「渡辺」
「ああ……今日は早いじゃないの」
 
 ビックリした。
 
 遅刻魔の相葉君が、定刻より早く図書室に来るなんて……。
 
 どうしたの?
 
 心を改めて、罰当番真面目にやる気になったのかしら?
 でも今日は委員会の人、出揃ってるのよね。
 間が悪いやつ……。
 
「古い本を棚から下ろすの、手伝って欲しかったんだけど、今日は他にも人手があるから。ちょっとお使い、頼まれて欲しいのよ。それ済んだら、今日はもう帰っていいわ」
 
***
 
 その日は図書委員会総出で、新書古書の整理作業が大幅に進められた。

 図書室利用は一時停止。普段静かな図書室が、お祭りのように賑わった。
 なかなか、お目にかかれない光景だろう。

 作業中、女子生徒たちの会話に、あの願い叶いの本のウワサが持ち上がったときには、ドキッとした。

 うちの学年だけでなく、学校全体の女生徒の間に広まっているようで、百花のことも話題になり、ぞっとした。女の情報網って本当にすごい。そして怖い。

 だけどさすがに、その本を見つけたという人間は、この中にはいないようだった。
 
***
 
 書籍整理担当責任者の一人の私は、作業の進行状況を確認するべく、他の委員の人たちが帰った後も、図書室に残っていた。

 窓の外はもう薄暗い。
 気が付けば、その日もいつも通りに遅くなっていた。


つづく