「伊月! なんだその頭は!」
翌朝、登校した伊月くんは教室に入らないうちから先生に見つかっていた。
誰も髪を染めていない黒髪集団の中で、黒毛まじりとはいえブリーチした金髪は目立って仕方がない。
当然のことだった。
「カッコいいだろ! オンリーワンでナンバーワンの男のヘアスタイルだ!」
廊下の向こうから速足でやってくる教師に逃げも隠れもしないで、伊月くんは教室の扉の真ん前で仁王立ちになる。
教室に入ろうとしていた何人かが、伊月くんに通せんぼされた格好になってしまう。
「校則違反だろうが!」
教師に襟首を引っつかまれて、教室の前から廊下の隅へと移動させられる。
なんだか、虎縞模様の子猫に見えた。
ムラだらけのブリーチがいい味出してる。
「オマエは次から次へと性懲りもなく!」
ガミガミと教師の説教が始まるけど、伊月くんはどこ吹く風だ。
教師に何か言われて何かが変わるような伊月くんだったら、最初っから髪なんて染めてない。
「伊月くん、また思い切ったことをしたねぇ」
教室の廊下に面した窓から顔を出して伊月くんを見ていると、隣にもう一つ頭が出てきて話しかけてきた。
依織さんだ。
「まあ、誰にも迷惑かけない校則違反だからいいんじゃない」
僕は教室の中に頭を引っ込めて、言葉を返す。
ブリーチでアレルギーが出ても自業自得だし、酒やタバコと違って将来への影響もハゲリスクぐらいだと思う。
実際どうかは知らないけど。
伊月くんが金髪になったところで子猫感が増すだけで、威圧感を与えたり周囲への悪影響も少ないだろうしね。
「ふふっ、確かにそうだね」
依織さんはそう言って、赤縁眼鏡の奥の目を細めて笑う。
僕の勝手な偏見だけど赤縁眼鏡ってお笑い芸人のイメージが強くて、なかなか高度なオシャレアイテムだと思う。
それを可憐につけこなす依織さんは、とっても美人。
彼氏の欲目かな?
黒いロングヘア―によく似合ってる。
同じ色のカチューシャつけたらもっと素敵だろうなと思って、そんな見た目のゲームキャラがいたことも思い出してしまった。
違う違う。
依織さんはオンリーワンでナンバーワン。
そういうので好きになったわけじゃない。
依織さんが良いと思うファッションが一番似合ってる。
「今度の日曜日だけどさ、映画見に行かない? この間の動画で出てきた犬の映画、見てみたいって言ってたよね」
僕がデートの提案をすると、加工アプリを使ったんじゃないかっていうぐらい表情が明るくなった。
「覚えててくれたの? 嬉しい!」
なんて素敵な笑顔なんだろう。
彼女には、ずっと笑っていてほしい。
こんなに可愛い人が僕のことを好きでいてくれて、僕の恋人だなんて、信じられない。
「映画見に行った後はさ、チーズケーキ食べに行かない? 駅前に専門店あるの」
小首を傾げてお伺いをかけてくる依織さんに、胸の中に大輪の花が咲いたような気持になる。
「僕が好きなの、覚えててくれたんだ」
なんて幸せなことだろう。
そう思った瞬間――窓から飛び込んできたカバンに上っ面を叩かれた。
幸せの絶頂から、奈落の底に。
「俺のカバンよろしく~」
伊月くんが窓の向こうを駆け抜けていった。
「伊月、待ちなさいー!!」
そのあとを、パトカーのごとく教師が追いかけていく。
まあ、伊月くんも僕みたいな地味男の友達だって考えると夢みたい。
逃れられない悪夢かな?
「大丈夫?」
依織さんだけが、僕の癒しだった。
翌朝、登校した伊月くんは教室に入らないうちから先生に見つかっていた。
誰も髪を染めていない黒髪集団の中で、黒毛まじりとはいえブリーチした金髪は目立って仕方がない。
当然のことだった。
「カッコいいだろ! オンリーワンでナンバーワンの男のヘアスタイルだ!」
廊下の向こうから速足でやってくる教師に逃げも隠れもしないで、伊月くんは教室の扉の真ん前で仁王立ちになる。
教室に入ろうとしていた何人かが、伊月くんに通せんぼされた格好になってしまう。
「校則違反だろうが!」
教師に襟首を引っつかまれて、教室の前から廊下の隅へと移動させられる。
なんだか、虎縞模様の子猫に見えた。
ムラだらけのブリーチがいい味出してる。
「オマエは次から次へと性懲りもなく!」
ガミガミと教師の説教が始まるけど、伊月くんはどこ吹く風だ。
教師に何か言われて何かが変わるような伊月くんだったら、最初っから髪なんて染めてない。
「伊月くん、また思い切ったことをしたねぇ」
教室の廊下に面した窓から顔を出して伊月くんを見ていると、隣にもう一つ頭が出てきて話しかけてきた。
依織さんだ。
「まあ、誰にも迷惑かけない校則違反だからいいんじゃない」
僕は教室の中に頭を引っ込めて、言葉を返す。
ブリーチでアレルギーが出ても自業自得だし、酒やタバコと違って将来への影響もハゲリスクぐらいだと思う。
実際どうかは知らないけど。
伊月くんが金髪になったところで子猫感が増すだけで、威圧感を与えたり周囲への悪影響も少ないだろうしね。
「ふふっ、確かにそうだね」
依織さんはそう言って、赤縁眼鏡の奥の目を細めて笑う。
僕の勝手な偏見だけど赤縁眼鏡ってお笑い芸人のイメージが強くて、なかなか高度なオシャレアイテムだと思う。
それを可憐につけこなす依織さんは、とっても美人。
彼氏の欲目かな?
黒いロングヘア―によく似合ってる。
同じ色のカチューシャつけたらもっと素敵だろうなと思って、そんな見た目のゲームキャラがいたことも思い出してしまった。
違う違う。
依織さんはオンリーワンでナンバーワン。
そういうので好きになったわけじゃない。
依織さんが良いと思うファッションが一番似合ってる。
「今度の日曜日だけどさ、映画見に行かない? この間の動画で出てきた犬の映画、見てみたいって言ってたよね」
僕がデートの提案をすると、加工アプリを使ったんじゃないかっていうぐらい表情が明るくなった。
「覚えててくれたの? 嬉しい!」
なんて素敵な笑顔なんだろう。
彼女には、ずっと笑っていてほしい。
こんなに可愛い人が僕のことを好きでいてくれて、僕の恋人だなんて、信じられない。
「映画見に行った後はさ、チーズケーキ食べに行かない? 駅前に専門店あるの」
小首を傾げてお伺いをかけてくる依織さんに、胸の中に大輪の花が咲いたような気持になる。
「僕が好きなの、覚えててくれたんだ」
なんて幸せなことだろう。
そう思った瞬間――窓から飛び込んできたカバンに上っ面を叩かれた。
幸せの絶頂から、奈落の底に。
「俺のカバンよろしく~」
伊月くんが窓の向こうを駆け抜けていった。
「伊月、待ちなさいー!!」
そのあとを、パトカーのごとく教師が追いかけていく。
まあ、伊月くんも僕みたいな地味男の友達だって考えると夢みたい。
逃れられない悪夢かな?
「大丈夫?」
依織さんだけが、僕の癒しだった。