「食料を奪って、大切な人に与えるわ」
「それは他人を犠牲にしても……という意味かね?」
「そうよ」
「なんともワガママで、自己中心的で、短絡的だね。実に『人間』らしいよ」
 
 タマゴのお化けは、自分の背中から黒く艶やかなステッキを取り出すと、それを地面に突き立てた。ゆっくりとステッキが倒れる。
 
「こっちに行くといい」

 ――え?

「運命がそう言っている」
 
***
 
 半ば呆れつつも、私はステッキの指示す方に進んだ。
 フッ……“運命”ね。もし私が、本に辿りつける運命だとしたら……こっちの道は、正しいということだ。

 そして私には、この先なにが待ち受けているか、だいたいの見当がついていた。

 ライオン、一角獣、白いナイト……きっとこんな感じに違いない。

 そう、私はあることを思い出したのだ。
 
***

 指し示された方向へ、しばらく森の中を歩いていると、涼やかな美しいせせらぎが聞こえて来た。

 そういえば、どれだけ歩いただろうか? 足はパンパンで喉はカラカラ……

 私は音のする方へ重い足を引き摺り、必死に歩いた。
 
***

 気が付けば、鬱蒼としていた森を抜けていた。ここは木々がまばらでだいぶ見通しがいい。
 先ほどから聞こえていた、せせらぎの音を生み出す渓流に出たようだ。
 
 川上の岸辺に、二つの影が見える。

 もしかして……
 私はそっと、その影に近づいた。
 
 ライオンと一角獣が王冠を中央に据え、全力疾走した後のように、息を切らせ倒れていた。

 いや、実際走り回っていたのだろう、その王冠を巡って。
 
 確かに……こんな……感じだった。
 
「おやつの時間だから、ちょっと休憩だ」
「そうしよう……だが、肝心のお菓子がない」

 そう、いまさらライオンが喋ろうが、一角獣が喋ろうが、私は驚かない。

「そこのお嬢さん、ポケットからいい匂いがする……お菓子を、持っているんじゃないのかい?」
「え? 私、お菓子なんて、持ってな……」

 そう答えながら、私はスカートのポケットを弄ってみた。
 
 ……あ。

 さっきまで手紙が入っていたはずなのに、いつの間にか飴玉に替わっている。

 ……一体、いつの間に?

「おお!! キャンディーじゃないかね!」
「それをくれたら、いいことを教えてあげよう!」

 ……!
 来た!

「差し上げます」
 
「おお! プラムキャンディーだ」
「これは美味いな!」

 ライオンと一角獣は幸せそうに、キャンディーを頬張っていた。

「それで、なにを教えてくださるの?」
 
「貴方の大切な人は、悪魔に目玉をえぐられてしまいました」

「貴方ならどうする?」
 

つづく