異世界エイナール・ストーリー

黒マントの男が去り、クロンは廃墟の隅でメルリーンの治療を受けていた。

「大丈夫ですか?」

「……ああ」

クロンの体の傷は癒えている。問題は心だった。

「……あの男との事情を訊いても?」

メルリーンが本題に入る。

「聞かれていた以上、話さないわけにはいかない……か」

クロンが語り始める

「俺の住んでいた村はとある山奥の村でな。あるものを封印する一族たちの村だった」

「あるもの……?」

「信じられないかもしれないが、かつてこの世界に脅威をもたらしたという『魔王サタニアル』だ」

「魔王……サタニアル?」

ジライはまるで知らない表情を浮かべる。

だがメルリーンは違った。

「以前、姉様たちに聞いたことがあります。一悪魔でありながら凄まじい力を持っていたと」

クロンは逆に驚いた。知らなくてもおかしくないことであったから。

「知ってるなら話は早いが……。このことは当時禁句で、外部から来た人にはただの村として振舞っていた。ところがだ――」

クロンは黒マントの男を脳裏に浮かべる。

「あの男はどこから聞いたのか、外の人間でありながらそのことを知っていた。そして俺の前に現れた……」

メルリーンとジライは黙って聞き続ける。

「あの頃の俺は一族の中では弱かった。一族の恥と言われたこともあるくらいにな。

そんな中、あの男は俺に言った。『力を与えよう』……と」

「まさか……」

メルリーンが察する。

「そうだ。俺は奴の口車に乗ってサタニアルの封印の場所を教えてしまった」

「それでは……」

「確かに俺は力を手にした。サタニアルの魔力、その一端を」

「一端ということは、残りは言うまでもなく……」

ジライも察する。

「ああ。奴は俺に力を授けつつも、自身に力の大半を持っていった。そしてさらに……」

クロンの脳裏に浮かぶ村の記憶。闇の魔力に包まれ滅ぶ村。そして闇に飲まれる赤髪の少女。

「奴は村をその力で飲み干した。そして今もその力でここのように破壊を続けている……」

そこでクロンは話を終えて息を吐いた。

「質問は?」

「いえ……。ですが決めました!」

メルリーンが立ち上がって大声を上げる。

「な、なにをですかな? メル様?」

「女神見習いとしての目標です!」

「女神見習い? 目標?」

突然の単語にクロンは付いていけない。

「クロンさんにはまだ話していませんでしたね」

メルリーンは佇まいを整え、クロンに向き直る。

「わたしは女神見習いメルリーン・エイナール。次期女神候補として試練に挑む者」

「そう! メル様こそこの世界の女神……の見習いなのじゃよ!」

あまりにも突然の言葉にクロンは言葉を失う。だが言葉を絞って聞いた。

「女神見習い、なのはわかった。じゃあ目標というのは?」

「女神見習いは次期女神に向けて試練をこなすのです。それは世界に関わることなら何でも」

メルリーンはクロンの手を取る。

「クロンさん。わたしはあなたを護衛として雇い続けるとともに、あなたの復讐に手を貸します」

「なに……!?」

メルリーンの口から出た言葉にクロンは驚く。復讐という単語がサラッと出たことにも。

「わたしはあの人を止めることを女神の試練とする。どうです、じい?」

メルリーンはジライを向く。

ジライはため息をついた。

「どうせ、もう決めたのでしょう。もう止めはしません」

メルリーンは頷いた。

「何を勝手に……!」

「お願いします、クロンさん」

メルリーンがじっとクロンを見つめる。

その瞳にクロンは逆らえなかった。

「勝手にしろ……」

「はい!」

クロンの旅とメルリーンの目標。この二つが今一つに繋がった。