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そこに見えたのは螺旋状の大きな、と言うか大きすぎて大きいとか言う次元じゃないくらい大きい建物。
真四角のシェルターとは違ってデザイン的で、木やガラスを基調としたお洒落な建物だ。
「ここがねー、センター。俺1人で作ったんだぜ。すごいでしょ。」
「え、うん。すごい。え、ほんとに?」
「まあ正確には専用のロボット作ってプログラミングしたんだけど。」
いやロボを作るのもプログラムするのも十分すごい。
ぷすぷすぷす、と最新型の見た目のくせに壊れそうな音を立ててバイクは着陸した。
これ大丈夫なの?と聞くと「わざと音が出るようにしてるだけだから大丈夫!」と言っていた。
ちょっと古ぼけた感じに愛着が持てるらしい。わからんこともない。ちょっとかわいい。
建物に入ると球状のボディに半球状の頭が乗った何かに似ているロボットがやってきた。
なんだろこれ。かわいいけども。
「こ、こんにちは?」
『朝日さん、いらっしゃいませ!』
「ああ、sora!」
それが発した声でsoraだと分かった。
このロボットが一応soraの本体らしい。
『朝日さんどうぞこちらです!』
soraに案内されて【リビングルーム】と書かれた部屋に入る。
天井は吹き抜けでガラスの天窓がついていて温かな光がたっぷり差し込んでいて、ガラスのはまった壁にスカイブルーが反射していて綺麗で、とっても広かった。リビングの広さじゃない。
「朝日、ごめんちょっと待ってて。あ、soraと話してていいよ。」
「はーい。」
とりあえず近くにあった赤い色のソファーに腰掛ける。やばっ、ふわふわ…。
『朝日さん、どうですか、このセンターは。素敵でしょう』
「うん。おしゃれ。」
あのチャラ男が作ったとは到底思えない。
『朝日さん意外と口悪めですよね。』
…え、声に出てた?声には出してないつもりなんだけど。
『人間の心は仕組みが単純です。脳みその反応や心拍数などで心は読めます。』
やば。怖。
『怖くないです。』
「なんか私話してないのに会話してるから変な感じ。」
『新感覚!新しい会話の仕方!ぜひこの機会にいかがですかー!』
「デパ地下の宣伝の人にそっくり。ってか人間の声出せるんだね。」
『一応AIと人間で区別つけようと言う観点からこの声で普段はいますが、話し方やイントネーションはちゃんと学習しているので話せますよ。その辺の人間よりかは遥かに声真似上手だと思います!』
soraが自慢げに言うので無理難題を押し付けてみた。
お笑い芸人から女優、アニメのキャラクター、とらえもん(トラ型ロボットのキャラクター。)の声が変わる前と変わったあとそれぞれ、挙句に琉斗の真似まで。
soraは完璧にこなした。すごすぎる。
さらに得意げなsoraが笑ったことに驚いてると(だって…AIって笑うの!?)琉斗が戻ってきた。
「なんだよ sora、俺と話すより楽しそうだな。」
『久しぶりに、というか初めて琉斗以外の人と話したんですよ!ガールズトークですよ!』
「え、 soraお前女子なの?」
『AIに性別とかありません!好きな方でいいんです!細かいところを気にするやつはモテないわよ!』
「やばい soraのテンションが爆発してる。」
「いつもこんなやつって訳じゃないのね。」
「うん。ちゃんと機械っぽいよ。」
ちゃんと機械っぽい、ってなんか面白い。
「あ、お茶持ってきたからどうぞ。」
「ありがと」
お茶は玄米茶だった。しかもめっちゃおいしいやつ…。
「ね、ねえ朝日、ステラの生活、教えてくれない?できれば地球の後半の生活から話してほしいんだけど。」
「ん?いいけど。」
************************
「えー。まじかぁ。うーん。」
途中にお昼ご飯を挟みつつ一通り話すと、差し込む光は黄金色になっていた。そんなに長く話していたとは思わなかった。琉斗もしょっちゅう「え、ちょっと待って。それって…」と質問を挟んできたからだと思う。
琉斗はやたら顔を顰めて考え込むように体を曲げた。
『朝日さん、そろそろ帰る時間ですよ。今帰らないと死んじゃいますよ。』
「死にはしないでしょ。」
『それがですね…ほんとなんですよ。夜は絶対に向こうに帰らなきゃ死んじゃいます。こちらの諸事情により。申し訳ありません。』
「えー。なんでだろ。変なの。まあ、死にたくないから帰るわ。明日って来れるの?」
『はい。次に来れるのは明日の午前6時です。』
「ふーん。じゃあ来よっかな。」
「ホント⁉︎よかった!」
「え?」
「え?なんか変なこと言った?」
「だって『また来る』ってだけで喜ぶような仲?」
「なんだよひねくれてるな。そんなん言ったら朝日だって『明日も来る』ってさ。そんなに楽しかったか?」
「あんたが誰かもよくわかんないしここがどこかもよくわかんないけどこっちの方がよっぽど面白いしね。ご飯も美味しいし。」
「そこ⁉︎」
『ほらほら、遅れますよ。朝日さん死にますよ。』
「言い方が物騒。」
「ごめん。いやマジなんだよ。行こう。」
同じようにバイクで空を飛び、なんにもない星の地平線の夕日を見て、鏡についた。
「また触ればいいの?」
「うん。今、5時59分40秒。時間ギリギリ!」
「じゃあね。」
「ん!また明日ー!」
鏡に手を触れると同じように白く光って、私はあの無機質で酸素の薄い廊下に立っていた。
ああも色の溢れた場所にいるとなぁ。
急に白とかグレーとかしか見えなくなるとほんとに色彩感覚なくなったんじゃないかと思うくらいに地味な場所。
テーマパークから出てきて、駐車場を見てがっかりするような。そんな感覚。
思わず一つ、ため息をついた。
部屋に戻って着いていたお昼を回収する。お昼食べたパスタ、美味しかったな。こんな缶詰とは大違いだ。
夕食はまた缶詰を食べて、ステラに来て初めて目覚まし時計をセットし、ベットに入った。
****************
次の日の朝。目覚まし時計の音が鳴る前に起きて、ちょっと昨日よりもにやけた顔が鏡に映っているのを誤魔化すように顔を洗い、ほんのちょっとだけ気を遣った服を着た。
届いたご飯は食べずにカバンに入れて、部屋を出る。
廊下を走って非常階段の扉を開け、階段を早足に駆け降りてドアを開けようとして失敗してガチャガチャとドアノブを何度も回し直して開け、でもまだ時間じゃなくてウロウロと廊下を歩き、時々止まって時計を見る。
6時。
鏡に手を触れ、テールに着く。
鏡の前では琉斗が待っていた。
「おはよ。」
「おお!朝日ホントに来たー!よかったぁ。あ、おはよ!」
『朝日さん、おはようございます。』
琉斗は朝からハイテンションだ。
「朝ごはん食った?」
「ううん。まだ。」
「じゃあ一緒に食べよ!朝はパン派だよな?」
「いやだからなんで知ってんのよ……。いや、んー。しばらく食べてないからご飯かなぁ。でもなぁ、パンもパンって言ったってって感じだし〜?」
「まあ、パンもご飯もいいって事で、どっちもちょっとずつにしよう。バイキングだ! sora、連絡お願い。」
『分かりました』
「あ、ちなみに俺の好物もずく酢と海ぶどうね。」
「渋っ!おじいちゃんみたいな。」
「嫌いな食べ物はゴーヤとピーマン。ってかゴーヤはピーマンの進化系。」
「今度は急に子供舌!」
『朝日さん言ってやってください。好き嫌いは良くないですもの!』
「そうだそうだー。」
「そこ団結されると勝てないからやめて〜。」
そんな他愛もない会話をしながらセンターに移動して、今度は【ダイニングルーム】と書かれた部屋に通される。
ビビットな感じの部屋で、丸いモチーフが多い。中央にある机には目を見張るほどの料理があって、どれも素晴らしい香りと色を出していた。
やばいホントに美味しそう。
思わずお腹が鳴って、聞こえてないかなとちょっと心配になった。
チラッと琉斗を見ると、
「すごいでしょ!めっちゃ美味しそうでしょ。」
と言う、聞こえてたのか聞こえてないのか分からないことを言われた。ま、聞こえてないっしょ。
とろろご飯が美味しい。出汁の優しいうまみと滑らかなとろろと香り高い醤油と炊き立てご飯。めっちゃいい。
あとふわっ、とろっ、なフレンチトーストが最高!主食ばっかり食べてる感じで罪悪感…。でもまあ、しばらくまともに食べてないんだし!多少はね!許されてもいいよね!
目玉焼きは白身がカリカリになってるやつだしソーセージはパリッパリに焼いてあるし、、ヨーグルトとマンゴーが入ったパイナップルのラッシーがあるし、お味噌汁の具はなすだし、細かいところなんだけど私の好みにバッチリ合っていて本当にこの人私の知り合いなのかなぁと思った。
「はー。うまー。機械も侮れないわー。」
パリッ、といい音のするクロワッサンを齧りながら幸せそうな顔で琉斗が言った。
バターの香りがこっちにまで漂う。
「機械作った本人が侮る訳ないでしょうね。自画自賛。」
「美味しいでしょ?」
「うん。」
でもちょっと気になることがある。
「ねえ、こんなにあるけど全部食べれないでしょ。捨てるの?」
「ん?いや。もったいないじゃん。フードロスってやつだし。捨てないよ。っていうかもともとないよ。」
は?じゃあ私が食べてるこのハッシュドポテトはなんなの?
「何言ってんの?」
「全部映像投影で出てるだけなんだよね。で、食べたいなーと思って、トングとか手に取ると、その人が取る分だけ作られて、そこで初めてリアルで出てくる。匂いとかも作ってる。」
え。なんか夢壊された気分…。にしてもリアル〜。最新技術すごい。
「なんか裏切られたショックと感心で顔が歪んでるよ。」
「は?乙女に向かって顔が歪んでるとは何よ!デリカシーのない。」
「そしてその反応はドンピシャでもあることを示している。」
「………。」
ふんっ。
「ごちそうさまでした。」
そう言うと映像投影がスッと消えていった。わぁ。ほんとになかったんだ…。
ご飯を食べ終わって、センターの中を見学することになった。
なんか、とりあえず広い。
中央吹き抜けでデパートみたいな感じだけどデパートより広くってスペースが贅沢に使われている。
ところどころに観葉植物が置かれていて、緑と内装に使われた木がとっても綺麗に映えていておしゃれを極めてる…。
ホテルみたいな感じでもあるけど一応ちゃんと住んでるんだなーと言う生活感はある。
精密機械みたいなのたくさんあるらしく色んなところでロボットが働いているけれどもなぜか一度も私は機械を見つけられなかった。隠してるらしいけど隠すのがうますぎる。
ずっとまっすぐ歩いていた琉斗が急に曲がって一つの部屋に入った。
慌てて追いかけるとドアの横に書いてあった文字は【ジム】だった。
おしゃれなのは言うまでもないんですが、ピッカピカの最新機器が揃っていて超かっこいい。
「朝日ー、ここ入って。」
「え、なに。なんか絶対怪しいんだけど。」
「大丈夫だ問題ない。」
「略して大問題…。」
「そこ略さないで!」
「わかったわかった入るから。」
円柱状の黒い物体があってそこに入れと言われたら…ちょっと怖いよね。
近づくとウィンと言う音を立てて円柱の側面が少しスライドして開いた。
恐る恐る入るとまたウィンと音を立てて側面が閉まった。
真っ暗で正直言って超こわい。
ピピッ
円柱の内側から青いレーザーがたくさん出てきて身体に突き刺さる。いや、全然痛いとかないよ?検査されてる感じ?
プシューーーーーー
「うわっ!」
急に大きな音と共に側面から白いものが噴射された。
なになになになになに、琉斗のやつ私にドッキリでも仕掛けてんの!?
「お疲れ様でしたー♪」
やけにテンションの高い声が円柱の上から聞こえた。
壁が開いたので外の光にクラクラしながら外に出る。
「りゅうと〜〜〜〜〜!!!!」
「いやいやいやいやいや違うんです」
「何が違うんですやねん!」
「見て!自分の服見て!!」
言われて見てみると、私服からスポーツウェアに変わっていた。今の一瞬で!?
「どういうこと!?」
「なんか簡単に言うと超高温状態にして一回衣服を溶かして、周りからスポーツウェアの素材を吹き付けて冷却して固めて形にして、元着てた服はまた戻して…って言うのをやった感じ?結果的にプラマイゼロだから何も温度変化は感じないんだよね。一瞬すぎて。はい、着てた服。」
円柱の側面がぱかっとポストみたいに開いて服が出てきた。
「ありがと…。」
ハイテクすぎてよくわかんない。
とりあえず私の服は溶かされたらしい。
まじまじと服を見ても変化は感じられない。うん。気にしないことにしよう。
「で?どうしろって?」
「ジムに来たんだから運動しようぜ!ランニングマシンで耐久レースな!」
「はい?こっちはずっと動いてない引きこもりなんですけど?」
「とか言って朝日めちゃくちゃ体力あるでしょ」
「もう衰えた。」
「まあまあとりあえず。勝ったほうがお昼ご飯を決める権利を持ちますのでそこんとこよろしく!それとも負けるのが嫌なのカナ?」
うざい。はっきり言ってこんなガキっぽい挑発に乗るのも癪だけどお昼ご飯は私が選ぶ!
闘志を燃やしてランニングマシンに乗った。
****************
「……はぁ、はぁ、あ、さひ…つよすぎ…。」
「琉斗の体力が無さすぎるだけ。」
「おれこれでも30分は走ったよ!?」
琉斗は私から見ればすぐへばった。ちなみにランニングマシンは走り始めると風が出てスクリーンになってる周りの景色が変わって走ってて面白かった。
「なんで俺がこんなに疲れてんのに朝日は余裕の表情でまだ走り続けてんの…。」
「今ちょうど体あったまってきたくらいでベストコンディションだから。」
「なんの格差なのこれ…!?」
「日頃の行い。」
「いや…!そうっちゃそうなんだけど意味違う…!」
「ということでお昼の決定権は私にあり!」
「完敗です……」
満足するまでしばらく走ってから綺麗なシャワールームでシャワーを浴びて、円柱でまた着替えた。
着替えると元の服とは違う服になっていてびっくりした。
soraが用意してくれたらしい。かわいいけど私にこんなおしゃれな服は似合わない。
『そんな事ないです!ちゃんと分析して出した一番似合う服なんですから!AIを信じてください!』
心を読んだsoraに言われた。確かにデータで出したならそうなのかもしれない。少なくとも私の好みでは、ある。
「ありがと。sora。」
『はい!』
建物の中にレストラン街的なのがあって、結構迷った。結局最後絞った何個かでどれにしようかな、って指で指していって選んだ。中華だ。
私中華って点心が一番好きだったりする。小籠包とか春巻きとかシュウマイ、餃子、胡麻団子、とかとか。エビチリとチンジャオロースも結構好き。
とかなんとか考えてたらsoraが読み取ったのか知らないけど注文してないのにそれらが全部運ばれてきた。
『私ではありませんよ。』
「だから急に話さないでよsoraー!怖いから!」
「ん?なになに?何がsoraじゃないの?」
「いや頼んでもないのに私が好きなのが全部来たから…。」
「ああ、俺があらかじめ全部の料理店に朝日の好物を登録してるから。」
何回でも言う。怖い。こいつストーカーだ。
「まあそれはいいんだよ。冷める前に食べようぜ!」
「…いただきます…。」
なんかなんとなく気乗りしないけど食べた。
正直に言う。めちゃくちゃ美味しかった。
****************
「朝日、図書室行く?」
お昼ご飯を食べ終わったあと、琉斗が言った。
「え、行く!行きたい!」
本大好き。一日で20冊は読める。
図書室まであるのか。まあこの規模ならありそう。琉斗って本なんか読むのかな。
『まったくと言っていいほど読みませんよ。』
「あ、そうなの。」
そろそろsoraが勝手に読み取って話してくるのも慣れてきた。
じゃあなんで作ったんだろう。
『いつか来る人のためですよ。』
……ふーん。待ってる人がいるんだ。琉斗には。
この星で一人待ち続けるほど大切な人がいるんだ。
別に、だからといって、なんでもないけど。
誰なんだろう。どんな人なんだろう。
私の心は読み取ってるはずのくせして、soraは答えてくれなかった。
吹き抜けのほんとにショッピングモールみたいな場所を歩いていく。
建物の端まできたところで大きな木のドアがあった。木のドアと言ってもアンティーク系ではなくまっすぐな一枚の板という感じで美しい木目が映えていて、シンプルながらにオシャレだ。
ドアの横にはプレートがかかっている。【一期一会な図書室】
一期一会?本が、ってことかな。
ドアに近づくと自動で開いた。高級そうな見た目に反して自動ドアらしい。
「うわぁ……!」
すご、かった。
建物は高くて5階くらいまである。
螺旋階段のようになっていて、壁も階段も全てが本棚でできていた。
見た目のデザインとしては木の箱が複雑に重なっているような感じで、木の色もそれぞれ違うのでおしゃれだ。
中央はやっぱり吹き抜けで、天井は鮮やかなステンドグラスになっていた。
色とりどりの光が柔らかく降り注ぐ図書室はとても心地の良い空間だった。
おしゃれで近代的なデザインではあるものの、木の使い方や所々にはめられたステンドグラスやプリズムによって少しレトロな感じも出ていて懐かしさもある。木や本の紙の匂いが鼻をくすぐるけれどホコリっぽくはなく清潔感がある。
「いや〜、作ってから初めて来たけどなかなかいい出来じゃないの。」
「完成形見てなかったの…!?」
「本読まないしねぇ。」
「……。」
〈こんにちは〜朝日ちゃん!soraちゃん!あ、琉斗来たの?〉
コロコロと可愛い音をたてながらロボットがやってきた。話したってことはAIなんだろう。
この空間にロボットってちょっと合わない気もするけど、木を基調としてデザインされていて光も温かみのある薄いオレンジなので不思議と馴染んでいる。
「おい何だよ創った人に向かって来たの?ってなんだよ〜!しかもおまけ感半端ないし!朝日たちとの扱いの格差ひどすぎだろ〜!」
「琉斗、そんなAI相手にキレないの。ガキじゃあるまいし。」
『いや、ガキですよ。』
「ああ、そうだった。ごめんsora。」
「二人とも酷いよ!?」
〈仲良しだねー!〉
「そんなことない!」
「だろ!」
二人の声が重なった。
「はぁ!?いつ私があんたと仲良しになったっていうのよ!」
「俺と朝日は永久に仲良しだ。」
「カッコつけて謎ゼリフ吐かないでもらえます?」
〈まぁまぁ朝日ちゃん。どうせこいつの思い込みだってことは分かってるからほっとこ。〉
「おい!だから創り主に向かって…」
〈っていうかそうだ朝日ちゃん!!私ず〜っと待ってたんだよ!!〉
まだ何か言いたげな琉斗を放置して木のロボットが言った。
「待ってたって…私を?」
〈うん!あ、その前に自己紹介させて!!私は図書室司書のヒナです!〉
「司書さん、なんだ。」
〈うん!そうだよ!でねでね、私朝日ちゃんが好きそうな本たくさんリストアップしてあるの!読んでほしいなぁ!〉
ヒナはロボットなのにキラキラとした目で私を見上げてくる。
話し方やサイズ、声が小さい子供みたいでめちゃくちゃかわいい。
「私の好きそうな本?」
〈琉斗が私の中にプログラムした朝日ちゃんの好みの本から分析してこのタイプが好きなんだなと思って探した本たちがあるんだよ!〉
ステラに持ってきたやつは何十回も読み返してて大切なやつだけど飽きた。と言うか本を読む、という感じじゃない。
本が読みたい。でもこの中から選ぶのはあまりに無理な気がする。
じゃあやっぱりヒナに選んでもらったやつ、という選択肢が一番有効そうだ。とかなんとか言い訳気味に考えるけど結局は普通に本が読みたい。気になる。
もういい加減琉斗がなんで知ってるんだよってことは置いとくとしよう。
「読み、たい。」
〈やったぁー!!じゃあじゃあ、用意するね!〉
「うん。お願いします。」
〈何冊読める?〉
今日6時に帰って10時に寝るとして単純計算4時間。
「6冊くらいかな。」
〈オッケー!じゃあせっかく最初だし張り切っちゃお〜!!みんなー、いくよ!準備オッケー?〉
[イェッサー!]
ヒナの声に反応してまたどこからか新しい声が聞こえてきた。
こんどはたくさんいるようだ。
〈彼らは書庫に隠れてるAIたち!〉
[ですです!]
〈番号行きまーす!187番、5538番、7793番、4628番、324番、11758番!お願いしまーす!〉
[オッケー!!]
その瞬間図書室の各地にあるプリズムが動き出した。
プリズムは全部棚につけられてたらしく、棚自体が動いているらしい。
本はそれぞれ一冊につき一つの木の箱に入っていて、それが積み重なって棚に見え、階段に見え、オブジェに見えているだけ、という感じのようだ。
本はそれぞれ引っ込んだり押し出したりとお互い動きながらだんだんと集まってきて最終的に受け取り口までやってきた本をヒナが回収する。するとまた棚が戻っていって…
どんどん動いていく色の濃さの違う木たち。キラキラと光を撒いたように輝くのはステンドグラスの光をさらに弾くたくさんのプリズム。動かしてる機械の音なのかぶつかっている木の音なのか、棚が動くのと同時にコトコトとあちこちから音がした。その音とプリズムの光がデュエットをして、まるで音楽のように聞こえた。
驚くほど同じタイミングですべての棚が止まると同時に図書室に満ちていた音楽はぴたりと止まり、それぞれの場所で静かにひっそりと光を反射するだけになった。あまりの静かさに時が止まったかのように感じた。
一番の驚きと言えば、図書室がさっきと全く違う景色になっている事だろうか。
棚の並びや木の色、プリズムの位置が大きく変わっていて、あるものは同じなのに違う場所のようだった。
「おお!プログラム失敗したかと思ってたけど上手くいったねぇ!」
……そうか、これ琉斗が作ったのか…。
ありえない。めちゃくちゃすごい。
「一回一回内装が変わるようになってるんだぜ!2度と同じ内装にならないようになってるんだ!だから一期一会な図書室、ってわけ!はー、こんだけの数の棚があるからどっかで詰まったりぶつかったりするかなーとか思ってたけど意外となんとかなるもんだね!」
〈はい、朝日ちゃん!本です!〉
「…っ、あ、ありがとう。」
あまりにびっくりして、ヒナに話しかけられてもすぐに反応できなかった。
手渡された本には全て綺麗なブックカバーがかかっていた。柔らかな手触りの布は触り心地が良くて気持ちいい。
発色がいいながらに優しい色合いのカバーはただピンクや水色なんて言うにはもったいない色をしていた。
「綺麗なカバーだね。」
〈でしょでしょ〜!上から順に虹色、瓶覗、月白、白藍、若苗色、金糸雀色、っていう色なんだよ!全部日本の伝統色なんだよ!〉
「虹色…?」
どう見てもピンクだし…。少なくともレインボーカラーではない。
〈日本の伝統色で明るい灰みのピンクを虹色というの!〉
「へぇ、可愛い…。」
〈全部の本に違うデザインのカバーがかかってるんだよ〜!!明日も楽しみにしといてね!え、明日も来るよね?〉
「うん。そのつもり、と言うかそうしたいなぁ、と思ってる、けど。」
〈よかったぁ!明日も用意しとくね!〉
「ありがとう。」
そして私たちは図書室を後にした。
********
どこに向かっているのかはわからないけど、とりあえず琉斗とsoraについていく。
しかし手に6冊も本を持って歩き回るのは少ししんどい。
『あ、まわるのに本邪魔ですよね!預かっておきます!』
さすがと言うかなんというか。言わずとも察してくれる。
怖いけど、なんか慣れてきた。しかしこれは慣れては危険な気がする…。
soraはなんと手があるらしい…。球体の両サイドが丸く開いて、中からアームが出てくる。
「なあ、俺のとっておきの場所があるんだけど見る?ってか見てくれない?」
ご機嫌そうに前を歩いていた琉斗がくるりと振り返って言った。後ろ歩きしてると転けるよ。
「んー。いいよー。」
「反応薄っ!ホント朝日は相変わらずしょっぱい…。」
「琉斗のテンションが高すぎなんだよ。」
『そうですよ琉斗』
「なんか soraやたらと朝日の味方するよなー。俺父親なのに。」
『私の父は琉斗ではなく間宮博士です!』
プイッとsoraは琉斗から顔を背ける。
機械なのに表情が変わる。かわいい。
「…ん?間宮博士って誰?」
『私の父です。』
「それは聞いたけど…。soraを作ったってこと?じゃあその人はどこに?」
「soraの父親ってだけだよなー。それ以上でもそれ以下でもない。ってか実質メンテナンスは俺がやってるんだから育ての親俺だしー!」
『別に本気出せば自動メンテナンスできますし〜』
「そう俺が設定したからな!?」
いつのまにか話が逸らされている。
なんか絶対隠してる。ホントこの人隠し事下手。
一見普通に話してるように見えるけど、目がオリンピックの水泳選手かよってくらい泳いでる。
琉斗はチラリと私を見てギクっとし、前を向いた。え、いやわかりやすっ。
しばらく角を曲がったりまっすぐ廊下を突き進んだりしたあと、施設の端っこにたどり着いた。
その間も琉斗はやたらと早口でペラペラと喋っている。誤魔化してるつもりなんだろうか。私は何も言っていないのに。soraでさえジト目で琉斗を見ている。
「あ、着いた。そうそう、見て!俺の渾身の【リュートパーク】っ‼︎」
ネーミングセンスないなとか思ったけど。両開きの大きな自動ドアが開くと思わず息を呑んだ。
某ネズミの国とUSN(ユニバーサルスタジオ日本)とトロロというお化けが有名なあの会社のパークと…と言った思いつく限りの娯楽施設を全部詰めたらこんな感じだろうか。ものすごい夢が詰まってるとしか言いようがないような場所。
「アトラクションもあるし、公園も水族館も動物園もプールも映画館もショッピングモールも、お店もアニメーションの街並み再現エリアもあるし、地球の世界遺産のエリアも、お土産屋さんもあるんだぜ!しかも映画は俺が作った‼︎ヤバくね⁉︎」
え、ヤバい。うん。やばいとか言うレベルじゃない。
…経費が気になるけどこの星にお金なんてなさそうだし,琉斗以外の人間もいないらしいから関係ないのだろう。
「え、これも全部映像投影?」
「いや、こっちは全部ちゃんと実物。作った。」
「マジで言ってる?」
「まー言ってもセンターと同じくプログラミングしただけだけどねー」
だから十分すごいって。
絶対高2じゃない。この人。チャラいくせして頭はいいとか…。なんなの…。
に、しても。本当にすごい。だって端がちっとも見えない。
…私、実はめっちゃテーマパーク好きなんだよね…。早く行きたい…っ!
「ふふふ。朝日さん顔がにやけてますぞ。早く行きたいんでしょ〜。」
「な、何よ。悪い⁉︎」
「はいはいムキにならないの。どうぞ好きなだけ回ってください。いゃ〜だってさぁ、せっかく頑張って作ったのに俺以外いないから誰も来ないしさぁ〜。正直つまんなかったんだよ。だから思いっきり楽しんで!」
…これを断れると思う?無理。もはやこっちから懇願するくらいだ。
私はいそいそと入り口にある案内板に駆けていく。
〔朝日さんようこそリュートパークへ!〕
わっ、案内板がしゃべった。
と思ったら案内板の後ろから小さなAIが出てきた。
円柱状のボディに半球の頭、手と足が生えているが正方形の板にハンドルがついたスクーターのようなものに乗っていて歩いてはいない。スーーっと滑るように移動している。
AIはこちらを見るとハンドルを握っていた手を離し、両手を広げて笑顔で言った。
〔おめでとうございます!あなたはこのリュートパークの初めての来場者です!〕
うわよくあるやつ〜。実際やってるの見たことないけど。
これはおそらく琉斗の趣味だろう。
「こんにちは。えっと…」
〔ボクはこのリュートパークを案内するために作られAI!リクと言います!〕
「こんにちはリク。じゃあ…早速案内お願いできる?」
〔もちのロンです!まずこのパークの基本情報から!〕
そう言って案内板を操作する。おしゃれで可愛らしいイラストが出てくる。エリアマップのようだ。
〔このリュートパークにはありとあらゆる娯楽施設が詰まっています!数々のアトラクション・公園・水族館・動物園・プール・温泉・映画館・ショッピングモール・植物園・レストランや売店・牧場・畑・アウトレット・美容室・スポーツエリア・スノーエリア、などなど!〕
「…多いね。」
〔はい!その中でもそれぞれエリアがさらに分かれていますので、全部回るには4年ほどかかる計算になっております!〕
「4年…?」
〔お買い物などにはリュートパーク限定の仮想通貨、『RYU』を使うようになっております!『RYU』はお客様が楽しむたびにそれに比例して貯まっていく形となっております!基本的には旧日本円と同じ計算となっておりまして、お客様に使いやすいようになっていると思われます!『RYU』はこちらのリストバンド『Blue tree』をかざすとお会計できるようになっております。『Blue tree』がお客様の心拍数などから楽しみ具合を読み取り、独自の判断でRYUを貯めていきます!『Blue tree』にはGPS機能やマップ機能、記録機能がついておりまして、迷子になっても安心かつ、いつどこのエリアを回ったかもわかるようになっております!〕
RYUって琉斗のリュウだよね〜…?Blue treeって青木だよね〜…?いやネーミングセンス本当にどこに置いてきたんだこの人…。
『いやほんとですよね〜私も何回も反対したんですよちゃんと考えろって。』
〔まーまだボクらの名前をまともにしてくれただけよかったですよー。どうします?『琉斗のお供1号』とかってなってたら…ひゃーゾッとしますねsoraさん。〕
『ほんとですねぇ〜。』
「お前ら俺へのディスり酷すぎない!?」
「まー琉斗ならやりかねない。」
「朝日まで…酷いぃ…。」
「リク〜こいつはいいから説明お願い〜。」
メソメソし始めた琉斗を適当にあしらってリクに続きを頼む。
こんなやつに構ってる暇はない。いや別にそんな忙しくないけど。
〔そーですね〜。えっとですね、あ、そう!レンタル品の説明です!スポーツの際の道具やトレーナーなどは各エリアに常備されておりますので自動着替えマシーンで着替えてくださいね!あとそれからパーク内の移動についてですが、空飛ぶ乗り物『AIR FLY』がございます。こちらはカート型となっておりまして、1人用と2人用がありますがちょっと操縦が難しいのでAIによる自動運転にすることも可能です。空を飛ぶ浮遊感を楽しみたいなら箒や絨毯も用意してますのでぜひ!〕
すごい…なにそれ夢みたい。
〔お土産は各ショップで購入が可能で、パーク内の食べ歩きフードについては店頭で買うこともスタッフに持って来させることも可能です!ちょっぴりセレブな気分を味わえますよ!お土産や手荷物はお付きの荷物持ちロボットがおりますのでそれに持たせていただければ結構です!ロボットは少し離れた位置をついてきますので遊ぶ際に気になることはございません。呼べばすぐに来ますのでご心配なさらず!〕
…なんか、至れり尽くせりすぎて信じられない。こんなに素晴らしいことってある?
〔さぁ朝日さん本日はどちらに行かれますか?〕
「えっ、どうしよう。」
記念すべき初のリュートパーク来園はどこにするか…結構大事。
でもどこも魅力的でとてもじゃないけどパッと決められない…。
『朝日さん、楽しそうなところ悪いんですが、もう時間なんですよ。』
「えぇっ!そんな!」
『また明日です。』
「そうだぜ朝日。今日回んなきゃ死ぬわけじゃあるまいし。ここが無くなるわけでもない。」
『なんなら行った方が死にますよ。』
めちゃくちゃ物騒だ。
「毎日毎日死にますよって言うのやめてよ〜…」
『事実を述べているのです。』
「急に淡々とするのもやめてー。」
「まあまあ、そんな駄々こねないの。」
「うっわ琉斗に宥められるとか最悪。」
「えー。」
『気持ちは分かります。」
「 soraまでヒドイ〜。」
『ほらっ!帰りなさい!』
「めっちゃお母さん感ある。」
「ちょっと琉斗早く行こう。私死んじゃうらしいから。」
「これが冗談じゃないのが怖いところ」
「はーやーくー。」
「へいへい。」
なんだかんだ言ってバイクはもう出してくれていた。あっという間に鏡について、またモノクロの極夜の世界に戻った。
部屋に戻ると本を読んだ。どれも私の好みですごく惹かれる。それでいて同じようなものに偏らず、あまり読んだことないようなジャンルもあって新しいジャンルが開拓されてすごく面白い。
読み終わるとちょうどお腹が空いていて、でも缶詰しかないことを思い出してげんなりする。無理矢理口に詰め込んで、さっさと食事を終わらせた。
布団に入る前に目覚まし時計をやっぱりセットして、明日のことが楽しみで、やっぱちょっと認めたくなくて。1人の部屋で1人で勝手に拗ねて寝た。