「一緒について行くわ」

　私は迷うことなく、そう答えた。
　
「貴方は愚かしいほど『勇気』のある人ね。若さ……ってやつなのかしら？」
「若さと言うより……女だからと思います」
「そうね、女はいくつになっても、そうでなくてはいけないわね。教えられたわ」

　そう、ヒツジはニッコリと答えた。
　
＊＊＊
　
　老眼鏡のヒツジが、ふわっと消えたかと思うと、お店の売りものすべて……というか、テーブルも椅子も山小屋の壁や天井さえも、すべて木になってすくすく伸びていくのだ。

　まるでジャックと豆の木の「豆の木」のごとく、尋常じゃない速さで成長していく木々たち。

　その木々たちを、なにも出来ずにオロオロと見守っていると、しまいに私の周りは、すっかり森に変わってしまった。

　ただ一つを除いて。

　その一つとは小さなタマゴ。当然そのタマゴも、木に変わるのかと思いきや、その形のまま徐々に大きくなって、ニョキッ、ニョキッと手と足が生えてきた。
　
　どこかで、会った気がしていたのだ。
　オニユリも、赤バラも、子ジカも、老眼鏡のヒツジにも……。

　目の前に立っている、大きなタマゴのお化けを見て確信した。
　
　タマゴのお化けは、腹の底に響くような重々しい声で歌い出す。
　私のことなど目に入ってないようで、気持ちよさそうに長々と歌い続けた。
　
＊＊＊
　
　タマゴのお化けは歌い終わると、大きく深呼吸をした。

「名前と用事をおいい」
「!?　……アスナ。渡辺明日奈ですけど」
「ずいぶん、ヘンテコな名前だねえ？」

　むっ……。

「……用事は、願いが叶う本を探しているんです」
「ああ。なんかそんな感じの本、あったねえ。あんなものが欲しいのかい？　変わってるねえ」
「変わって……ますか？」
「変わっているよ。例えばね、おまえたちは、雪山に遭難しました。おまえの大切な人は、お腹を空かせて死にそうです……」
　
　……やっぱり来たか。
　
「……雪山には他にも人がいて、そいつらはなけなしの食糧を持っている。だが、頼んでも、食糧を分けてくれない。……お前なら、どうするんだい？」
　
　……。

　そんなの、答えは決まってる。

　私はタマゴのお化けを、鋭く睨んだ。
　

つづく