「うん」
「ほほう! 随分と歯切れがいいじゃないか? この前までと大違いだな!」

 白猫はニヤッと、生意気そうに口角を上げる。

「どう言う風の吹き回しだい?」
「……まあ色々考えて、色々あって……」
「まさに『男子、三日会わざれば、刮目して見よ』だな!」
「……は?」
「おいおい……まあ、あれだ。三日間というわずかな時間でも、人間は変わることができるってことだよ。さて……」

 ポンポンと白猫は赤い本を叩いた。

「決心したんだろ? さあ、開け! 今すぐ願いを叶えろ!」
「あのさ……」

 白猫のテンポの速さに、オレは半ば呆れた。オレは白猫が初めて本から出てきたときのことを思い出していた。オレをバカでマヌケだと思ってるな? そうはいくか。

「願いを叶えるために、『ほんの少しの対価を貰う』ってたしか言ってたよな? それ、なんだよ? それをちゃんと聞かないうちは、願いを叶えられない」

「……チッ! あれを覚えていたか。そこまで阿呆じゃないな、おまえさん」

 白猫は目を細め、オレを睨んできた。そう簡単に騙されないぞ。オレだって、そこまでバカじゃないんだ。
 てか今舌打ちしたな、この猫。この白猫にとって、人間に願いを叶えさせることは、かなり重要なことみたいだ。

「対価の内容を教えろよ! フェアじゃないだろう、こんなの。契約書に小さく記載されている、重要事項以上に悪質だそ!」

「くっそ、面倒だな。恋に盲目な連中は、なにをおいても願いを叶えようとするのに! ページを簡単に埋めてくれるのに!」

 ううっと白猫が唸る。あのムスメがとっとと自分の願いを叶えないから、こんな面倒なことになるんだと、白猫はぶつぶつと悪態を突き出した。

「……まあ、どってことない対価なんだ。その『恋』に心酔しきってる連中にとっては。ただおまえは……本を自分で見つけず、譲り受けただけの特殊な例だから……払いきれない対価かも?」

 オレは白猫の態度にイライラしてきた。そんなに気の長い方ではない。

「いいから、教えろ!」

「……聞いて、やっぱり願いごとをするのを止めるってのは、無しだぞ?」

 おい、それは詐欺だろ。この白猫にとって、人間が願いを叶えないことは、大変な不利益なのが、この態度で本当によく分かる。

 命でも、かかっているんだろうか?

 白猫は目を細め、オレを睨み上げながら呟いた。

「この本で『願った恋』が、最後の恋になるってことだ」


つづく