少しずつ体温が奪われていく中で、走馬灯を見た。どのシーンでもスイの顔ははっきり見えるのに、流れ星の夜のスイの顔だけがよく見えない。あれは小学生のスイなのか、高校生のスイなのか。泣いていることだけは分かった。泣くなよ。もうお前は俺がいなくたって大丈夫なんだから。
「こーちゃんがいないと生きていけない」
 スイの声が聞こえた。記憶の中ではあの時崖から落ちそうになったのはスイなのに、俺の視界が反転して俺の方が夜へと落ちていく。
「こーちゃんっ!」
 スイの脳を揺さぶるような絶叫が聞こえた。スイが必死に手を伸ばしている。あの時とちょうど逆だ。俺が体験しているのは、スイの記憶なのか、俺の記憶なのか。俺が手を伸ばしてスイの手にかすかに触れると、スイは俺の手をしっかりと掴んだ。
「だから言ったのに。ちゃんと防水ケースに入れておかないとカメラ壊れるよって」
 俺のカメラは完全に水没して使えなくなっている。俺が何か言おうとしても声がうまく出なかった。
「これ、直しとくね。それまで僕のカメラ、使っててもいいよ」
 スイから緑のカメラを託される。最後の言葉は
「約束、覚えてる?」
 だった。



 搬送された病院で俺は目を醒ました。テレビでは事故の詳細が報道されていた。太平洋を運航していた船に宇宙からの落下物が直撃し、炎上・沈没。8月13日に打ち上げられた火星探査機はスペースデブリと衝突して破壊された。制御不能となった探査機は地球に墜落した大気圏突入の際に燃え切らず、甲板を貫通し、燃料の一部を爆発させた。死者、行方不明者多数。行方不明者一覧にはスイの名前があった。
 同じ病室に入院している人は、俺と同じ救助用ボートに乗っていたという。彼はその時の状況を俺に教えてくれた。俺を助けようとして、海に飛び込んだ少年がいると。少年は海に沈んでいった俺を海面まで引き上げたあと、力尽きて波にのまれて流されたと。