神具を揃えた二人は、さっそく中央大陸、神の塔へ向けて再出発する。

その道中、コウルは聞いた。

「いきなりなんだけど。エルドリーンさんはなんであんなことをしたのかな?」

「と、いいますと?」

「カーズの目的、僕の世界を滅ぼすこと。それはまあよくはないけど理由はわかる。でもエルドリーンさんがカーズに闇の宝玉を渡す理由はなくない?」

「それはわたしも思っていました」

話しながら、エイリーンは飛行する。

「それも含めて聞かなければなりませんね。今回のこと」

「うん」

そして二人は中央大陸に戻ってきた。

「神の塔……戻ってきました」

二人は竜巻が覆う塔の前に来る。

「どうやって竜巻が収まるのでしょうか?」

「心当たりがあるよ。ちょっと向こう向いてて」

コウルはエイリーンの後ろで、神具の武具に着替える。

「いいよ。どう?」

「まあ! コウル、似合ってますよ」

二人がイチャイチャし始めた時だった。神具が突然輝きだす。その輝きに呼応するかのように、塔を覆っていた竜巻が消え去った。

「これは……」

「こういう場合、着てみるのが道を開くお約束かなと思ったんだ。当たりだったね」

二人は塔を登り始める。

塔の内部構造自体は、女神世界と変わらないのか、迷うことはない。

「お待ちしておりました。エイリーン様。コウル様」

広間に黒いワルキューレが待ち構えていた。

「あなたは……エルドリーンの使いですか」

「はい。エルドリーン様に、貴方たちを案内するようにと」

黒いワルキューレは二人を導くように、闇の階段を作り出す。

「こちらへ」

ワルキューレの後を追い、二人は階段を上っていく。



「よく来たわね。姉妹エイリーン」

「エルドリーン……」

女神世界の神の塔では見なかった大広間。エルドリーンはその奥に座っていた。

「エルドリーン。あなたに聞きたいことがあります。何故こんなことを」

「あら、それを聞きたい? なら――」

エルドリーンは剣を抜いた。

「――戦いながら、教えてあげる!」

向かってくるエルドリーンに、コウルはエイリーンを守るように立つ。

「女神の契約者……あなたもここで斬ってあげる!」

剣同士がぶつかり合う。一手、二手と斬り合いが続く。

「やるわね! でもこれならどうかしら?」

エルドリーンはエイリーンのように翼を展開すると、上空を高速で飛び斬り回る。

「くっ……!」

「コウル、こちらも!」

「えっ!?」

エイリーンはコウルを抱えて飛び立つ。

だが、ひとりで飛び回るエルドリーンと、二人分の重さのエイリーンでは速度に差が出るのは当然。

「あはは、情けないわね!」

「エイリーン、無茶は駄目だよ!」

「大丈夫です!」

エイリーンが速度を上げる。コウルは無茶をさせたくないながらも、そのままエルドリーンと斬り合う。

「エルドリーンさん! 僕からも聞く。何故こんなことを!」

斬り合いながらもコウルは問う。

「そんなに聞きたいの。ならいいわ。聞かせてあげる!」

剣がぶつかり距離が離れる。

「元は、エイリーンあなたが邪魔だったからよ。常に私の上を行く、冷静で孤高なあなたが!」

「冷静……孤高……?」

「……」

コウルは今のエイリーンと比べる。可愛いが、冷静さも孤高さもあるとは思えない。

「ああ、そうか。コウルは知らないわね! 元々のエイリーンの性格を! 彼女は元々冷静沈着、孤高の完璧すぎる女神見習いだったのよ。あの男に負けて一度記憶を失ってから今の性格になったみたいだけど!」

「カーズのことか……!」

「そう、カーズ! あの男の計画に協力して、エイリーンに落ちてもらう! その計画だった!」

「なら、計画は成功じゃないか」

「そうね計画は成功よ! だけど……」

そこでエルドリーンはいったん口を止める。その様子は何故だか恥ずかしくて言いにくそうにも見えた。

「私は、私の姉エイリーン。完璧すぎるままのあなたで落ちてほしかった! 今みたいな性格ではなく!」

「「えっ」」

二人は動きを止める。

「それが今回の……理由?」

「ええ、そうよ! 私は自分の計画であなたを落とそうとしたのに、落とした後の結果に悩まされる愚かな妹よ!」

二人は唖然とした後笑い始めた。

「可笑しいでしょう? 存分に笑えばいいわ!」

しかし、エイリーンは横に首を振った。

「違うんですエルドリーン。嬉しいんです」

「嬉しい?」

「ええ、だって、それだけあなたが私を気にしていたということでしょう?」

「! ……ち、違うわ!」

「違わないです! それが今のあなたの本音なのでしょう!」

「ち、違う……違う!」

エルドリーンは急加速し、二人を叩き斬ろうと迫る。

コウルはそれを防ぐが、その勢いは凄まじく、二人とも大きく吹き飛ばされる。

「私は……あなたを気にしてなんか……気にして……」

「もうやめるんだ、エルドリーンさん」

コウルも止めようと声をかける。だがエルドリーンは鋭く睨み付けた。

「あなたが……あなたがいけないのよ。あなたの存在がエイリーンを変えてしまった!」

「えっ」

こちらに矛先が向くとは思ってなかったコウル。

「違います! コウルは関係ありません! あの時のわたしも、今のわたしも、同じわたしです!」

「いいえ、違うわ。少なくともあの時のあなたは……そう、恋に落ちてはいなかった!」

「!」

エイリーンの顔が赤くなる。

「恋に落ちたことは間違いなく変わった証拠。契約者を作ったのも間違いなく変わった証拠よ!」

エルドリーンの攻撃が激しくなる。

「くっ……!」

「エルドリーン、聞いてください!」

「何を!」

エイリーンは一度地上に降りると、エルドリーンと向かい合う。

「確かに、わたしは変わったかもしれません。ですがそれは成長です! 今が新しいわたしなんです」

「そんなことは聞きたくない!」

「いいえ、聞いてもらいます! エルドリーン、あなたもその思いを認めるんです。そうしたらあなたも成長するはずです! あなたが認めたわたしに近づけるんです!」

「わ、わたしは……わたしは……」

「エルドリーン!」

「くっ……ああああっ」

エルドリーンはその場に崩れ落ちた。

それを見た、コウルとエイリーンは近づく。

「帰りましょう。エルドリーン。女神界へ」

エルドリーンがエイリーンを見る。

「私を……許すというの?」

「女神見習いの名の元に、わたしが許します。妹エルドリーン」

エイリーンが手を差し出す。エルドリーンはその手を受け、立ち上がった。

「いいのかしら」

「いいのですよ」

「そうじゃないわ……」

エルドリーンはいきなりコウルに近づいた。

「私はあなたの言う、憧れのあなたになるために契約者を取っちゃうかもしれないわよ?」

「「な」」

コウルとエイリーンはそれぞれ別の意味で驚く。

「ダ、ダメです! コウルは渡しません!」

「フフ……冗談よ。でも、コウル?」

「は、はい!」

コウルは何故か、背を正す。

「エイリーンに飽きたらいつでも私の所にきていいわよ?」

「え、えー?」

コウルは恥ずかしくて慌て、エイリーンはコウルを取られまいと慌てる。

「もう! 女神界に帰りますよ!」

「はいはい、行きますお姉さま」

「待ってよ、エイリーン」

三人は神の塔の転移装置から女神界に帰るのだった。



「エルドリーンめ。我に挨拶もせず帰りおって。」

神の塔の奧で邪神エンデナールが呟く。

「まあ、今回はおおめにみてやろう」

エンデナールはニヤリと笑うのだった。