「ねえ、知ってる?」
「……あのウワサこと?」
「そうそう」
「学校内のどこかにある……」
「不思議な本……」
「選ばれた者にしか、見つけられない……」
「信じる者にしか、開けない……」
「『恋』の願いが叶う、不思議な本――」
***
あの涙を見たときから、彼女はいつも、私の世界の中心にいた――
***
「明日奈ちゃん、どうしよう! 信じられない、あたし、あたしね……先輩に告られちゃった!」
夏の熱気の中に響いていた、ミンミン蝉の鳴き声が、私の脳髄の中まで侵入して来たようだった。
次第にその音は、大きくなっていく。
視界も大きく歪み、白くなっていった。
――息ができなかった。
「絶望」という言葉が、心に染み渡っていく。
一人娘を嫁にやるときの、父親の絶望なんかより、きっともっと深い絶望だ。
ただその絶望感は、長くは続かなかった。
「これ、絶対あの本のおかげよ! もー、信じられない、すごいよ!」
次には、願いが叶うというウワサの本に、巡り合ったと来たもんだ。もともと、天然不思議系キャラの部類ではあると感じていたけれど、ここまでとは思わなかった。
こっちが、突っ込みを入れる間さえ与えずに、マシンガンのように捲し立てる彼女を見ていると、絶望はみるみる心配に侵食されていく。
本当に如何なるときでも、私を驚かせ、私を振り回す女だ、城内百花という人間は。
つづく
「……あのウワサこと?」
「そうそう」
「学校内のどこかにある……」
「不思議な本……」
「選ばれた者にしか、見つけられない……」
「信じる者にしか、開けない……」
「『恋』の願いが叶う、不思議な本――」
***
あの涙を見たときから、彼女はいつも、私の世界の中心にいた――
***
「明日奈ちゃん、どうしよう! 信じられない、あたし、あたしね……先輩に告られちゃった!」
夏の熱気の中に響いていた、ミンミン蝉の鳴き声が、私の脳髄の中まで侵入して来たようだった。
次第にその音は、大きくなっていく。
視界も大きく歪み、白くなっていった。
――息ができなかった。
「絶望」という言葉が、心に染み渡っていく。
一人娘を嫁にやるときの、父親の絶望なんかより、きっともっと深い絶望だ。
ただその絶望感は、長くは続かなかった。
「これ、絶対あの本のおかげよ! もー、信じられない、すごいよ!」
次には、願いが叶うというウワサの本に、巡り合ったと来たもんだ。もともと、天然不思議系キャラの部類ではあると感じていたけれど、ここまでとは思わなかった。
こっちが、突っ込みを入れる間さえ与えずに、マシンガンのように捲し立てる彼女を見ていると、絶望はみるみる心配に侵食されていく。
本当に如何なるときでも、私を驚かせ、私を振り回す女だ、城内百花という人間は。
つづく