ここまで来て、“開かない”なんて選択肢はないのだ。
 私は迷うことなく“開く”ことを選択しようとした。

 そのとき頭の奥で、私を呼ぶ声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。

 なんで? ……なんでこんなときに、あんたの声なんか!

 やめて! やめてよ!

 私の邪魔をしないで!

***
 
 しばらくして、百花が高橋先輩と別れた。
 そのことは途端に、学校中のウワサになった。
 百花は食事が喉を通らないほど激しく落ち込み、憔悴し、学校に来ない日が続いたが、私は毎日毎日、百花の元へ通い、なにをおいても献身的に彼女を慰めた。
 
 彼女の涙は、私にとって一番の宝物。
 彼女の悲しみは、私をこの上もない幸せに導き、彼女が立ち直っていくさまを見ることは、私のすべてだった。
 
 彼女はこの先、何度も誰かを好きになり、愛されて、幸福になり、いずれは別れて、何度も悲しみの涙に耽るだろう。
 
 私はそんな彼女を、これから先の人生、命尽きるまで、見守っていけるのだ。

 ――なんて幸せだろう。
 
 これからも、ずっと、ずっと、ずっと……
 
『私を選んでくれなくていい……でも、誰のものにもならないで』

 これが、私が願った『幸せ』の形。


 ……ただ、ときたま思い出す。あの“声”のことを。
 もし、あのとき、あの声に耳を傾けていたら……

 ほんの少しだけ、そう思うことがある――


つづく