「ワタクシたち『願い叶えの本製作委員会』は現在、恋を題材にしておりまして、白紙の本に、さまざまな恋の妄想……いや、夢を映しとっていく活動をしております」

「……」

「選ばれた方が、この本のページを捲るとその白紙のページに、その方の『恋の願い』が映し出されるという寸法です」

「……」

「そして、活動に協力していただいたお礼として、わずかばかりの『対価』をお支払いいただきますが、その映し出された『恋の願い』をそのまま叶えて差し上げる……ここまではよろしいですか?」

 ……。
 
 ……。

 え……?

 ちょっと、なにがなんだか、分からないんだけど?

 まずどういった仕組みで、この白猫が本から飛び出て来たのかとか、なんで猫が喋っているのかとか、この猫はなにを言い出したのかとか……

 人間って理解出来ないことを前にすると、本当にピクリとも動けないものなんだな。

 目の前の喋る白猫は、しばらくするとハアッと深い溜め息をつき、次には前脚の爪を立て、オレの頬を思いっきり引っ掻いて来た。

「ぎゃっ!」
「……夢ではございません」
「な、何すんだ!」

 頬を触ると引っ掻かれた頬から、生暖かいヌルッとしたものが伝って来た。慌てて指で触ると、赤い液体が伝っていた。

 ……!

 痛いし、現実⁉︎

「失礼しました。あんまりほうけられているのが、面倒だったもので。で、早速、ページを捲っていただきたいのですが……って、聞いてます?」

 頬からの出血に、さらに唖然としているオレにしびれを切らし、猫はやれやれとオレを憐れむように目を細めた。

「この本に辿り着いた方というのは、ある種、夢みがちなのです。心のどこかでは『奇跡』を信じてる。だから、非日常的なことが起きても、わりと受け入れられる度量があるものなのですが……アナタ、案外現実主義なんですね?」

「……」

「仕方ない。これなら少しは現実だって、受け入れて貰えるかもしれないですね」

 そう言うと、白猫の体は光り出した。その光は膨らんで、どんどん大きくなっていく。

 オレはその眩しさに、思わず目を覆った。

 網膜に眩しさを感じなくなって、オレは恐る恐る目を開けた。

 机の上には……うちの学校の制服を着た、色素の薄い青年が、足を組みながら座って、こちらに笑いかけていた。


つづく