ケンタウロスの矢に倒れたコウル。

塔にエイリーンの叫びが響きわたる。

エイリーンはすぐさま、矢を抜き回復の手を掲げた。

「コウル! コウル!」

ジンの時のように、魔力がすぐさま霧散するわけではないが、コウルの傷はなかなか塞がらない。

「こんな所で死んではダメです、コウル!」

エイリーンは手をかざしながら、必死にコウルに呼び掛け続けた。



「う……ん……」

コウルの意識は闇の中にあった。

「ここは……?」

闇の中をコウルはさまよう。

すると一筋の光が照らし、コウルはそこに向かう。

「これは、川……?」

その時、コウルは思い出した。

自分がケンタウロスの矢を受けたことを。

「じゃあ、これは三途の川……なのかな?」

川を眺める。コウルの足は無意識に川に進みだしている。

「僕、死んだのか……」

「いや、きみはまだ死んではいない」

その声にコウルは驚く。コウルの視線の先にはーー。

「ジン……さん?」

カーズに斬られ、死んだはずのジンがそこにはいた。

「ジンさんがいるってことは、やっぱり僕は死んでるんじゃ……」

「いや、まだ生きている」

川にいるジンは、自分を指差すと言った。

「ここを越えなければ、まだ生きれる可能性はある。気持ちを強く持つんだ!」

その言葉に、コウルは思い出す。

そうだ、ジンさんと約束した。カーズを止めると。

そして何より、今の自分にはエイリーンがいる。こんな所で死ぬわけにはいかない。

無意識に進んでいた足が止まる。

「ありがとうございます、ジンさん」

ジンに礼を言い、コウルは振り向く。

川を逆走し、元の場所へ走る。

それを見届けると、ジンは消えていった。



「っ……」

「コウル!」

コウルが目を覚ます。エイリーンは喜びで抱きついた。

「よかった。コウル……」

「エ、エイリーン、痛いよ……」

コウルは苦笑いしながら答える。

背中の傷はまだ完全に塞がっていない。

「す、すみません」

エイリーンはすぐさま、傷の治療に戻る。

「せっかく貰った服、早速穴開けちゃったね」

「これくらいならすぐ直せます」

エイリーンは傷の治療を終えると、そのまま服にも手をかざす。魔力の光に包まれると、服の穴は塞がっていた。

「べ、便利だね」

「この服だからですよ」

女神の力で編まれた服。コウルは服を改めて見る。

矢は刺さったものの、自分が助かったのはこの服のおかげかもしれないと。

「ありがとう。……って、エイリーンもボロボロじゃないか」

コウルは、エイリーン自身にも回復するように言う。しかしエイリーンは首を横に振った。

「この力は自身には使えないんです」

「え、そうなの?」

ゲームにある回復魔法とは違う。コウルは改めて思った。

「ここで、休憩していこうか」

「え、ですが」

ここまで来て、後はおそらく、カーズを止めるのみ。

休憩している余裕があるのだろうかとエイリーンは思ったが。

「エイリーンにも万全でいてほしいんだ。何があるかわからないから」

「そうですね。わかりました」

まだ、なにがあるかわからない。

二人は今のうちに休憩することにする。

「ぬ、塗るよ?」

「は、はい」

エイリーンの回復の力のおかけで、使うことのなかった薬。それを今、使っていた。

コウルは恥ずかしそうに、エイリーンの身体に薬を塗る。女性の身体にこうやって触れるのは、コウルは初めてであった。

恥ずかしさを誤魔化すためか、エイリーンが話しかける。

「コウル。あなたは元の世界に帰りたいですか?」

「え?」

何故今そんなことをとコウルは思う。

「どうなのです、コウル」

「それは……」

コウルは考える。自分は元の世界ではあまりいい思い出がない。しかし家族はいるし、少しは恋しい思いもあった。

「でも、今は、エイリーンと過ごしたいな」

少し照れつつ、コウルは言った。

エイリーンも照れるかと思いきや、真面目な顔のままだ。

「考えておいてほしいのです、コウル。もしも、元の世界に戻るか、この世界に残るかを決めるときが来たときのために」

「う、うん」

コウルは頷く。いや、頷かないといけない雰囲気があった。

それを見ると、エイリーンは普段の笑顔を見せる。

二人はそのままつかの間の急速を取るのだった。



「では、行きましょうか」

「うん」

二人は立ち上がると、再び壁を調べ始める。

今度は分断されないように二人一緒に。そしてーー。

「あ、この壁が怪しい」

壁の一ブロックを押す。すると天井から階段が降りてきた。

「詳しいですね」

「まあ、元の世界でゲームそこそこやってたから」

「げえむ?」

「元の世界にある遊具だよ」

そう言って、コウルは階段を上る。

塔の上は迷路のようになっていた。二人は塔の中をさまよい続ける。

そして怪しい道を見つけた。

「ここかな。行ってみよう」

コウルは道を進み、そして……落ちる。

「え、うわわっ!?」

「コウル!」

エイリーンが飛び込み、光の翼を出し、コウルの手をとる。

「ありがとう、エイリーン」

「いえ、でもここは……?」

二人は部屋の中央をみる。そこには、塔の雰囲気とは違う巨大な機械。

「これは……?」

「魔力砲だ」

機械の後ろからカーズが現れる。

「カーズ……」

「よく来たな」

カーズは不敵に笑う。

「なるほど。未熟なガキと、記憶喪失女が、ずいぶん成長したようだ」

「カーズ、あなたは何をする気だ」

「聞きたいか?」

そう言いつつ、カーズは機械を触る。

「こいつは魔力砲。魔力を貯めた砲台だ。これをーー」

カーズが天を指す。

塔のてっぺん。そこは空間が歪んでいる。そしてそこにはーー。

「あれは……地球!?」

元の世界。その星、地球が映っている。

「そう、これをここから撃ち込む」

「な!?」

コウルは驚愕する。ジンが言っていた、元の世界を滅ぼす手段。まさか、こんな方法だとは。

「だけど、こんな砲台で滅ぼせるわけが……」

「並みの魔力では、町一つ滅ぼすのが限度だろう。だがーー」

カーズはエイリーンを指差した。

「そこの女の膨大な魔力。それを手に入れたことで、この砲台は完璧になった!」

エイリーンは思い出す。女神見習いとしてカーズに敗れた時のことを。

「あの時……」

「そう。貴様の魔力は奪い尽くした。驚いたよ。その貴様がまだ生きていて、まだ、魔力を持っていたことに。だが、よかった」

カーズが剣を構える。

「また貴様の魔力を奪うことができるのだから!」

カーズは機械の横から跳躍すると二人に斬りかかる。

二人は飛んだままそれを避ける。カーズは落ちるかと思われた。

「貴様ら二人の魔力を最期に、魔力砲を発射する!」

カーズは壁にしがみつくと、そのまま壁を蹴り再び剣を振るう。

二人はかわしながら下に降りる。カーズは凄まじい身体能力で壁を降りながら斬りかかる。

そしてそのまま、機械の下まで降りてくる。

そしてコウルも剣を抜いた。

「あなたを止めます。カーズ」

「やれるものなら!」

二人の剣がぶつかり合う。

元の世界の命運をかけた一戦が始まった。