新幹線に乗り込む時から予感はしていたけれど、やはり東京は異様に人が多かった。
 ごった返す駅から抜け出して人酔いを覚ましながら、ひとまずコンビニへと向かった。五件目のスーパーでやっと目当てを見つける。迷わず手に取ると、軽さに思わず声が出た。
「箱で買っても九個入り。案外少ないんだね」
「そだね〜」と、呑気な声が返ってきた。
 とりあえず最終目標は定まっているから、それまでどうするか。観光に疎い僕には難しい。でも、まぁここは「王道で良いよね?」
 商店街を歩けば当然、人に揉まれる。何かを見る余裕なんてないけれど、ふと目についた土産屋でヘンテコなウサギのストラップを見つけた。とりあえず買っておくことにした。
 もう少し通りを歩けば、ようやく目当ての門と巨大な提灯が見えてきた。近づくと共に人並みも渋滞する。隣を見れば、皆が写真を撮っているから、僕も倣ってスマホを構えた。
「へぇ。雷神ってケルベロスなんだって」
「それは曲解がすぎるでしょ」
 僕は自然にそう呟いていたことに気づきスマホを仕舞った。結局、写真は撮らなかった。
 また人混みで気分が悪くなって、どこか静かな場所へ。と、思えばコーヒーが飲みたくなった。ふと隣に向くと丁度カフェがあった。
「奥の二人席へどうぞ〜」
 店員に促されて席に着き、コーヒーとカフェモカを注文した。二つはすぐに届いた。
 コーヒーは美味しかった。でも、カフェモカは驚くほどに美味しかった。
「本場でなくとも、プロの味は違うんだね」
「そだね〜」と、また呑気な声が聞こえた。
 世間は今、カーリングの話題で持ちきりだ。
 その時、隣から声が掛かった。
「お客さま。相席よろしいでしょうか」
 対面の空席を眺め、僕は小さく頷いた。

 葛西臨海公園。この観覧車が良いと思った。
 ゴンドラに乗り込むと、僕は小春の小説を開き、また少し続きを書き足した。
 そうして半周。誰にでも頂点は訪れる。
 小説を閉じ、スマホを開いて景色を眺めた。
 スマホにいつかのツーショットを表示した。
 夜景、灯る光、営まれる命。そこから視線を移動させ、画面の中の小春に向いた。
「綺麗だよ」
 言うや否や肩が震える。また泣いてしまう。
 隣に小春は居ない。もう七瀬小春は居ない。
 あの岬で意識を失った僕と小春は、道中で追われた警官に見つかり、病院に運ばれた。
 僕は三日後に目覚め、現実を知った。
「小春は消えた。お前の居ない手術台の上で」
 小春は生きていた。
 でも小春は消えていた。
『明日、十時には家に居ろよ』
 スマホにそう北島からのメッセージが届く。
 僕はポケットの中の最後のチョコバーを確認した。
 この旅行は、ケジメをつけるために必要だった。そしてまた、スマホが震える。
『逃げるなよ。これは自首だ。小説を見せる。それが小春を生かした。その責任の取り方だ』
 そうしてゴンドラは緩やかに降下し始めた。