「諦めないわ!」

 私は、今度は迷うことなく即答した。


 ――今度? 

 以前にもこんな質問を、どこかでされた気がする。
 そんなことを考えていたら、赤いバラがウキウキと話し出した。
 
「あら素敵! その一途な『情熱』、嫌いじゃないわ」
 
 赤いバラは、風もないのに陽気に揺れた。
 
「あの小高い丘を、ずっと進んだところにね、森へ行く汽車があるの。森の向こうに、なにか赤くて、不思議なものがあるって話よ? アテがないなら、行ってみたらいかが?」
 
 そのままずばり、本のある場所へは辿りつけないようだ。
 これじゃまるで、アドベンチャー、もしくはロールプレイングゲームね。

 ――面白いじゃない!

 いつもの私なら、もっとクールに無感動に行動できるはずなのに、すっかりヤケになっていた。

 クール? 無感動? ……最近の私は、そうでもなかったか。
 
***
 
 行けども行けども花畑。
 周りの景色が、まったく変わらない。
 
 まるで景色が、ループでもしているようだと思った。

 本当に汽車なんて、運行しているんだろうか?
 あんな植物の言葉を、真に受けた自分に後悔していたころ、丘を登りきったところから向こう側は、清々しく青い草原が広がっていた。

 花の甘い香りにウンザリしていた私は、一気に丘を駆け下りた。

 加速した足は止まらず、息が切れるのも構わないで、滑るように草原を走った。

 途中ですっ転んでしまい、膝と肘を強く打ちつけてしまった。

 でも気にならない。そのまま草原にしばらく仰向けで、倒れこみ空を眺めていた。

 澄み切った青い空に、白く輝き流れていく雲……。
 
 ずっと……ずっとこんな風に、寝転んでいれたらいいのに。

 ――悲しいほどそう思った。

 でもそうはいかないのだ。仰向けの顔を仰け反らせてみると、キラッと何かが輝いた。向こうに銀色の線が二本確認できた。
 
***

 銀色の線はやはり線路で、それに沿って歩いていくと、しばらくして小さな山小屋風の駅が見えた。

***

 小さな駅にたどり着くと、レトロで重厚な黒い汽車が停まっていた。

 蒸気機関車というやつだろうか? 初めてホンモノを見た。

 博物館などでは見たことがあるが、こうやって煙突から煙をモクモクと上げている姿をみるのは、初めてだ。

 すごい……圧巻だ。
 
 驚いたことはそれだけではない。機関室後方の車内は満員だった……動物や昆虫で。
 あまりぞっとしない光景だ。だが私は恐る恐る車内に乗り込み、空いている席に腰掛けた。

「切符を拝見!」

 ビクッとしてしまった。……切符? やっぱり、切符がいるのか。切符なんて持ってないし、お金だってない。どうしよう……。

「お客さん、切符は?」

 車掌が苛立たしげに尋ねた。

「あ……切符は、その……」
「なんだい、持っているじゃないか。それ、そのスカートからはみ出している、赤いの」
「え?」

 指差された先……今朝ロッカーに入っていたあの赤い手紙が、スカートのポケットからその姿をのぞかせていた。

「え……でも、これは……」
「いいから、早く!」

 私はためらいがちに、手紙を差し出した。
 車掌は事務的に手紙に判を押し、次の客の切符を確認していた。

 切符って……これでいいの?
 
***
 
 車窓の向こうに流れる景色は、どこまで行っても静かで退屈な平原で、私はウトウトしながら、それをただただ眺めていた。

 しばらくすると、私は浅い眠りについていた。


つづく