オレは恐る恐る本のページを捲ってみた。
 
 開いたページは真っ白で、なにも書かれてはいなかった。

 ホッとしたような、少し残念なような、複雑な心境だった。

「……ほらっ」と白猫先輩に向き直ると同時に、捲られたページが輝き出した。

 輝きは文字を描きながら、そのページを踊るように動き回り――

 ついには真っ白だったページに、文章が浮かび上がったのだ。

「!」
「ほら、見ろ! やっぱり……」

 意気揚々と、白猫先輩はページを確認しようとする。

「……これは!」
「……」
「……」
「……」


「……プッ」

 白猫先輩は、我慢しきれないと言わんばかりに吹き出した。

 オレはその白猫先輩の反応に、耳の裏まで熱くなる思いだった。

 今まで生きてて、こんなに恥ずかしいと思ったことはない。

 なんだって、こんな願いが浮き上がって来るんだ! この場から出来ることなら、今すぐ消え去りたい。

 ついには白猫先輩は大声で笑い出し、その声は部屋内に響き渡った。惨めで恥ずかしいオレの気持ちを、さらに煽って来る。

「ハハハハハハハ! なんだよ、これ! 今まで、こんな願い見たことないよ! 腹よじれる! 純粋か!」

 オレはますます恥ずかしさが込み上げて、なけなしの言い訳で取り繕ろおうとした。

「ちっ、違う! これは!」
「ハハハハハ! 誤魔化さなくてもいいよ、この本に映し出された願いは『本心』だから! いや、にしてもね……こんな純粋な願いをするやつがいるなんて、創作以上だよ、キミの『恋心』!」

 “恋”と言われて、オレはうっとなった……やっぱり、そうなのか? 本当にこの気持ちが、そうなんだろうか?

「ハハハ……ゴメン、ゴメン。笑ったりして。いや、あまりにも……」
「まだ、笑ってるじゃないか!」
「そう、むくれるなって! 良いよ、すごく良い!」
「馬鹿にしてんだろ!」
「いや、馬鹿みたいに可愛い願いだとは思うけどね……ククッ……こんな物語があったって悪くない。むしろ、この本の内容に花を添えるよ。ボクは気に入った!」

 そう言いつつも、白猫先輩はときたま、笑いを堪えるように体を震えさせる。

 は! どうせ、純粋で可愛らしい願いですよ。童貞のオレには似合いだわ!

 せめてもっとかっこいい、意外性があって、突き抜けた願いが映れば良かったのにと思ったが、自分の本心がこれだと言うのだから仕方ない。

 白紙のページに、映し出されたオレの願い――それは、

『渡辺明日奈といつか一緒に、果実園リーベルに行きたい』

 と言うものだった――


つづく