籠めて作ったものだ。かなりの値段になるでしょう。なら、庶民にはなかなか買えるものじゃない。貴族の遊戯でしょうよ。

「海の向こうの国から流れて来たものです。貴族の間でも流行ってきたそうです」

 バッテリーを作った人ではない? この世界、結構転生者がいたりする?

「で、なぜわたしに?」

「ジェドの遊び方を覚えて欲しいのです」

 ルールが書かれた紙を渡された。結構細かいのね。

「わたしも説明を読んでみたのですが、何となくしか理解できませんでした」

 頭のいいルーグさんが理解出来ないとは。チェスってそんなに難しいものだっけ?

 まあ、プロがいたくらいだから奥が深いんでしょうけど、動かし方くらいわかるものじゃないの?

「今度泊まりになるお方が好きだそうで、対戦出来る者を用意する必要があるんですよ」

「わたしにやれと?」

「いえ、遊び方を覚えて教えてくれれば助かります」

 まあ、それならいっか。どんなものか興味あるしね。

「わかりました。覚えてみます」

 さっそく説明書を読み始めた。