いざ迷いの森に向かうと決めたコウルとエイリーンであったが、その道のりは相当なものであると知ることとなる。

まず二人はジンが残してくれた地図を確認する。

「えっと、今いる町は……」

「ここではないでしょうか?」

エイリーンが地図の一点を指さす。

そこは、最初にコウルがエイリーンを助けた荒野からそう離れておらず、今の町に違いなかった。

「で、迷いの森は……。そもそも迷いの森なんて載ってるのかな?」

「あ、ここに書いてありますよ」

地図の東の一点。

そこには通常の地図の字とは違う、ジンが書いたらしき別の字で『迷いの森』と書かれていた。

しかしそこは――。

「遠いね……」

マスターは東の森と言ったが、東も東、海を越えた別の大陸にその森はあった。

「一応、神の塔も確認しない?」

コウルは地図の中心を見る。そこにはやはりジンの字で『神の塔』と書いてあった。

「こちらもとても遠いですね」

「世界の中心ってマスターさん言ってたしね」

二人は相応の道のりを覚悟し準備を始める。

幸いなことにジンはかなりのお金を残しており、二人はそれで町に買い出しに出た。

「食料はこれくらいでいいかな?」

食料を買い込み、袋に入れる。ジンの形見の革袋は大きく、数日は持つだろう。

「コウル様だけに持たせるわけには……!」

エイリーンの強い願いにコウルはしぶしぶ折れ、エイリーン用に少し小さい革袋を買い、そちらにも食料を分け入れる。

その他、薬や予備の寝具、旅人向けのマントを買った二人。

「じゃあ、いざ出発!」

町を後に、まずは北東の港町に向かうのであった。



町を出て数日のこと。

「ポ……ム……」

小さな音が、コウルたちの歩いていた道をすり抜ける。

「コウル様、今何か聞こえませんでしたか?」

「うん、何か鳴き声のような……」

二人が辺りを見回すと、エイリーンが岩陰に何かを発見した。

それは、小さいピンク色の丸い物体。いや生き物だった。

手には翼とも手ともいえるものが生えている。足はない。

「ちょっと待って」

コウルは袋から一冊の本を取り出す。

それはジンが残していた手記。彼がこの世界での情報を記したものだった。

それをパラパラとめくり、とあるページで止める。

「あった。この生き物は『ポム』だ」

「だいぶ弱っているみたいです」

エイリーンは手をかざしポムの傷を回復させる。

少しするとポムは目を覚まし二人を見た。

「ポ……ポム?」

見知らぬ、しかも人間だからだろうか。ポムは戸惑っている様子で後ずさる。

「大丈夫ですよ。こちらへ来てくださいな」

エイリーンが優しく呼びかけると、ポムは少しずつだが寄ってきた。

「ポムポム!」

「よしよし」

エイリーンに抱かれポムはなでられる。

「そのポムは子供みたいだね」

「そうですね」

「ポムー」

ポムはエイリーンから降りると、二人を見つめる。

「……懐かれてしまったみたいだけど」

「連れていきません?」

「え」

エイリーンとポムに見つめられ、コウルは仕方なく首を縦に振った。

「いいよ。連れていっても」

「ありがとうございます、コウル様!

「ポムー!」

二人がコウルに抱き着く。

コウルは顔を真っ赤にしながら、エイリーンとポムをどけた。

「じゃ、じゃあ、いくよ!」

赤面を隠すようにコウルは先に歩き出す。

その後ろをエイリーンとポムが追いかけるのだった。



港町についた一行。

さっそく船に乗るために港へ向かったが……。

「船が出ていない?」

定期船が出ておらず、コウルたちはさっそく足止めを喰らう。

「はい。それが、定期船の船長が昨夜から行方不明でして……」

それを聞いたエイリーンは「探しましょう」と一言。コウルも早く進むために船長を探すことにした。

二人で町の人たちに話を聞き、情報を集める。

そして二人が集めた情報で、近隣の海賊が怪しいと突き止めた。

「海賊か……」

海賊と聞いてコウルは悩む。

交戦になるかもしれない。その時自分は、人を斬れるだろうかと。



二人は海賊のアジトへ向かう。入り口には見張りらしき男が一人。

「どうします?」

「一人なら、気をひければ気絶させれるかも……そうだ」

コウルはポムを静かに呼ぶと、ポムを見張りの前に送り出す。

「うん? なんだこの生き物は」

見張りがポムに近づく。コウルはその隙に背後に回り込み、剣の鞘で強く殴った。

「がっ……」

見張りが気絶する。コウルはその場で謝ると、アジトに侵入した。



「コウル様、あそこです」

エイリーンが指さす方向には海賊らしき集団と、その奥に捕らわれている船長が見える。

「どうします?」

「……エイリーンさんはここで待ってて」

コウルはその場で立ち上がり堂々と、海賊たちに近づいた。

「あん? なんだてめえ」

海賊の親分らしき男がコウルを睨む。

コウルは一瞬、怯みそうになったが睨み返しながら言う。

「船長を解放してください」

海賊たちは笑う。少年一人が何を言っているのかと。

コウルはその笑いを無視し、剣を抜き海賊たちへ向ける。

「解放してくれないと、あなたたちを斬ることになります」

この発言はコウルの覚悟のなさがでていた。

諦めてくれればよし。ダメでもそれは自分の責任ではないと。

だが海賊は笑いながら、武器を取り出した。

「小僧、なめるなよ。てめえが剣を構えたところで怖くもなんともねえ!」

海賊たちが突撃してくる。

コウルは仕方ないと感じながら、全身に魔力を巡らせた。

(あの時の感覚を……!)

アンデッドではない。相手は人間。だけどやることは同じ。斬るのみ。

コウルは海賊の攻撃をかわすと、すれ違いざまに斬る。

血は出ない。出るのは魔力の光のみ。それがコウルに少しだけ安堵感を与える。

「てめえっ!」

海賊たちは武器を振り続けるが、コウルはそれをかわし斬ることを繰り返す。

そしてついに、海賊は親分を残すのみとなる。

「て、てめえ。何者だ」

「通りすがりの旅の者」

コウルが親分の武器を弾き飛ばしとどめをさす。その時だった――。

「きゃああっ!」

「!?」

コウルが振り向くと、エイリーンが海賊の一人に捕まっている。

その海賊は入り口で気絶させた見張りだった。

「エイリーンさん!」

「おっと、隙ありだぜ!」

親分が拳を振るう。コウルは避け切れずまともにくらう。

「っ!」

気絶しそうになるのをなんとか踏みとどまる。

しかし、エイリーンが捕まってる以上、手出しができない。

「おらおらどうした! さっきまでの勢いは!」

親分はコウルを殴り続ける。そしてついにコウルは倒れた。

とどめといわんばかりに親分は近くにあったオノを振り上げた。

「コ、コウル様ー!」

その時だった。エイリーンの身体が魔力の光に包まれる。光は海賊を吹き飛ばし、さらに親分に向け光が放たれた。

「な、なにーっ!?」

海賊の親分は光に飲まれる。その光の勢いは親分を吹き飛ばし壁に叩きつけた。

「コウル様っ!」

エイリーンはすぐさまコウルに近づき回復の腕をかざす。

「っ……」

コウルは目を覚ますと首を回してから言った。

「かっこ悪いところを見せちゃったね……」

「そんなことはありません! わたしが捕まってしまったせいでコウル様が……」

エイリーンは涙を浮かべながらコウルに抱き着いた。

コウルは照れつつもエイリーンの背中をなでた。

「……ポム」

「……いいかね?」

二人に近づいてきた、ポムと捕まっていた船長。

「うわあっ!?」

「きゃあっ!?」

二人はさっと離れる。お互いに顔が真っ赤だ。

「おほん。きみたちのおかげで助かった。礼を言う、ありがとう」

「あ、いえ」

船長がおじぎをする。

それを受け止めると、コウルたちは船長を連れ町に帰るのだった。