【九月五日(金曜日)】
「……」
「……」
「あのさ……」
「何?」
「……機嫌、悪いみたい」
「オレはいつもこうだよ」
「……怒ってる?」
「別に」
「……」
「……」
その日は図書室の棚卸作業。
新しく作った分類表通りに新書を入れるため、古書を移動させるのだ。
オレは機械作業のように、渡辺に言われた通り本を渡し、本を受け取って書籍ワゴンに詰めていった。
「昨日はごめん。ちょっと用事があって……百花から聞いた。私のこと探してたんだって?」
刺すような痛みが、オレの胸に走った。
「……それで、怒ってるんでしょ? 悪かったわよ。謝るわよ」
「……なに……してたの?」
「え?」
「用事ってなに?」
「……いや別に……相葉君には関係ないよ」
渡辺はバツが悪そうに、顔を背けた。
でも、まったくその通りだろう。オレには確かに関係ない。
渡り廊下で前日見た、渡辺とあの男の情景が、鮮明に頭に浮かんでくる。
その通りなだけに、本当なことなだけに、悔しくなった。
昨日から必死に抑えていたなにかが、オレの体から飛び出した。
次には、渡辺の二の腕を掴んでいた。
渡辺は簡単によろめいて、バランスを崩す。
どんなにオレをイラつかせようが、軽い、弱い……女なんてこんなもんだ。
「キャア!」
「……っ!」
「……」
「……」
図書室の一番奥。
……誰もいない……オレたち以外は。
天井にオレンジ色の光が、微かに照りだされている。
気が付いたらオレは、簡単に渡辺を図書室の床に押し倒していた。
オレを見つめる、渡辺の見開かれた瞳。
その下には形の良い鼻と、薄く艶やかな唇。
シャツの裾から伸びる白い腕。
床に広がる黒い髪。
細い喉元。
規則的に上下する、控えめだけど柔らかそうな膨らみ……
形のよい渡辺の唇が、かすかに、でもはっきりと動いた。
「私と……したいの?」
つづく
「……」
「……」
「あのさ……」
「何?」
「……機嫌、悪いみたい」
「オレはいつもこうだよ」
「……怒ってる?」
「別に」
「……」
「……」
その日は図書室の棚卸作業。
新しく作った分類表通りに新書を入れるため、古書を移動させるのだ。
オレは機械作業のように、渡辺に言われた通り本を渡し、本を受け取って書籍ワゴンに詰めていった。
「昨日はごめん。ちょっと用事があって……百花から聞いた。私のこと探してたんだって?」
刺すような痛みが、オレの胸に走った。
「……それで、怒ってるんでしょ? 悪かったわよ。謝るわよ」
「……なに……してたの?」
「え?」
「用事ってなに?」
「……いや別に……相葉君には関係ないよ」
渡辺はバツが悪そうに、顔を背けた。
でも、まったくその通りだろう。オレには確かに関係ない。
渡り廊下で前日見た、渡辺とあの男の情景が、鮮明に頭に浮かんでくる。
その通りなだけに、本当なことなだけに、悔しくなった。
昨日から必死に抑えていたなにかが、オレの体から飛び出した。
次には、渡辺の二の腕を掴んでいた。
渡辺は簡単によろめいて、バランスを崩す。
どんなにオレをイラつかせようが、軽い、弱い……女なんてこんなもんだ。
「キャア!」
「……っ!」
「……」
「……」
図書室の一番奥。
……誰もいない……オレたち以外は。
天井にオレンジ色の光が、微かに照りだされている。
気が付いたらオレは、簡単に渡辺を図書室の床に押し倒していた。
オレを見つめる、渡辺の見開かれた瞳。
その下には形の良い鼻と、薄く艶やかな唇。
シャツの裾から伸びる白い腕。
床に広がる黒い髪。
細い喉元。
規則的に上下する、控えめだけど柔らかそうな膨らみ……
形のよい渡辺の唇が、かすかに、でもはっきりと動いた。
「私と……したいの?」
つづく