あいつらに、人の心はないのか……?

 オレはバスケットボールの入ったボールカートを体育館の備品室に運びながら、オレに体育後の後片付けを押し付けて、とっとと学食に行ったであろう、クラスメイトたちを呪った。

 確かに四限目の授業が、いかにスムーズに終わるかは、うちの生徒にとって死活問題だ。

 昼休みには、ごった返す食堂にいかに早く着くか……それは弁当を持参しない、生徒たちの生死を分けるのだ。

 早く着けば、好きなメニューを注文でき、早々に食べられる。遅ければ、遅いほど、アホみたいな行列に並ぶことになり、最悪昼メシにありつけないのだ。

 ジャンケンに負けたやつが、後片付けをする……要は、その勝負にオレは負けたのだ。飢えている男子高校生に情けなどない。

 勝ち上がったやつから順に、速攻で食堂に走って行った。

 オレだって勝ち抜けられたら、もちろんそうしていただろう。

 ……ああ……腹減った。

 本当にオレは細かくツイてないと思う。いつもこんな感じの体たらくだ。

 そのときフッと、白猫先輩の言葉が脳裏に蘇った。

『キミね……この本を手に入れるってことが、どれだけ幸運なことか分かってる⁉︎』

 ……“幸運”ね?

 そんな押し付けがましい、意味不明な幸運じゃなくて、もっと日々楽しく生きられる、“いつもちょっとツイてる”くらいの幸運で良かったのに。

 本当、人生って上手くは行かないものだ。

***

 オレは学食に行くことは諦めて、購買部を覗きに行った。運が良ければ、菓子パンくらいは残ってるかもしれない。

***

 購買部を覗くと、案の定ほとんどの食べ物が狩り尽くされたあとで、オレは絶望するところだったが、ギリあんぱん一つを商品棚の奥に見つけたときは、嬉しくてむせび泣きそうになった。

 神はまだ、オレを見捨てていなかった!

 購買部の壁時計を確認したら、昼休みの残り時間がわずかで少々焦った。

 ただ、あんぱん一つくらい食べる時間はあるだろう。オレはついでに飲み物を買おうと、購買部横の自販機に向かった。

***

 ……。

 お茶を買おうとして、イチゴミルクのパッケージが目に入り、オレは思わず息を呑んだ。

 あのときの、渡辺に貰った焼きそばパン……すげー美味かったな。

 イチゴミルクと焼きそばパンの組み合わせにツボって、笑い出した渡辺の顔が思い出される。

 自分で焼きそばパン、渡して来たくせに。まあ、間違ってイチゴミルク買ったのはオレなんだけど。

 あのとき、渡辺と昼メシを一緒に食べたのは成り行きだったし、ほんの少しの時間だった。

 ――それなのに、あのときのことを思い出すと、不思議とじんわり温かい気持ちになって来る。

 ……。

 同時に果物が好きだと、柔らかく微笑んだ彼女の表情が思い出され、胸がドキンと鳴った。

 可愛いかったな……。

 
 また、見たいな。あんな渡辺。

 オレの心にそんな感情が、素直にフワッと湧いて来た。


つづく