「は?……ステキ?」

「だって、そうだろ? これからの未来に彼女以上に素晴らしい人に出会って、恋をするかもしれないのに。それを捨てて、彼女を選ぶって言ってるんだ。しかも、奇跡の力で彼女自身の心を変えたくないと思ってる。バカっていうか、ロマンチストっていうか、それこそ、本当の恋な気がする」

 こいつ、いちいち言葉に棘があるんだよな。人を見下しているっていうか。でも……

 あのページに映し出された、オレの願い――白猫の言っていることも、あながち間違いじゃない気がする。

 これから先、渡辺よりもっと素晴らしい、魅力ある人と出会って、恋に落ちるかもしれない。こんなオレにだって、絶対ない未来とは言えないはずだ。

 でも、渡辺への想いを今ここでなかったことにして前に進んでも、きっといつでもこの日のことを、彼女のことを思い出し、忘れることは出来ないだろう。

 そのくらい、この奇跡の本のことも、彼女への想いに気が付いたことも、オレにとっては衝撃的な出来ごとだったのだ。

 絶対、一生忘れられない。

 それはもしかして未来で好きになるかもしれない人にも、大変失礼なことな気がする。

「オレ、この願い叶えたい。くっそつまんないし、バカみたいだし、ロクでもない願いかもしれないけど。やらないで通り過ぎたくない。……実際、渡辺とこれからどうなるか分かんないけど、それは、渡辺と出掛けたあとに考えるわ」

 白猫は驚いたように、しばらくオレを見つめていたが、徐々にウンウンと頷き出した。

「……そっか、そっか! いいと思う! それにお前が、この恋を手放して、次に本当の恋に巡り会える保証もないしな!」

「おい! 一言多いぞ!」

 白猫の悪態ぶりにオレは呆れたが、自然と笑みが溢れて来た。気が付いたらオレたちは、お互いに笑い合っていた。


つづく