コウルとエイリーンは『風除けのマント』を入手するため、それを持つという商人を探しに出た。

町の北東の山はさほど遠くはなかったが、その山はかなりの絶壁であった。

「高いね……。こんな所に、商人なんているのかな?」

「ですが、他に情報はないですし」

二人は覚悟を決めて、険しい山を登り始める。

川を越え、岩を越えたあたりで雨が降り始めた。

「海では嵐、山では雨かあ」

二人は慌てて、ちょうどよくあった洞窟に駆け込んだ。

「元々、嵐のせいで濡れていたので、雨宿りしなくてもいいのでは?」

「いや、せっかく乾いてきたのにまた濡れたくないからね。それに……」

コウルはエイリーンの方から目を逸らす。

雨に濡れたエイリーンの服が透けて、コウルは目のやり場に困っていた。

そんな時だった。洞窟の奥から突然声がした。

「いらっしゃいませー! アキナインの洞窟店へようこそー!」

「「えっ」」

二人は洞窟の奥を見る。

そこにはひょうきんそうな男が、様々な道具に並べて座っていた。

「あの……これは?」

「あー、お客さん。客じゃなくて雨宿り?」

雨宿りに入ったのは事実だが、なんでこんな場所にとコウル思う。

「入り口に看板置いてあったでしょ?」

男『アキナイン』がそう言うので、コウルは洞窟の入り口に出る。

そこには確かに『アキナインの店洞窟』の看板が置いてあった。

「こんな所で店……?」

「へい、人が来るタイミングではどこだろうとお店です」

「へえ……」

コウルとエイリーンは感心する。そして聞いた。

「あっ、そうだ。町の人に聞いてきたんです。『風除けのマント』ってありますか?」

「へい、風除けよマントですね。50000GTPになりやす」

「「えっ」」

二人は驚愕した。女神世界と邪神世界ではTPからSTPさらにGTPと金の単位が上がっていく。50000GTPは凄まじい高額である。

「一応、確認してみる?」

二人は持っている財布を漁ってみる。とても足りる金額はなかった。

「ないです? なら残念ながらダメで……うん?」

アキナインは真剣な表情になり、コウルの剣を見た。

「少年、その剣をちょっと見せてくれないか」

「え、はい」

コウルは腰の剣を差し出す。

アキナインは剣を抜くと、それを品定めするように眺める。

「こ、これは『サファイアミスリル』の剣ではないですかー!?」

アキナインは驚愕の声を上げた。

「『サファイアミスリル』って……?」

コウルが聞くと、エイリーンも驚いた表情で剣を見つめていた。

「聞いたことがあります。『サファイアミスリル』……。女神世界では幻と言われる金属のひとつです」

「ええ!?」

自分が持っている剣がそんなレア物だと知り、コウルも驚く。

「でも、ジンさんはそんなこと何も……」

「知らなかった……なんてことはないですよね?」

「ジンさんに限ってそんな……」

二人は考えるが、それを無視してアキナインは続ける。

「こ、この剣なら、マントと交換……いえこっちが金とマントを渡せるくらいですよ!」

「そ、そんなに?」

今は確かに風除けのマントが必要。しかしジンの形見である剣をそう簡単には渡せない。

「それに僕のメインの武器だし……」

そう。女神聖剣があるとはいえ、普段コウルはその剣を使っている。渡してしまうと予備がない。

「そうです、商人様。この剣を預けますので、しばらくこのマント貸してもらうことはできませんか?」

「へえ? まあ、うちはそれでも構いませんが」

「えっ」

あっさり許可が下りてコウルは驚く。二人は風除けのマントを一時的に手に入れた。

「でもよかったのかな。こんなあっさり貸してもらえて」

「大丈夫です」

エイリーンは言った。『アキナイン』は一部で有名な何でも屋で、その商品と商売には安全性が高いとのことだった。

風除けのマントも剣を預けている以上は、十分に貸してくれるだろうとのこと。

「でも、これでモンスター戦は女神聖剣頼みだね」

「そこはコウルを信頼しています」

二人はいつものように照れながら、町に戻るのだった。



町に戻ると、二人は早速飛び立つ。

風除けのマントを二人で覆いかぶさって。

「この被さり方、変じゃない?」

「仕方ないです。マントは一人分のサイズですから」

掴まりつつ、マントの中でもごもご動くコウル。

しかし、マントの効果は抜群だった。嵐の風が避けるように、コウル達の道を作る。

前回よりも早くモンスターの元にたどり着いた。

「うん? いつぞやの二人か。また吹き飛ばされたいようだな」

モンスターはすぐさま二人に暴風を起こす。

だがその暴風をも、風除けのマントは切り開く。

「コウル、今です!」

「うん!」

マントの下で、コウルは聖剣を取り出すと、二人で突撃する。

「はあああっ!」

二人の突撃が、モンスターを貫く。

「ぐがっ……馬鹿な」

モンスターがそのまま消えると、周りの嵐はなかったかのようにすぐに収まった。



「坊主、嬢ちゃん。本当にやりやがったのか」

町に戻ると、男が他の町人と待っていた。

「ええ、なんとか」

「風除けのマントってのが本当にあったとはなあ」

二人が外したマントを見て男は呟く。

「信じてなかったんですか?」

「いや、そうそう都合のいい物が手に入るなんて思ってなかっただけだ」

男は笑うと、他の人に呼び掛ける。

「おーし、今日は宴だ! 俺らみたいなごついのしかいないが、飲んでいけ、坊主、嬢ちゃん!」

その日、二人は屈強な男たちに囲まれ、たっぷり飲み食いさせられるのであった。