「なんか悪いな……」
「いいわよ別に。私もさっき先生から貰っちゃって、実は困ってたから」
「渡辺、焼きそばパン嫌いなのか?」
「別に嫌いじゃないわよ。でも私、お弁当だし」
相葉悠一が、お腹をすかせた小動物みたいに見えてしまって、ついつい昼食に誘ってしまった。
だって、あまりに哀れなんだもの。
焼きそばパンを、あげた私が言うのもなんだけど、焼きそばパンとイチゴミルクの組み合わせって、どうなんだろう?
まだ女子だったら、可愛いかったかもしれないが、その組み合わせを握り締めているのは、相葉悠一。滑稽だ。
う……だめ……可笑しい……ツボ入った。
「え?」
「だって、焼きそばパンにイチゴミルクって……ククク……」
「いいよ、もう食えりゃ! 朝飯も食ってないし、文句なんかいってらんねーよ」
「朝ご飯食べてないの?」
「食ってる暇なかった……起きたらもう九時過ぎててさ……」
九時って……まともに学校来るつもり、あるのかしら?
じゃあ、起き抜けから、なにも食べてないわけだ。
「そんなので大丈夫なの? 学食は?」
「……は? だって、学食混んでるじゃん? 買うまですごい並ぶし、座れないしさ……外に持って行って食うと、食器戻すのたるい」
「……そうなんだ?」
「学食に行ったことないのか? まあ、弁当なら必要ないもんな」
「え……うん。まあね」
入学したてのころ、お昼に百花と食堂に行ったことがあったが、入り口からすでに、ありえない混み方で、あれ以来行っていない。
特に百花は混んだところが苦手で、購買部の調理パン争奪合戦も壮絶過ぎて、じゃあ、お弁当にしよっか? と今に至る。
相葉君には図書委員の仕事も昼休みにやってるしと、適当に誤魔化した。
今は私一人だから、本当のところ食堂も購買部も頑張れば、なんとか行けなくもないのだ。
はあ……。やめよう、こんなことを考えるのは。
目の前の相葉悠一は、あっという間に、焼きそばパンを平らげてしまった。
みごとな食べっぷりだこと。朝から食べていないんじゃ無理もないか……。
「それじゃ、せめてこれも分けてあげるよ」
私はお弁当とは別に、持って来ていたリンゴの入ったタッパを差し出した。
相葉君は明らかに身を引いた。挙句、慌てて周りを見回しはじめた。激しく挙動不信。
果物を嫌いな人がこの世にいるなんて、私には信じがたいが、そういえば親戚の叔母さんにリンゴの苦手な人がいた。あのシャリッとした食感がどうにもダメらしい。無理に食べると、咽喉に蕁麻疹が出来るという筋金入りだ。
自分の嗜好を、他人に押し付けるのは大変危険だ。……油断していた。
相葉君もこんなナリだけど、繊細な部分があるのかもしれない。
申し訳なくなって来て、リンゴが嫌いなのかと聞いてみたが、相葉君はちょっと間をおくと、リンゴを爪楊枝で取り上げた。
相葉君の手は、意外に節くれだっていて、その仕草が堪らなくミスマッチで、噴出しそうになってしまった。
「果物好きなのか?」
……え……
「うん。大好き。果物ならほとんどなんでも。あ、でもドリアンとかは、食べたことないけどね?」
……あ。
なに馬鹿みたいに、素直に答えてるんだろう、私。
急に、気恥ずかしくなって来た。
相葉君は持っていたリンゴを、軽々と一気に口へ放った。
見事な食べっぷり。
それを見ていると、何故だか心が温かくて、むず痒くなった。
つづく
「いいわよ別に。私もさっき先生から貰っちゃって、実は困ってたから」
「渡辺、焼きそばパン嫌いなのか?」
「別に嫌いじゃないわよ。でも私、お弁当だし」
相葉悠一が、お腹をすかせた小動物みたいに見えてしまって、ついつい昼食に誘ってしまった。
だって、あまりに哀れなんだもの。
焼きそばパンを、あげた私が言うのもなんだけど、焼きそばパンとイチゴミルクの組み合わせって、どうなんだろう?
まだ女子だったら、可愛いかったかもしれないが、その組み合わせを握り締めているのは、相葉悠一。滑稽だ。
う……だめ……可笑しい……ツボ入った。
「え?」
「だって、焼きそばパンにイチゴミルクって……ククク……」
「いいよ、もう食えりゃ! 朝飯も食ってないし、文句なんかいってらんねーよ」
「朝ご飯食べてないの?」
「食ってる暇なかった……起きたらもう九時過ぎててさ……」
九時って……まともに学校来るつもり、あるのかしら?
じゃあ、起き抜けから、なにも食べてないわけだ。
「そんなので大丈夫なの? 学食は?」
「……は? だって、学食混んでるじゃん? 買うまですごい並ぶし、座れないしさ……外に持って行って食うと、食器戻すのたるい」
「……そうなんだ?」
「学食に行ったことないのか? まあ、弁当なら必要ないもんな」
「え……うん。まあね」
入学したてのころ、お昼に百花と食堂に行ったことがあったが、入り口からすでに、ありえない混み方で、あれ以来行っていない。
特に百花は混んだところが苦手で、購買部の調理パン争奪合戦も壮絶過ぎて、じゃあ、お弁当にしよっか? と今に至る。
相葉君には図書委員の仕事も昼休みにやってるしと、適当に誤魔化した。
今は私一人だから、本当のところ食堂も購買部も頑張れば、なんとか行けなくもないのだ。
はあ……。やめよう、こんなことを考えるのは。
目の前の相葉悠一は、あっという間に、焼きそばパンを平らげてしまった。
みごとな食べっぷりだこと。朝から食べていないんじゃ無理もないか……。
「それじゃ、せめてこれも分けてあげるよ」
私はお弁当とは別に、持って来ていたリンゴの入ったタッパを差し出した。
相葉君は明らかに身を引いた。挙句、慌てて周りを見回しはじめた。激しく挙動不信。
果物を嫌いな人がこの世にいるなんて、私には信じがたいが、そういえば親戚の叔母さんにリンゴの苦手な人がいた。あのシャリッとした食感がどうにもダメらしい。無理に食べると、咽喉に蕁麻疹が出来るという筋金入りだ。
自分の嗜好を、他人に押し付けるのは大変危険だ。……油断していた。
相葉君もこんなナリだけど、繊細な部分があるのかもしれない。
申し訳なくなって来て、リンゴが嫌いなのかと聞いてみたが、相葉君はちょっと間をおくと、リンゴを爪楊枝で取り上げた。
相葉君の手は、意外に節くれだっていて、その仕草が堪らなくミスマッチで、噴出しそうになってしまった。
「果物好きなのか?」
……え……
「うん。大好き。果物ならほとんどなんでも。あ、でもドリアンとかは、食べたことないけどね?」
……あ。
なに馬鹿みたいに、素直に答えてるんだろう、私。
急に、気恥ずかしくなって来た。
相葉君は持っていたリンゴを、軽々と一気に口へ放った。
見事な食べっぷり。
それを見ていると、何故だか心が温かくて、むず痒くなった。
つづく