「……」
青年の形の良い艶やかな唇が、妖艶に動いた。
「これで今起こっていることが、現実だって信じてもらえたかな?」
薄い金とも銀とも言えない不思議な色の、髪がサラリと揺れる。目の前の青年は宝石のように澄んだ青い眼で、こちらを見据えて来た。
……。
――事態が悪化した。
それはオレの理解の許容を、完全にオーバーする出来ごとだった。
***
「……あれ?」
オレが次に目を覚ましたとき、視界には見知った天井が広がっていた。
――オレの部屋だ。
さっきの出来ごとはなんだったんだろう? いや、どう考えても夢だ。夢に違いない。渡辺から赤い本を渡されて、ウワサの本かもと、一瞬でも思ってしまったせいだ。どうかしてる。
それにしても、いつの間にベッドに寝転んだんだろう?
オレは身を起こして、頭を振った。
「あ、起きたね」
オレはその声に、心臓を鷲掴みにされる思いだった。一気に血の気が引く。
「……まさか、気を失うなんて思ってなかったよ。こんなに適応力のない選出者は初めてだ」
その声の方へ、オレは恐る恐る視線をやった。
その声を発した青年は、椅子に優雅に腰掛け、こちらをニヤッと眺めていた。
……夢じゃない!
オレは咄嗟に叫びそうになったが、叫べないし、動けない。
青年がシィーと、自分自身の口元に人差し指を当てる。
「叫ばないで。このまま、息止めちゃうよ?」
とんでもないことを、さらっと笑顔で言って来る。それに今、とんでもない力がオレに掛かっているのは間違いない。体験したことはないが、きっとこれは“金縛り”だ。
オレは息が苦しくなって来て、なんとかウンウンと頭を縦に振った。
それを見た青年は、すうっと指を口元から離した。
すると不思議なことに、オレに掛けられた緊縛も同時に解けた。
「話を聞く気に、なってくれたかな?」
青年の微笑みは、まるで宇宙人のようだった。
……あ!
そのとき、オレはこの青年のことを思い出した。
文化部活塔に古書を届けに行ったとき、文芸部で会った先輩――
――あの人だ!
***
「あの、あなたって、文芸部で会った先輩ですよね? ど、どうしてここに! って言うか、なんで猫? っていうか、なんで本から出て来て!」
「これは仮の姿だよ。本来の姿のまま話すと、受け入れてもらえなさそうだったし。キミもこっちの姿の方が、落ち着くんじゃない?」
「そりゃ、まあ……」
まだ“人間”と話してた方が、ずいぶんとまともだろう。本来は“人間”でないとしてもだ。
「で、話は戻るけど、本から出て来た理由はワタクシ……いや、この姿のときはボクの方がいいかな? ボクがこの本の管理者の一人だから。どうやって出て来たかなんて、野暮なことを聞かないで欲しいな。世の中にはね、人間が理解出来ないことなんて、五万とあるんだよ」
「……はあ」
オレは、そう答えるしか出来なかった。
「さて、ここにいる理由については、キミがこの本を『開けたから』それ以上でもそれ以下でもない。……さすがにこの本について、説明が欲しいんじゃないかって思ってね。さて……」
白猫先輩はあの赤い本を持って、ググッとオレに迫って来た。
「さあ、次のページを捲りたまえ。そしてキミの『恋の願い』を映し出すんだ!」
つづく
青年の形の良い艶やかな唇が、妖艶に動いた。
「これで今起こっていることが、現実だって信じてもらえたかな?」
薄い金とも銀とも言えない不思議な色の、髪がサラリと揺れる。目の前の青年は宝石のように澄んだ青い眼で、こちらを見据えて来た。
……。
――事態が悪化した。
それはオレの理解の許容を、完全にオーバーする出来ごとだった。
***
「……あれ?」
オレが次に目を覚ましたとき、視界には見知った天井が広がっていた。
――オレの部屋だ。
さっきの出来ごとはなんだったんだろう? いや、どう考えても夢だ。夢に違いない。渡辺から赤い本を渡されて、ウワサの本かもと、一瞬でも思ってしまったせいだ。どうかしてる。
それにしても、いつの間にベッドに寝転んだんだろう?
オレは身を起こして、頭を振った。
「あ、起きたね」
オレはその声に、心臓を鷲掴みにされる思いだった。一気に血の気が引く。
「……まさか、気を失うなんて思ってなかったよ。こんなに適応力のない選出者は初めてだ」
その声の方へ、オレは恐る恐る視線をやった。
その声を発した青年は、椅子に優雅に腰掛け、こちらをニヤッと眺めていた。
……夢じゃない!
オレは咄嗟に叫びそうになったが、叫べないし、動けない。
青年がシィーと、自分自身の口元に人差し指を当てる。
「叫ばないで。このまま、息止めちゃうよ?」
とんでもないことを、さらっと笑顔で言って来る。それに今、とんでもない力がオレに掛かっているのは間違いない。体験したことはないが、きっとこれは“金縛り”だ。
オレは息が苦しくなって来て、なんとかウンウンと頭を縦に振った。
それを見た青年は、すうっと指を口元から離した。
すると不思議なことに、オレに掛けられた緊縛も同時に解けた。
「話を聞く気に、なってくれたかな?」
青年の微笑みは、まるで宇宙人のようだった。
……あ!
そのとき、オレはこの青年のことを思い出した。
文化部活塔に古書を届けに行ったとき、文芸部で会った先輩――
――あの人だ!
***
「あの、あなたって、文芸部で会った先輩ですよね? ど、どうしてここに! って言うか、なんで猫? っていうか、なんで本から出て来て!」
「これは仮の姿だよ。本来の姿のまま話すと、受け入れてもらえなさそうだったし。キミもこっちの姿の方が、落ち着くんじゃない?」
「そりゃ、まあ……」
まだ“人間”と話してた方が、ずいぶんとまともだろう。本来は“人間”でないとしてもだ。
「で、話は戻るけど、本から出て来た理由はワタクシ……いや、この姿のときはボクの方がいいかな? ボクがこの本の管理者の一人だから。どうやって出て来たかなんて、野暮なことを聞かないで欲しいな。世の中にはね、人間が理解出来ないことなんて、五万とあるんだよ」
「……はあ」
オレは、そう答えるしか出来なかった。
「さて、ここにいる理由については、キミがこの本を『開けたから』それ以上でもそれ以下でもない。……さすがにこの本について、説明が欲しいんじゃないかって思ってね。さて……」
白猫先輩はあの赤い本を持って、ググッとオレに迫って来た。
「さあ、次のページを捲りたまえ。そしてキミの『恋の願い』を映し出すんだ!」
つづく