【九月三日(水曜日)】
 
 ここ最近百花は、ナントカ先輩と一緒にお昼ご飯を食べている。
 
「一緒に」と誘われたが、冗談ではない。
 
 さらにナントカ先輩が、それを後押しして来たときには、はらわたが煮えくりかえった。

 どう言う神経をしてるんだろうか? 人の気持ちを想像できないと言う点では、お似合いの二人なのかもしれない。

 もしくは社交辞令だろうけど、それだとしても大きなお世話だ。
 
 丁重にお断りした。

 三人で並んで昼食を食べている情景を想像してみる――背中に悪寒が走り、凍りつく気がする。

 クラスの女子の輪に入り、お昼ご飯といった気にもなれなかった私は、昼食は一人、図書室で食べることにしていた。
 
 図書室の窓から見える校庭には、部活動のときとは違った賑やかさがあった。

 お昼休みを、賑やかに過ごしている生徒たちを見下ろしていると、昔、点呼のとき、名前を呼ばれ忘れたことを思い出すのだ。

 まるで自分が世界から切り離され、世界の傍観者にでもなったような、あの感覚。
 
 人間がちっぽけに見え、哀れで、可笑しくて、神様にでもなった気分だ。
 世界から度々排斥されて来た私には、ピッタリのポジションだ。
 
 私はいつもの、そんな図書室からの情景を思い浮かべながら、廊下を歩いていた。 
 図書室に行く前に、いつも通り飲み物を買うべく、購買部へ向かった。

***
 
 うちの学校の購買部は、文房具やジャージなんかの他に、飲み物やアイス、弁当、菓子パンや調理パンなども売っていて、ランチタイムには食堂同様、生徒たちに大人気だ。
 
 その購買部横には、割安価格の自販機が備え付けられている。
 
「……」
 
 なに……やってるのかしら?

 相葉悠一が、自販機の前で突っ立っている。
 本当に突っ立つのが好きな男ね。

 っていうか、いつまで立ってるつもりかしら?
 
 ……邪魔なんですけど。
 
「早くしてくれない?」
「……渡辺」
「飲み物一つで……優柔不断ね」
「うるせーよ。ちょっと待ってろ!」
 
 そう言いながら相葉悠一は、確認もせずに自販機のボタンを押した。出て来たのは、イチゴミルクだった。
 
 ぷっ……。

 こんなにコイツのイメージに、合わない飲み物もないだろう。

 あ……それどころじゃなかったわ。

 どいて! と相葉悠一を押しのけて、私は自販機に小銭を押し込み、ボタンを押した。

 爽健美茶がゴロンと落ちて来ると同時に、奇妙な音か周りに響き渡った。

 間抜け過ぎて、それが相葉悠一の腹の音だと気がつくのに、しばらく時間を要した。
 
 なんていうタイミング……。
 
 一気に力が抜けてしまった。この男の行動は、平気で私の予想を超えて来る。
 

つづく