つらい現実から目を逸らすべく、オレは日の傾きかけた、窓の外に目を向けた。

 窓から、運動部の練習風景が見える。
 さまざまな人間たちが、思い思いに動き回っていた。あるやつは大声を出し、あるやつはそれに応えている。
 一つ一つの目標に向かって、真っ直ぐ進んでいるように見えた。

 夕暮れに染まる彼らは、青臭い言い方だが、キラキラ輝いていた。

 やつらの汗だろうか? 若さだろうか? ほとばしる肉体?
 きっとスポーツをしているやつらは、それだけで美しくて、稀有な存在なんだ。

 同じ人間なのに、オレとはまったく別な生き物に見える……
 
 自分が、惨めでちっぽけな人間であると言われているようで、いたたまれず、オレは視線を無理やりグラウンドの奥の方にある、女子のテニスコートに視線を移した。
 
 別の意味で、キラキラ輝いていた。
 ――眩しかった。
 
 ラケットを振りぬく時に揺れる、柔らかそうな胸、スコートからのぞく、白くてみずみずしい脚……
 
 あー、あいつら、やらせてくれないかな?
 
「相葉君! 聞いてる!?」

 オレのピンクな妄想世界を、黄色いヒステリックな声が打ち破った。
 ヒステリック放送局は、眉間に皺を寄せて、オレを睨んでいた。
 
「なんだよ?」
「ぼーとしてないでよ。やる気あるの?」

 ないよ! 全然!
 
 オレは渡辺に向き直って、逆に睨みつけてやった。

「で、なにやればいいわけ? 言ってくんなきゃ、分かんないじゃん!? あのさー、オレこれでも忙しいんだよねー? このあと、用事あるしさ、さくっと指示してくれない!?」
 
 オレは、今日起こったすべてのイラツキの原因が、目の前にいる、渡辺のせいだと言わんばかりに捲くし立てた。

 怒鳴ったあと、少し後悔した。

 確かに渡辺のヒステリックな声は、オレをイラつかせた、ワンオブ原因ではあったが、すべての責任はオレにあって、渡辺のせいではない。

 単なる八つ当たりだった。
 
 渡辺は、さほど大きくない目を丸くしていた。
 
 ……やばっ! 

 泣かれたりでもしたら、厄介だ!
 女ってもんは、やたら泣くものだ。
 
 ――だが、そんな心配は無用だった。

 渡辺の目は、すぐに通常の大きさに戻ると、そのまなざしは机の上の書類に向かった。
 
「……用事? また理科室で、お友達と猥談(わいだん)?」
 
 今度はオレが、目を丸くする番だった。
 

つづく