私は果実園リーベルの店内に、訳も分からず案内され、席に着いてから、疑問に思っていたことを相葉君にぶつけた。
 
「で、なんでリーベルなのよ?」
「だって、おまえ来たいって、言ってたじゃん」
「……え?」 

 そんなこと、こいつに言ったことあったかなと、私は頭をフル回転させ、記憶を探ってみる。

 ついにそれは、相葉悠一とまともに初めて話をした、二学期初日の「初めて相葉悠一が、図書室に罰当番をやりに来た日」まで、さかのぼった。

 あ……!

『いくらくらい掛かるんだろうね~? 私、そんなお金があるんなら、果実園リーベルで、秋の新作パフェでも食べたいわ』

 ――あれだ。
 
 お金で、女を買う買わないの話をしていたときだ。
 そんなお金があるなら、新作パフェが食べたいと言った気がする。――良くそんなこと、覚えてたな?

「いや、言ったかもしれないけど……」
「それにしても、今日平日だぞ? なんでこんなに混んでるんだよ?」

 相葉君は、面白くなさそうに悪態をついた。

「休日は、こんなモンじゃないらしいわよ。店に入るまで、普通に長蛇の列になるらしいから……」

 ……はっ!

 私は相葉君のあまりにゆるい態度に、呑まれそうになってることに気が付いた。
 客が多いとか、パフェがどうとか、今、重要なのはそんなことではない。

「……じゃなくて! そんなことどうだっていいのよ! あの本、どうなったの!? 願い、叶えたんでしょ!?」

 私は堪らず、相葉君に迫った。


「……。叶ったよ」


 ……。

 叶ったんだ……。
 そうか……良かった。

 なんだろう、この気持ち。温かな、なにかがこみ上げて来るよう……嬉しい……。

 私、彼の願いに担えたのだ。

「そう……良かったわね、本当に良かった……」

 もう、なんだか泣きそうだ。
 
「……おまえさ、なにか誤解してない?」
「え?」
「オレの願いがなんだったか……誤解してない?」
「……? 綺麗なお姉さんと一発……」
「バカ! なに言い出すんだ! 声でかいよ! 違うって、そんなんじゃねーよ!」

 相葉君は慌てて、私の言葉を遮った。

「だいたい、そんな願いじゃ、叶わなかったんじゃねえ?」
「なんで、ダメなのよ? なにがいけないの!?」
「……っ! 知るかよ!」


 ……そんな……。

 一度本を見つけ出した相葉君には、使う資格があると思ったから渡したのに……。

 文芸部室で彼が見た本は、“願い叶えの本”じゃなかったの?

 いや……本を開けたんだ、やっぱり資格はあったんだわ。

「じゃあ、願いってなによ? ……なにが叶ったの?」
「……いや、その……」

 相葉君はバツが悪そうに、答えを渋っていたが、ついには観念して白状した。

「一度でいいから、渡辺とここに来たいって、願った」


つづく