ここ数日の間、オレは“恋”と言うものについて改めて考えてみた。

 こんなアホみたいに、“恋”について考えてる男子高校生なんか、オレの他にいるんだろうか? ……いや、いないだろう。

 オレはそういうことに目覚めたころから、恋なんて“性欲”を体裁よく言い換えたものだと思ってた。

 とどのつまり、その相手と“やりたいか、やりたくないか”だろう?

 “恋”なんて言葉は、人間は他の動物とは違うと、言いたいがための言い訳だ。

 実際、今までオレが好きになって来た相手は、綺麗で、優しくて、華があって、大人っぽくて、スタイルがいい、まさに男なら誰もが好きになるであろう、テンプレみたいな女性だった。

 それが言うなれば“恋”だと思ってた。

 ただ、ここしばらく周りの色んな意見や、考え、はたまた今までまったく興味のなかった、恋愛映画、ドラマ、漫画なんかを見て、改めて思ったことがある。

 人の数だけ“恋”のパターンがあり、それは千差万別だと言うことだ。
 
 数行の、あんな辞書の言葉では測れないと感じた。

 そして本人が、その想いを“恋”だと認識したとき、初めてその感情は“恋”だと成立するということ。

 だから、オレのテンプレのような好みから来る、女性への興味も、あのときは“恋”だと思ってたから、恋なのだ。

 ……。

 そして渡辺明日奈への想いは、恋と認めなければ、恋じゃない――。

 オレはなにかに言い訳するように、必死にそう思い込もうとしていた。

 どうしてこんなに“恋”だと認めたくなかったのか、このときのオレには、よく分かっていなかった。

***

「おかえり」
「うわっ!」

 学校から帰宅し、自室のドアを開けると、オレの部屋の勉強机の椅子に、当たり前のように白猫先輩が座っていた。

「どこから入って!」

 白猫先輩は目を細めてニッコリ微笑むと、机の上に置かれていた、赤いハードカバーの本をツンツンと指差した。

 そうだ……こいつは人間じゃない。そして、本物の猫でもない。得体の知れないもの……

 ――願い叶えの本の管理者だ。

 オレの常識の範疇を超えるもの……

 管理者としてのこいつと出会ったときも、本からの登場だった。

「な、なんだよ?」
「なんだよ? じゃないよ。この前、説明したと思うけど、本の貸し出し期間は二週間だから。そろそろどうするのか、決まったかと思って?」

 白猫先輩は整った綺麗な顔で、薄く不気味に微笑みながら、赤い本をオレに差し出して来た。


つづく