あまりの眩しさに、私は目を閉じてしまった。

 眩しさを瞼に感じなくなって、私が薄らと目を開ける……

 さまざまな色彩が目に飛び込んで来ると同時に、芳しい香りが鼻腔をくすぐった。

 その香りにつられて、私は完全に瞼を開ける。

 ――そこには
 
 鮮やかな花々が、どこまでも広がっている。
 
 ――そこは、広大な花園だった。

 色とりどりの花たちが無造作に生える、むせ返る香りを放つ花園……。

 こんな素晴らしい花園は、見たことがない。昔、国営ひたち海浜公園のネモフィラ畑を、写真で見たことがあるが、それ以上の景色かもしれない。

 さっきまで図書館だったのに、目を開けたらそこは花園だなんて、デタラメもいいところだ。

 まさに“願いが叶う本”などという、奇天烈な本を探すのに、うってつけな異常さ……といったところだろうか?

 地平線の向こうまで花畑……一体自分は、どうしたらいいんだろう?

 この花畑の中に、本が隠れているとでもいうのか?
 
 私はこのだだっぴろい、花園の中で途方に暮れた。移動するにも、どちらに行ったらいいものか?

 案内板でも、立っていてくれればいいのに。
 それともこれも、謎解きなのか?

 ここに無駄に、沢山ある花のどれか一つでも、ヒントになればいいのに……。

「これはヒナギク、これはヤナギ、これはオニユリ……」

「気安く、名前を呼ばないで頂戴!」
「⁉︎ ……な、な、な」
「なにが言いたいのよ? 人間って、まともに話もできないのね!」

「……花が喋ってる……」
「馬鹿にしてるの!? 話くらいできるわよ!」

 頭……痛い。この先を進む自信がなくなってきた。
 いや。こんな程度で、めげているわけには行かないのだ。花が話すくらいなんだ!

「ねえ、あなた、願いが叶う本って知らない?」
「本? 知らないわよ、そんなもの」

 一蹴された。

 ……がっかりだ。花が喋るくらいだ、奇跡の本だって、すぐ傍にあるんじゃないかと、思ったって無理ないでしょう?

「それってもしかして……赤い?」

 少し離れたところに咲いていた、赤いバラが答えた。

「ワタシ、赤いもののウワサには目がないのよ」
「どこにあるか、知ってるの!?」
「ワタシの質問に答えられたら、ウワサのこと教えてあげる」
「質問? ……いいわ」
 

『貴方の大切な人は、貴方ではない誰かを想っています。どうしますか?』
 
 ……!?

 これは……これは、ただの質問ではない。
 本が私を試しているんだ。
 
「貴方ならどうするの? ……諦める? それとも、諦めない?」

 バラが艶やかに輝きながら、私に問いかけた。


つづく