「僕は……」

コウルは元の世界の思い出と、目の前のエイリーンを比べる。そしてーー。

「……この世界に残ります」

「コウル!」

「そうか」

エイリーンは喜び、リヴェルは淡々と呟き歩き出す。

「来い。歪みを閉じるぞ」

「は、はい!」

リヴェルに続き、機械を上るコウルとエイリーン。

高い機械を上り終えるころには、機械の時間は2分を切っていた。

「魔力を集中して、あの歪みにかざすんだ」

二人は言われるまま、魔力を集中する。

「そのまま閉じるイメージを!」

「はい! ……リヴェルさんはやってくれないんですか?」

「俺は干渉してはならないんだ」

リヴェルはそれだけ言うと、カウントを指す。あと1分を切っている。

「エイリーン!」

「はい!」

二人は集中した魔力で、一気に閉じるイメージをした。
歪みが縮み消えていく。歪みが完全に消えると、そこは塔の天井に戻った。

「お、終わった……?」

「まだですコウル!」

エイリーンがすぐさま下に降りるよう促す。

そう、ここはまだ機械の上。このままいては発射に巻き込まれる。

慌てて降りる二人。リヴェルはいつの間にかその姿を消していた。

「伏せてっ!」

下まで戻ってきて二人はすぐさま伏せた。ほぼ同時に魔力砲が発射され、衝撃が走る。

「っーー!」

ふたりで互いに押さえあい、吹き飛びそうになるのをこらえる。

数秒後、魔力砲の衝撃が収まり、辺りは静まり返る。

「こ、今度こそ……?」

「はい、終わりました。……いえ、まだ終わってないかもしれません」

「え?」

エイリーンは壁のすみに倒れているカーズに近づく。

カーズはまだギリギリ息があり、消えていなかった。

エイリーンはカーズの横に転がる、宝玉を指差す。

「カーズ。あなたはそれをどこで?」

「……教えると思うか?」

エイリーンは首を横に振る。だが構わずに、宝玉を拾った。

「だ、大丈夫? そんなに普通に拾って」

「大丈夫です。もうこの宝玉に先ほどの力は感じません」

エイリーンはにこやかにうなづいた。

「ふ……すでに心当たりがあるようじゃないか。食えん女め」

カーズは吐き捨てると、そのまま消えていった。

「エイリーン。その宝玉に心当たりがあるの?」

「ええ。あまり考えたくはありませんが……」

エイリーンは少し悩む表情をしたがすぐに言った。

「戻りましょう。神の塔へ」

二人が遺跡の塔から出ると、そこにはワルキューレたちがいた。

「お疲れ様でした。コウル様、エイリーン様。エイナール様がお待ちです」

「ありがとうございます。ワルキューレ」

コウルとエイリーンはワルキューレに連れられ、神の塔へ戻る。



「よく戻りました。コウル、エイリーン」

二人はエイナールの前に跪く。

「エイリーン。無事に女神見習いとして、カーズを討伐してきました。私は嬉しく思います」

「ありがとうございます」

エイリーンが頭を下げる。

「そしてコウル。契約者として、よくエイリーンを助けてくれました」

コウルもエイリーンに合わせ、頭を下げる。

だがすぐに、エイリーンが質問をした。

「エイナール様は全てご存知なのですか?」

「というと?」

「今回のカーズの計画。そしてーー」

エイリーンは宝玉を取り出す。

「ーーこの宝玉のことも」

エイナールは躊躇いもせず頷いた。

「気づいてしまったのですね……」

「はい。あの子は……エルドリーンは?」

「もう既にここにはいません。行方はさすがに私にも……」

「わかりました。ありがとうございます。エイナール様」

エイリーンが立ち上がる。

「わたしがエルドリーンを止めてきます。姉妹として」

そう言うと、礼をしエイリーンは下がっていく。

コウルはわけのわからないまま、自分も礼をしエイリーンに続いた。

「エイリーン、どういうことなの?」

エイリーンは立ち止まり、コウルの方を向く。

「こんかいのカーズの一件。わたしの姉妹、エルドリーンが糸を引いている可能性があります」

「え!」

前に神の塔に来たときに出会った、エイリーン似の少女をコウルは思い出す。

邪神見習いと言われていたが、コウルにはそんな悪い人とは思えなかった。

「なんでそう思うの?」

「この宝玉です」

先ほどエイナールにも見せた、カーズが使っていた宝玉。

「この宝玉を使ったカーズが見せた闇の魔力。その魔力は邪神の魔力。しかもエルドリーンの魔力でした」

「邪神の……魔力……」

「エルドリーンの魔力は、わたしと同じくらい。それに姉妹です、間違いありません」

エイリーンは力強く頷いた。

「コウル。カーズの討伐は終わりました。その……次はエルドリーンを止めるため、わたしに力を貸してくれませんか?」

エイリーンは輝く瞳でコウルを見つめる。

その瞳にコウルは照れながらも頷く。

「僕はエイリーンの契約者で、こ……恋人だからね。もちろん力を貸すよ」

「ありがとうございます!」

エイリーンはコウルに飛び付く。コウルはそれを受け止め抱きしめた。

横でワルキューレが見ているのも気づかずに。

「コウル様、エイリーン様。お部屋の用意ができておりますので……」

ワルキューレはそう言ってそそくさと去る。

「……今日は休もうか」

「は、はい」

見られていたことが恥ずかしくなり、二人もささっと部屋に向かうのであった。



「で、どうしようか」

翌日、朝食を食べながら、二人は今後の予定を話し合う。

「エイナール様も行方がわからないとのことでしたので、邪神界に向かおうと思います」

「邪神界?」

聞き慣れない単語に、コウルはオウムのように返す。

「わたしたちがいるこの世界。コウルやジン様の言い方を借りるなら『異世界エイナール』は正式には『女神界エイナール』といいます」

エイリーンは語る。世界はいくつも存在し、コウルの元の世界も今の世界も、一世界に過ぎないこと。各々の世界はそれぞれの神によって守護されていることを。

「そして、邪神の地『邪神界エンデナール』。邪神見習いのエルドリーンはここにいる可能性が高いです」

「『邪神界エンデナール』……。そこにはどうやって?」

「この塔から、直接飛ぶことができます。エイナール様の許可がいりますが」

朝食を食べ終わると、二人はすぐさまエイナールのもとに向かう。エイナールはすぐに許可をくれた。

塔の一角。魔力が貯まる部屋。そこから邪神界に飛ぶことができる。

「ワープみたいなものかな」

「わーぷ?」

「ううん。なんでもないよ」

二人は魔力の貯まる床に乗る。二人の姿は魔力となり一時的に消えた。





「エルドリーン。来たようだぞ」

「はい、わかっております。エンデナール様」

邪神界の神の塔。そこにはエルドリーンと大柄な男、邪神エンデナールがいた。

「我は構わぬが、お主が姉妹であるあの女と対するのは何故か聞いておこう」

「姉妹だからこそです。私はエイリーンと対せねばならないのです」

「そうか。好きにするがいい」

「はい」

エルドリーンが去る。邪神エンデナールは不敵に笑っていた。

「来なさい、エイリーン。私があなたを……。そしてコウル。あの男を……」

エルドリーンもまた不敵に笑うのであった。