情けない。好きな人に自分の素直な気持ちを伝えることができないなんて。しかも、伝えられないだけでなく、傷つけてしまうなんて。

 しばらく、自問自答を繰り返す。

 どうすればうまく伝えられたのか、どうすれば傷つけずにすんだのか。

 でも、答えなんか出るわけがなくて、頭がパンクしかける30秒前、沈黙に身を任せた。

 そして不意に、彼女の声が耳に届く。

「圭斗君はさ、たぶん優しすぎると思うんだよね。普通っていっても、人によって違うからあれだけど、一般論?的にはさ、たぶん自分の好きな人が恋人で、信じられないって言われたらへこむと思うんだよね。君がへこんでるかはわからないからこんなことを言ってしまうと思うんだよね。でも、私にはすごく不思議でしょうがない。そして、それと同時にとても申し訳なくなる。なんで君は、そんなに優しいんだ、、」


 驚いた。付き合い始めてそんなに時間がたっていないのに、優しいと言ってもらえる日が来るなんて、誰が思うだろうか。

  しかも、あんまり彼女が真剣にいうものだから、なぜかわからないが、愛しさを感じる。俺は末期かもしれない――彼女大好き症候群の。

 でも、ちゃんと訂正する。俺は、美優さんが思っているような人ではない、と。

「俺はそんな優しい人間じゃないよ。普通に人を傷つけることだってあるし、むかつくことだってある。でも、そんな自分をなくしてでも美優さんといるときは、いい子になろうとする。理由は簡単。美優さんのことが好きだから。好きだから素直に感情を出すし、大事にしたいと思う。もちろん、美優さんに信じるのが怖い宣言された時はへこんだよね。でも、それでも俺は、美優さんに寄り添いたいなって思う。これはただの俺の上っ面。だから、たぶん信じきれない部分がある気がする。―ってごめん。自分でも何言いたいかわかんないや。質問にも答えられてなかったらごめん」
「大丈夫」

 謝ると同時に返事が返ってきて、少し驚く。そんな即答しなくてもいいのに。

 でも、力強く肯定してもらえて、今日一番安心する。受けて入れてもらえたと思って。

「今日はごめんね、君のこと傷つけたよね」
「大丈夫。だって、美優さんの本音が聞けたもん。このまま疑われ続けるよりは全然いい。だから謝らないで」

 そう、本当の本当に本音だ。これには嘘偽りなんて1ミリもない。

 俺が発した言葉で、彼女がひらひらと舞う雪のように麗しい笑顔を俺に向ける。それがとても嬉しくて、つい口元がにやけてしまったのは、気が付かないふりをしておく。

 ちょうど予鈴が鳴る。この学校の昼休みが長くて助かった。最後に本音を言う時間ができたから。

「チャイムも鳴ったし、戻ろうか」
「うん」

 そういって俺たちはそれぞれの授業が行われるクラスへとあわただしく戻って行くふりをして、授業を初めてさぼった。

 彼女は授業に間に合っただろうか。